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源氏鶏太 - Wikipedia

源氏鶏太

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文学
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源氏 鶏太げんじ けいた、男性、1912年4月19日-1985年9月12日 )は、日本作家富山市出身。旧制富山商業学校(現・富山県立富山商業高等学校)卒。本名、田中富雄。ペンネームの由来は「平家より源氏が好きなこと」と「『鶏』という字が好きで、『鶏太』とすると、昔の武士の名前のようになる」という理由。

目次

[編集] 略歴・人物

父親は富山の置き薬売りで、家庭は豊かではなかった。7人兄弟の末っ子だったが、兄・姉たちとは年がはなれており、源氏が物心つく頃には、兄・姉たちは家を出ていた、母と二人で暮らす。富山商業時代は、中山輝に師事して詩を書いていた。

1930年、大阪の住友合資会社(1937年に住友本社に改組)に入社し、経理課長代理まで昇進。戦後の財閥解体時は、GHQからの指示で、住友本社の清算事務を担当した。その後は、住友系の栄泉不動産(現・住友不動産)で総務部次長を務め、サラリーマン時代はずっと経理畑を歩んだ。(なお、そのため、後に作家専業になった際に「数字に強い」と、日本文芸家協会の経理担当を長らく勤めることになった。)なお、住友の大先輩に、重役の川田順がおり、「副業で小説を書いていることで、社内で文句を言われたら、自分のところにきてくれればいいよ」と励まされたという。

先に大阪に住んでいた、やはり文学青年だった長兄の影響で、就職後は小説を書くようになる。

戦前は「副収入」も兼ねて様々な雑誌の懸賞小説に応募。この頃は、投稿のたびにペンネームをかえていたが、「源氏鶏太」も一度、使用している。1934年「村の代表選手」が報知新聞のユーモア小説を受賞し、初めて活字になる。また、『[婦人公論]]』が「女性に限る」として詩を募集した時は、偽った女性名のペンネームで応募し、入選したこともある。

1944年6月に海軍に召集され、舞鶴防衛隊に配置される。のち、無線教育を受け、1945年6月には特設駆潜艇第七富久川丸に電探兵として、乗り込み、終戦を迎えた。

戦後は、会社の給料のみで暮らしていけなくなったため、さらに本腰を入れて小説を書く。ペンネームも「源氏鶏太」に固定して、1947年に短編「たばこ娘」を「オール読物」に発表。これは、たばこにマニアックにこだわる男を描いた作品だった。1948年には「大阪新聞」に初の長編「女炎なすべし」を連載、同年、初の単行本として刊行される。

また、大阪文壇に大きな力を持っていた藤沢桓夫に対抗して作られた、作家集団「在阪作家倶楽部」に参加。長谷川幸延、宇井無愁、茂木草介、京都伸夫らを知る。

1948年、宇野千代が社長だったスタイル社が創刊した「スタイル読物版」に、初の「サラリーマン小説」である「浮気の旅」を発表。この作品は好評で、日本文芸家協会編の「現代小説選集」にも収録されたことから、以降、それまで書かれたことがなかった「サラリーマンの人生の悲喜劇を描いた小説」であるサラリーマン小説を書き続けるようになる。

1950年には、サラリーマン小説「随行さん」「目録さん」「木石にあらず」で、上半期・下半期の直木賞候補に。そして、1951年「英語屋さん」他で第25回直木賞を受賞する。同作は、通訳専門の嘱託社員として採用された、通称「英語屋さん」と他の社員達との交流を描いた短篇で、実際に住友社内にモデルとなる人物がいた。以降も、ユーモアあるれるサラリーマン物の小説を多数発表し、「サラリーマン小説」の第一人者と呼ばれた。

1956年には作家に専念するため、勤続25年目で会社を退職。1958年より直木賞選考委員。

初期・中期の作品は、大半が映画化またはドラマ化されており、映画化作品は80作を超えている。

特にGHQにより戦前よりの会社の重役陣が退社させされ、本来重役になるべきではない人物たちがサラリーマン重役になったという連作短編集『三等重役』は、「三等重役」という言葉自体を流行させるほどの反響を呼び、、河村黎吉が社長役、森繁久彌が人事課長役で1952年に東宝により映画化され、ヒット作となった。この映画は、河村の死後は森繁が社長役となり「社長シリーズ」としてシリーズ化され、東宝のドル箱映画となった。1961年には、東宝の監査役に就任している。

また、1955年に発表された『七人の孫』は、森繁久弥主演でテレビドラマ化され、人気を博した。

中野実などのユーモア小説の流れを汲み、軽妙な筆致で恋愛を描き、1961年、『婦人公論』に連載された「御身」は、金で買われることから始まった男女関係が恋愛に結実するまでを描いて、当時の独身男女の恋愛至上主義に鋭い批判を突きつけている。

晩年は、従来のユーモア物に物足りなさを感じ、ブラック・ユーモアを志向。会社内に、恨みをもったサラリーマン幽霊が現れる小説を、多く発表した。

また、戦争中に海軍に所属していたことから、池島信平十返肇が創設した「文人海軍の会」の会員だった(他の会員は、阿川弘之豊田穣など)

[編集] エピソード

  • 「英語屋さん」はペーソスあふれるユーモラスな作品となっているが、モデルとなった実在の人物は狷介な人柄で、社内で敬遠される有名な「名物男」であった。彼は、源氏が「自分をモデルとして小説を書いた」と知ると、好意的な人物に描かれている小説を読みもせずに、怒り狂った。だが、のちにこの小説が直木賞を受賞させると、「オレのおかげで、あいつは直木賞をとれたんだ」と上機嫌になったという。
  • 1975年に刊行された『わが文壇的自叙伝』では、「自分の作品で死後読まれるものがあるだろうか」と自身、懸念しているが、実際に現在ではほとんどの作品が絶版・品切となり、「忘れられた作家」となっている。
  • 2007年9月から10月まで、『家庭の事情』がTBS系列愛の劇場家に五女あり』としてドラマ化された。

[編集] 受賞歴

[編集] 主な作品

  • ホープさん 文芸春秋新社, 1951
  • 初恋物語 春陽文庫, 1951
  • 三等重役 毎日新聞社, 1951 のち新潮文庫
  • 向日葵娘 小説朝日社, 1952 のち角川文庫
  • 幸福さん 毎日新聞社, 1953 のち角川文庫
  • 鶏太ざんげ録 要書房, 1953
  • 明日は日曜日 春陽堂書店, 1953
  • 丸ビル乙女 東方社, 1954
  • 火の誘惑 東方社, 1954 のち角川文庫
  • 英語屋さん 東方社, 1954 のち角川文庫
  • 坊つちやん社員 大日本雄弁会講談社, 1955 (ロマン・ブックス)
  • 奥様多忙 大日本雄弁会講談社, 1955 のち文庫
  • 鬼の居ぬ間 新潮社, 1955 のち文庫
  • 七人の孫 東方社, 1955 のち角川文庫
  • 春風駘蕩 東方社, 1955
  • 見事な娘 大日本雄弁会講談社, 1956 (ロマン・ブックス)
  • 天上大風 新潮社, 1956 のち文庫
  • 大安吉日 毎日新聞社, 1956
  • 源氏鶏太サラリーマン文庫 第1-13 学風書院, 1955-1956
  • 青春をわれらに 大日本雄弁会講談社, 1957 (ロマン・ブックス)
  • たばこ娘 角川書店, 1957
  • 青空娘 東方社, 1957 (若尾文子主演で映画化、増村保造監督、大映
  • 源氏鶏太作品集 第1-12 新潮社, 1957-58
  • 重役の椅子 大日本雄弁会講談社, 1957 のち新潮文庫
  • 鏡 新潮社, 1958 のち文庫
  • 源氏鶏太青春小説選集 第1-13巻 桃源社, 1959-60
  • 最高殊勲夫人 講談社, 1959 (若尾文子主演で映画化、増村保造監督、大映
  • 大願成就 角川書店, 1959
  • 新・三等重役 毎日新聞社, 1959 のち新潮文庫
  • 麗しきオールド・ミス 春陽堂文庫出版, 1959
  • 天下を取る 講談社, 1960
  • 若い仲間 集英社, 1960
  • 天下泰平 東方社, 1961
  • 青年の椅子 講談社, 1961
  • 堂々たる人生 集英社, 1961
  • 昨日・今日・明日 講談社, 1962 のち角川文庫
  • 男性無用 新潮社, 1962
  • 御身 中央公論社, 1962 のち角川文庫
  • 男と女の世の中 新潮社, 1962 のち文庫
  • 悲喜交々 文芸春秋新社, 1962 のち角川文庫
  • 源氏鶏太自選作品集 第1-9 講談社, 1963 (ロマン・ブックス)
  • 停年退職 朝日新聞社, 1963 のち新潮文庫、河出文庫
  • 二十四歳の憂欝 講談社, 1963
  • 東京一淋しい男 文芸春秋新社, 1963
  • 流れる雲 毎日新聞社, 1964
  • 銀座立志伝 集英社, 1964
  • 源氏鶏太全集 全43巻 講談社, 1965
  • 意気に感ず 講談社, 1965
  • 女の顔 新潮社, 1966
  • 若い海 講談社, 1966
  • ボタンとハンカチ 中央公論社, 1966 のち角川文庫
  • 人生感あり 文芸春秋, 1966 のち集英社文庫
  • 天上天下 集英社, 1967
  • 東京物語 集英社, 1967
  • 夫婦の設計 講談社, 1968
  • 掌の中の卵 新潮社, 1968 のち文庫
  • 歌なきものの歌 新潮社、1969 のち文庫
  • 他人の女房 集英社, 1969
  • 幽霊になった男 講談社, 1970
  • 口紅と鏡 新潮社, 1970 のち文庫
  • ずこいきり 新潮社, 1972 のち文庫
  • 艶めいた遺産 集英社, 1972 のち文庫
  • 東京の幽霊 文芸春秋, 1974
  • 怨と艶 集英社, 1975
  • わが文壇的自叙伝 集英社, 1975
  • 時計台の文字盤 新潮社, 1975 のち文庫
  • 私にはかまわないで 集英社, 1975 のち文庫
  • 永遠の眠りに眠らしめよ 集英社, 1977 のち文庫
  • 招かれざる仲間たち 新潮社, 1979 のち文庫
  • わたしの人生案内 集英社, 1982 のち中公文庫
  • 日日哀歓 実業之日本社, 1982 のち新潮文庫

[編集] 参考資料

  • わが文壇的自叙伝 集英社 1975


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