概日リズム睡眠障害
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概日リズム睡眠障害(がいじつリズムすいみんしょうがい)とは、概日リズムの障害に基づくと考えられる睡眠障害の一群である。概日リズム睡眠障害を持つ人は出勤、登校、その他の社会生活において要求される通常の時間に寝起きすることができない。もし自らの体内時計の要求する時間に寝起きすることが許されるのならば、彼らは通常十分な睡眠をとることができる。その他の睡眠障害を併せ持っていない限り睡眠の質も通常である。
人は、概日リズムとして知られる約24時間周期の体内時計を持っており、これに従って一日の生活を送る。体内時計の影響により、眠気は時間経過と共に増加の一途をたどる訳ではない。人の睡眠に対する要求と熟睡する能力は、「十分な睡眠から目覚めた後からの経過時間」と「内在的な概日リズム」の両方に影響される。このように、体は一日の違う時間帯に睡眠と覚醒に適した状態になる。
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[編集] 概日リズム睡眠障害の分類
概日リズム睡眠障害は次のように分類される。
- 時間帯域変化(時差)症候群: 時差の大きい地域へ短時間で移動することによって起こる。一時的に睡眠・覚醒障害、易疲労感、胃腸障害などの症状がみられる。
- 交代勤務性睡眠障害: 夜間労働者などに起こる睡眠障害。日中の入眠困難、易疲労感、胃腸障害などの症状が現れる。
- 睡眠相後退症候群: (Delayed sleep phase syndrome, DSPS) 睡眠相が望ましい時間帯から遅れて固定し、前進させることが困難な状態。
- 睡眠相前進症候群: (Advanced sleep phase syndrome,ASPS) 睡眠相が望ましい時間帯から慢性的に前進しており、後退させることが困難な状態。
- 非24時間睡眠覚醒症候群:24時間周期の環境で生活しているにも係わらず入眠・覚醒の時刻が次第に遅れ、24時間より長い周期で推移する状態。
- 不規則型睡眠・覚醒パターン:睡眠や覚醒の出現が不規則に起こり、一日に複数回睡眠する。
[編集] 通常の概日リズム
健全な概日リズムを持つ人々の中には、早寝・早起きを好む「朝型」(ヒバリ型)の人と、逆に遅く眠り、遅く起きる「夜型」(フクロウ型)の人がいる。 朝型か夜型かに係わらず、通常の概日リズムを持つ人は、
- 朝は予定した時間に起きる事ができ、夜は十分な睡眠がとれるように予定した時間に入眠することができる。
- 望みどおりに、毎日同じ時間に睡眠・覚醒できる。
- いつもより早く起きなければならない新生活を始めた後も、数日経てば夜もいつもより早く眠ることができるようになる。例えば、午前1時に眠り、午前9時に起きる習慣のある人が、新しい仕事に就き、月曜日からは午前6時に起きなくてはならなくなったとする。その人は次の金曜日までには、午後10時ごろに眠り始め、午前6時に起きる事ができる。この早い睡眠・覚醒時間への適応は「睡眠相の前進」としてしられる。健康な人は、睡眠相を一日におよそ1時間前進させることができる。
研究者らによって時計や光など、時刻情報となるものを排除した特別な施設で被験者に生活してもらう実験が行われた。時刻情報がないと被験者たちは、一日一時間ずつ就寝・起床の時間が遅れていく傾向があった。これらの実験は人の概日リズムの「自由継続周期」は約25時間であることを示したようであった。しかし、これらの被験者は人工的な照明を自分でコントロールすることを許されていたので、主観的夜に付けていた位相の後退を起こしていた。最近の研究では、すべての年齢の成人で自由継続周期が平均24時間11分であることが示された。24時間の昼・夜のサイクルを維持するためには、体内時計は規則的な環境の時刻情報、例えば日の出、日の入り、毎日の繰り返し作業などが必要である。時刻情報は通常の人の概日リズムを、外界と調和させている。
[編集] 概日リズムの異常
非24時間睡眠覚醒症候群のような慢性的な概日リズム睡眠障害は、環境の時刻情報に反応して睡眠覚醒リズムを調節する能力の低下が原因であると考えられている。 例えば、これらの人達は通常より長い概日リズムを持っており、時刻情報に十分に反応することができないと考えられている。より罹患者の多い睡眠相後退症候群(DSPS)の人は、環境の24時間サイクルに合わせて活動するが、非24時間睡眠覚醒症候群の患者は、社会的に受け入れられる時間帯に寝起きできず、例えば午前4時に就寝し正午に起床し、それが日に日にずれていくなど社会生活をおくる事が困難な状況となってしまう。