新倉掘抜

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新倉掘抜（あらくらほりぬき）は、山梨県富士河口湖町（旧南都留郡河口湖町船津字水汲戸）と富士吉田市新倉字出口を結ぶ農業用水路。河口湖の湖水を船津から取水し新倉へ送水する。全長は4km。富士吉田市指定史跡。

甲斐国において、江戸時代には国中地方をはじめ郡内地方でも用水堰の開削など大規模な土木事業が各地で行われて、新田開発により農業生産力を向上させていた。郡内では谷村藩主秋元氏時代に行われたする伝承のある谷村大堰（十日市場大堰、都留市）や禾生用水（都留市）などの大堰開削が行われている。新倉掘抜は3次にわたる大規模普請により通水し、幕府や領主が主導したものではなく村単位で行われた大規模普請事業の例として注目されている。

富士吉田市や富士河口湖町は山梨県南東部に位置し、新倉村は富士吉田市域の北西に位置する。嘯山や尾重山に囲まれ、市域中央部を北西から南東市域流れる桂川やその支流からは最も離れている。村の南東には剣丸尾と呼ばれる透水性の溶岩台地が広がっているため地下水の利用や用水路の開削が困難で、わずかな沢水や湧水にたよる慢性水不足で耕地化も困難な地域であった。また、市域の主要産業でもある郡内織の生産においては染色などの工程において水を必要としており、新倉地域を潤す用水堰の開発が望まれていた。

一方の山地を挟んで西に位置する河口湖は天然の流出口が存在しないため、湖岸の7か村（船津のほか木立、勝山、長浜、大石、川口、浅川）では大雨でしばしば冠水による洪水被害が発生しており、中世には『勝山記』に被害の様子が見られる。こうした対極的な問題を解決す手段として、江戸時代には両地域の間に位置する山地に隧道を掘り、河口湖の湖水を引水して溶岩台地を開拓する構想が持ち上がっていた。

着工期の同時代文書は見られないが、後代の記録によれば事業は江戸初期の谷村藩主秋元喬知時代に開始され、延宝3年(1675年）に着工され16年の歳月をかけて元禄（1690年）に完成したという。谷村大堰や禾生用水など秋元氏が実施したといわれる事業はいずれも異説が存在しているが、新倉掘抜に関しては後代の史料から秋元氏開削説が支持されている。後代の古穴調査に拠れば、秋元氏時代に掘抜は開通していたが、工事には不備があり安定した水量が確保できず、岩盤掘削も行えなかったため屈曲が多く、漏水や崩落事故が発生したためトンネルの機能を果たせず、宝永元年（1704年）に秋元氏が武蔵国川越に転封になると廃坑になったという。

郡内領が代官支配となった享保年間には諸村の連名で谷村代官所（都留市）へ掘抜掘削の請願書が提出されるなど再工事を求める動きが起こるが、反対意見や養蚕・織物不況などにより立ち消えとなった。

弘化4年（1847年）には嘯山の崩落で秋元氏時代の古穴が発見され、新倉村では古穴を利用した自普請による単独の開削を実施した。工事は近隣諸村や谷村陣屋への資金要請して着手され、古穴を発掘し石工や大工らを動員して岩盤を掘削し新たな新掘を築き、崩落や漏水個所を補修して土止めの柱立が施された。嘉永5年には通水に成功し、畑地の水田転換や溶岩台地の開拓が可能となっている。

安政元年（1862年）には湖水の大減水や崩落事故により通水が停止する事態が発生し、再び普請再開が求められたが弘化年間の工事で諸村では経済的疲弊や負債整理の対立を招いており、反対意見が紛糾した。文久2年にはは郡内各所や駿河国の富裕層に呼びかけた大型無尽を企画して資金を調達し工事再開が再開され、区間ごとの請負制の導入や岩盤掘削のため専門石工の動員して元治2年（1865年）には完成する。

以後は安定した通水が実現し、1913年（大正2年）に県庁により掘削された新暗渠が開通するまで機能した。

関係資料は富士吉田市歴史民俗博物館に所蔵され、一部は常設展示されている。

[編集] 参考文献

• 星野芳三『富士吉田市史通史編2近世』
• 星野芳三「弘化以前の新倉掘抜に関する資料の考察」『富士吉田市史研究4』
• 星野芳三「新倉掘抜をめぐる史料-弘化・嘉永の工事について-」『富士吉田市史研究7』
• 平山優「郡内領の人々と水」『山梨県史通史編3近世1』