爆発物探知機
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爆発物探知機とは爆薬の存在を検出する装置全般を指す言葉である。
爆発物を探知する方法は大きく分けて二種類ある。
爆発物から出る揮発性のガスを採取する方式
爆薬から出る揮発性ガスには主に以下のようなものがあるが、爆薬以外にもこれらの揮発性ガスを発する物があるため、誤動作しやすい、蒸気圧が低くガスが出にくい爆薬を探知しにくいという欠点を持つ、この問題点を解決するために、現在では爆薬には全て製造時点で爆発物マーカーを添加することが義務化している。
- 爆発物マーカーとして爆薬に添加することが法律で義務化されている物質のガス
- ニトロセルロースとニトログリセリンなどから出る二酸化窒素のガス
- 黒色火薬や硝安油剤爆薬などから出る二酸化硫黄のガス
- 過塩素酸塩を基剤とするカーリット爆薬などから出る塩化水素のガス
- 以下の装置がこの方式である。
- 科学反応式
- 電子捕獲型検出器
- イオン易動度分光測定式探知器
- 広義の意味では爆発物探知犬もこの分類に含まれる。
対象物の構成元素を調べる方式 確実ではあるが、非常にコストが高く、取り扱いも難しい。
- 中性子後方散乱式爆発物探知器
- 電子線マイクロアナリシス分析器
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[編集] 科学反応式
- 爆薬から出る揮発性ガスと反応する試薬を用いる。
- 利点
- 低コストで小型軽量
- 欠点
- 使い捨て式なので大量の検査には不向き
- 爆薬の種類ごとに試薬が必要であり、希ガスを試薬に取り込ませるために手間がかかる。
- 感度があまり高くないため、蒸気圧の低いRDXなどの爆薬を検出することが困難である。
[編集] 電子捕獲型検出器
- イオン易動度分光測定式爆発物探知器が実用化される以前に用いられていた。
- 半透膜等を通して空気を吸入する等単純な濾過装置を経てニッケル-63をベータ線源とした検出器がダイナマイトから出る揮発性ガスに選択的に反応する
- 利点
- ニトログリセリンなどのニトロ化合物に対して感度が良く、通常の有機化合物には反応しないなど選択性が高い。
- 装置の構造が簡単で低コストであり、操作方法が簡単。
- 欠点
- 蒸気圧の低いRDXなどを検出することが出来ない。
[編集] イオン易動度分光測定式爆発物探知器
イオン易動度分光測定式探知器とは揮発性ガスをイオン化して、イオン化したガスを電磁気で加速させ電極にぶつけると、分子の種類によって速度差がでるため、衝突時間に差が出るのを利用してガスの成分を調べる装置で質量分析法の一種である。 最近では部屋の換気装置の内部などに仕込むことで、その部屋に爆発物が持ち込まれたかどうかを探知できるシステムもある。
- 利点
- 科学反応式に比べて感度が高く、発見しやすい
- 装置を特別な訓練を受けていない人間1人で運用できる
- 検査に要する時間が短く、検査対象物を汚損しない。
- ガスを吸い込む方式なので、吸引装置が吸い込める範囲であれば多少の距離が離れていても使える。
- 欠点
- 爆薬以外の物質を爆薬と誤認する場合が多い
- トリメチレントリニトロアミンやトリニトロトルエンは常温ではほとんど気化しないためこの方式では検出が困難であるため、爆発物マーカー「ICAO Taggants」となる揮発成分を添加することが法律で義務付けられており、市販されている爆発物探知機は爆発物マーカーを特別敏感に感知できるように調整されている。そのため、テロリストなどが自家製で生成した密造爆薬などは探知できない場合がある。
- メタルギアソリッドというゲームに「センサーA」として「イオン易動性分光測定式爆発物探知器」というアイテムが出てくるが、実在する機械の正しい名称は「イオン易動度分光測定式爆発物探知器」である。これは「Ion mobility spectrommetry」という英語を日本語訳する時に「mobility」をそのまま辞書に当てはめて「易動性」と翻訳したためではないかと思われるが、測定する場合には「性」では測定機器にならないので「度」としなければ誤訳である。
[編集] 中性子後方散乱式爆発物探知器
放射線源と放射線検出器からなる。中性子線の弾性散乱によって装置側へ戻ってきた中性子を測定し、放射線源から出た中性子の速度や入射角度との比較から衝突前と衝突後のエネルギーの差分を求め、軽元素に対する中性子の減速効果を利用して対象物の構成元素を調べる装置である。
- 爆薬の種類によって以下のような結果が出る。通常の樹脂、繊維、木材、生体などと比べると明らかに窒素量が多いため容易に識別できる。
- RDX 炭素 16.22% 水素 2.72% 窒素 37.84% 酸素 43.22%
- TNT 炭素 37.02% 水素 2.22% 窒素 18.50% 酸素 42.26%
- トリニトロセルロース 炭素 24.56% 水素 2.55% 窒素 15.16% 酸素 57.73%
- 利点
- 対象物がまったく揮発性ガスもなにも出していなくても関係ない。放射線源と放射線検出器がセットになったセンサー部を向ければ測定できるので、レントゲンのように対象物を挟み込む必要も無い。
- また対象物の寸法が大きかったり、形状が偏っていても調べることができる。ただし、測定距離が長いと、中性子が空気で乱反射してしまいちゃんと戻ってこないため、測定可能距離が極めて短い。
- 欠点
アメリカではテロ対策のために、この欠点を隠して放射線規制外の機材として導入しているとの批判がある。
[編集] 電子線マイクロアナリシス分析器
対象物表面に細く絞られた電子線を照射して、対象物と電子線との相互作用により発生する特性X線を効率よく検出することにより対象物の構成元素を調べる装置である。 ただし、本来の用途は爆発物探知機ではなく、成分分析装置であり、爆発物探知には不向きな装置であるが、 韓国政府が爆発物探知機として導入したため、ここに記述する。
- 利点
- 対象物がまったく揮発性ガスもなにも出していなくても関係なく調べられる。
- 欠点
- 価格が高い
- 装置が大型で持ち運び出来ない
- 専門のオペレーターが必要
- 表面の浅い部分しか調べられないため、金属容器や大きな箱に入っている中味まで調べられない。
- 強いX線を照射するため人体や生物には使用できない
韓国が導入したのがこのタイプで「EDS X-RAY」という製品だったがあまり役に立たず、誤認が続出した。 それも当然であり、この装置は爆発物探知機ではなく成分分析装置だからである。
爆弾と雷管、タイマーなど付随機材を感知できなかったのは当然であり、金属の箱に入っている物の中味を透視することなど出来ない。
また、キムチや石鹸、コチュジャンなどを爆発物と誤認したのは窒素量の多い有機物を爆弾と誤認したためである。
これは、装置の欠陥ではなく、装置の選択ミスと断言して良い。
大変に高価な装置であり、日本での購入価格は一台あたり一千五百万円からである。
[編集] 誤認事故
爆発物探知機が反応したために、過剰な取調べや捜索が行われた事例が数多くある。 下記以外にも爆発物探知機が反応したために大騒ぎとなった事例が世界中に数多くあり、なにが反応したのか判明していない事例も非常に多い。これは、テロ問題から過剰反応するようになっているという事情も関係している。
- 二酸化硫黄は硫黄分を含むマッチなどを燃焼させた場合にも発生するため。実際にマッチを航空機の機内で点けただけで爆発物探知機が反応して運休になり全検査になったという事件が起きている。
- 見送り客が焚いた爆竹の残煙が反応して取り調べられた新婚カップルが居る。