滝野すずらん丘陵公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
滝野すずらん丘陵公園(たきのすずらんきゅうりょうこうえん)は、北海道札幌市南区滝野にある国営公園(国立公園ではない)。北海道で唯一の国営公園である。総面積は395.7ヘクタール。現供用面積は192.3ヘクタール。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 開拓から農林業時代
滝野地区は1870年代から札幌の開拓に伴う木材需要に応じて開拓された。1879年には官営の製材所「厚別山水車器械所」が建設され、本格的な林業が始まった。1890年に木材の生産が停止されて以降、しばらく無人の地だったが、1899年以降は農地として開拓された。1920年の水田稲作試行以後、集落形成が本格化した。1960年には有明、滝野地区の増反農地として、ほぼ現在の公園区域にあたる場所に、農地を共同所有し収入を出資者の間で配当する「パイロットファーム」が開設され、現在の公園中心ゾーン付近に事務所や畜舎が置かれた。しかし、営農は不振をきわめ、1960年代後半には解散となる。その後も滝野地区では高度成長期に人口が急速に流出した。
[編集] 札幌市の野外教育時代
札幌市は、1971年に廃校となった滝野小学校の校舎を活用し、小中学生を対象とした宿泊型自然学習施設「滝野自然学園」を開設した。パイロットファーム解散後は札幌市の所有となっていた約350haの隣接地や後背の野牛山(やぎゅうさん)と併せ、ハイキング、登山、オリエンテーリング、林間スキーなどがさかんに行われ、滝野地区は自然学習フィールドとしての時代を迎える。 1972年、札幌市は「札幌市青少年自然の村基本計画」を策定。現公園区域のほぼ全域に、青少年の家1棟(400人収容、研修室、体育館、プール、天文台など・・・後の青少年山の家に発展)、キャンプ場5カ所(700人収容、野外スタジアム、放牧場、コンセルリンクなど)、ロッジ10棟(200人収容)などが計画され、1976年までにキャンプ場とロッジ5棟が完成し、年間5万人の利用者があり、当時としては全国的にも進んだ自然活動エリアだった。 レクリェーションリーダー養成の試みとして、先人の開拓の歴史を体験し、参加者自らが笹を刈り木を伐採して生活の場を作り出すというコンセプトで「開拓キャンプ」が行われた。1976年の「ドンガバチョ村」は、翌年以降「ドンガバ町」、「ドンガバ共和国」と発展した。このドンガバ共和国はその後常盤地区に、さらにその後真駒内スキー場の近隣に移されて継続していたが、このコンセプトはその後の滝野すずらん丘陵公園の計画の中にも受け継がれている。
[編集] 国営公園計画への移行
一方、1975年、北海道開発局は「滝野大規模公園計画調査委員会」を設置し、北海道における国営公園の適地選定が開始していた。1976年に現公園区域が適地と決定され、青少年自然の村計画の一部は国営滝野すずらん丘陵公園計画に受け継がれることになった。1977年策定の「滝野大規模公園基本計画」では、公園の基本イメージを「緑(森林・草原)」「白(雪)」「水(滝・渓流・湖沼)」とし、北海道で初めて通年利用をめざし、冬季レクリェーション活動のモデルを想定した計画となっている。 1978年1月17日に札幌圏都市計画の変更が告示により、現公園の位置に395.7haの国営公園「一般公園5.8.9滝野公園」として建設が正式に決定。1979年度から順次発注、着工された。造成や園路、橋梁などの基本設備は北海道開発局、駐車場やサイクルセンターなどの有料施設は住宅・都市整備公団(現都市再生機構)により整備が進められた。
[編集] 国営公園の開園とその後
1983年7月30日、渓流ゾーンと保全ゾーンの一部約30haを、全国で5番目の国営公園として開園した。その後順次供用区域を拡大して行くが、当初の基本計画策定から10年を経た1987年には計画を見直し、「第2期開園区域基本計画」を策定。当初計画策定時にはなかった特定公園施設制度も鑑み施設配置を再考。新たに森林スポーツゾーンやこどもの森、オートリゾートネットワーク構想を取り入れた宿泊ゾーンなども盛り込んだ。1988年より歩くスキーコースを開設。1989年には札幌市教育委員会が運営主体となる「青少年山の家」が開館。1994年にはオートキャンプ場「オートリゾート滝野」をオープン、2002年からは有料ゾーンとして「カントリーガーデン」「子どもの谷」、2004年には「森のすみか」をオープンし、現在までに計画全体の49%にあたる192.3haを開園している。 2007年度以降は、森林体験ゾーン(103.9ha)および自然観察ゾーン(99.5ha)を整備し、2010年春までに都市公園法2条1項2号イで指定される国営公園としては全国で初めてとなる全面開園を目指している。
- 1978年:公園計画決定
- 1982年:有料施設の整備が始まる
- 1983年7月30日:開園。公園の一部(約30ha)が供用開始
- 1988年:歩くスキーコース供用開始
- 1989年:青少年山の家供用開始
- 1994年:オートリゾート滝野(キャンプ場)供用開始
- 2002年:有料区域(中心ゾーン)供用開始
[編集] ゾーニングと各ゾーンの施設
滝野すずらん丘陵公園は、利用・管理運営の側面と、敷地条件などから、以下の6ゾーンで構成される。
[編集] 渓流ゾーン
厚別川流域を中心に、水遊び、炊事遠足などを対象に展開。河川自由利用の原則と、開園以前から民間の釣り堀やアシリベツの滝などが広く市民に利用されてきた経緯に鑑み、国営公園としては異例の、入園料を徴収しない無料ゾーンとする。
- 日本の滝百選に選ばれている。落差26 m。公園の北西に位置する。
- 鱒見の滝
- 落差18 m、幅20 m。公園の東に位置する。
- 不老の滝
- アシリベツの滝の南東に位置する。災害による崩落のため現在見学不可。
- 白帆の滝
- 平成の森
- 疎林広場
- 炊事遠足広場
- 約1000人が同時利用可能。小中学生の炊事遠足に利用されることが多い。
- 渓流園炊事コーナー
- たきのパークブリッジ
- 北海道内4番目のPC斜張橋。道路構造令3種4級、設計速度20km/h、最急勾配6%、橋長245m、幅員14.8m、山側主塔高さ43.5m。
- 渓流口駐車場
- 鱒見口駐車場
- 案内所
- ロッジ「ゆきざさ」
- 焼肉ガーデン「アシリベツ」
- 釣堀
- サイクルセンター
- 自転車、車椅子の貸出所。自転車は有料。
[編集] 中心ゾーン
かつてのパイロットファームの中心機能地域。北海道らしさを演出する花壇、牧場をイメージする庭園、開拓をテーマとする重力利用の遊具などにより構成されるゾーン。通年利用の拠点でもあり、冬季はスキーや雪遊びなどに利用する。
- つどいの森
- カントリーガーデン
- 公園中央部に位置する、広大な花園。
- カントリーハウス
- 外観は往年の厚別山水車器械所をイメージしている。
- こどもの谷
- 公園中央部に位置する。フワフワエッグ、虹の巣ドーム、あり塚の塔、溶岩滑り台など、大規模な遊具が多数設置されている。
- 森のすみか
- ローンスタジアム
- 約6.8ヘクタールの芝生広場。
- 天文台
- 三鷹光器製自動追尾15cm屈折望遠鏡、30cm反射望遠鏡などを備える本格的な天文台
- すずらんの丘展望台
- 公園内の最も高い位置(標高303m)にある。石狩湾、暑寒別岳連峰、夕張山地を望むことができる。
- 中央口駐車場・休憩所
- 東口駐車場・休憩所
- 公園事務所
[編集] 宿泊ゾーン
- 青少年山の家
- 小中学生の宿泊研修で多く利用される。屋内でキャンプファイヤーができる多目的ホールを持つ。
- オートリゾート滝野(オートキャンプ場)
[編集] 森林体験ゾーン
中の沢、野牛沢川周辺に展開。誰もが深い森の中で森林浴を楽しむことができ、野外活動プログラムを楽しみながら、人と自然、人と人との交流が生まれるゾーン。2009年春供用開始予定。
- 森見の塔(野鳥観察)
- 沢の教室(遷移観察)
- 森の回廊・交流館
- まきばの丘
- 南口駐車場
[編集] 自然観察ゾーン
清水沢川周辺に展開。あるがままの自然を活用し、多様な生物生息環境の保全・育成を図りながら、自然観察などを通じて環境教育の場としての機能を備えたゾーン。2010年春供用開始予定。
- 水生植物園
- カラマツの森
- シラネアオイ群生地
- 森の案内所
- 清水沢口駐車場
[編集] 保全ゾーン
厚別川および支流の沢川沿いの急斜面は、施設利用として不適で、かつ比較的良好な樹林が保持されているため、これを活かして敷地全体の景観特性の背景とする。また、森林体験ゾーンの西エリアも現在の森林をそのまま保全し、特段の整備を行わないこととした。
[編集] 歩くスキーコース
当初渓流ゾーンの5kmから始まり、現在は中心ゾーンや未供用区域にまで最大20kmまでのいくつかのコースが設定されている。歩くスキーとは基本的にはクロスカントリーのノルディックスキーとほぼ同じであるが、札幌オリンピックの頃今村源吉北海道教育大学旭川校名誉教授(故人)が、これを競技種目としてではなく、市民の身近な体力づくりとして提唱したとされる。全てのコースは圧雪車でコース整備され、渓流ゾーンではカッターも刻まれる(視覚障害者の利用も視野に入れている)。機械圧雪されるクロスカントリースキーコースとしては北海道内では白旗山競技場などがあるが、平日も欠かさず毎日整備されるのは国内では唯一。
[編集] ライフライン施設
電力は北海道電力から6.6kVの高圧で受電し、園内に9つの1次高圧受電設備、7つの2次受電設備を持つ。電力のほか、電話や光通信システムなどの通信線路もあわせて園内は全て地下埋設されている。 水道は園内2カ所の井戸からポンプアップし、沈砂、滅菌を行う完全自営。汚水は当初、鱒見口近くにある汚水処理施設に集められ、BOD10ppm、SS20ppm以下に処理し、厚別川に放流していたが、オートリゾート滝野の供用開始以降は清田区側の公共下水道と接続した。雨水は原則として厚別川に直接放流している。
[編集] アクセス
- 有料駐車場
- 鱒見口駐車場(160台)
- 渓流口駐車場(150台)
- 中央口駐車場(960台)
- 東口駐車場(410台):有料エリアの最寄駐車場
- 路線バス(北海道中央バス)
[編集] その他
[編集] ヒグマ
公園区域は、東側に自衛隊島松演習場、南側に野牛山が隣接する。戦後の滝野地区にはヒグマの出没がほとんどなかった。これは自衛隊演習場の砲火の爆音のため、元来臆病なヒグマがこの地に安住しなかったからという説がある。実際、野牛山の稜線を越えた南側ではヒグマは多く生息している。 しかし、ここ数年たびたび公園区域内でヒグマのフンがみつかり、安全が確認されるまでの1~2週間程度の間公園が全面閉鎖された事例が数回発生している。