教会法
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教会法(きょうかいほう、ius ecclesiasticum)とは、広義においては、国家のような世俗的な権力が定めたキリスト教会に関する法とキリスト教会が定めた法を包括した概念であるが、狭義においては、キリスト教会が定めた法のことをいい、世俗法(ius civile)と対比される概念である。最狭義においては、カトリック教会が定めた法のことをいい、カノン法(ius canonicum)ともいう。
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[編集] 概説
キリスト教会のうちでも、国家による法に比するほどの法体系を有するようになったのは、カトリック教会だけである。また、教派によっては、教会法とは言いながらも、信徒や聖職者の単なる信仰生活の心得に過ぎない場合もある。そのようなこともあり、教会法という場合は通常はカノン法を指すことが多い。
狭義の教会法は信仰生活の領域だけでなく、教会行政の規範、聖職者・信者の権利義務を定める一般法としての役割を持つ。もっとも、国家法を中心とした現在の法秩序の下においては、多くの国では教会という自治的な団体の内部規範に過ぎず、法と言えるかについては疑義がある。しかし、歴史的には、ヨーロッパの法の発展について模範とされた事実も否定できないため、なお重要とされる。
[編集] カトリック教会
[編集] 法源、効力
現行の法源は、1983年に制定された「教会法典」をメインとするほか、省令、回勅、公会議など権威のある会議の決定、判例などであるが、そのほかに聖書の記述や神学的な条理の解釈も重要視されることが、世俗法との大きな違いである。
現在でも一部の国・地域では、特定の教派の信者に適用される身分法・民事法として、教会法は国家の定めた法律と同様かそれ以上の権威と効力を有する。
[編集] 裁判制度
教会法に関する裁判を行う権限は司祭に属するが、通常は教会裁判所に訴訟が係属する。ローマに控訴院、最高裁判所があり、原則として三審制。 日本では東京、大阪、長崎に常設の管区裁判所が設置されており、主に信者の婚姻無効確認請求の審判が行われている。
教会裁判所の判事と検察官は、教会法博士の学位もしくは同等の学識を有する司祭から、司教が任命する。教会法の学位は教皇庁認定の教育機関で、教皇の名によって授与される。弁護士は、教会裁判所の判事任用資格、もしくは教会法の学識を有するカトリック信者(聖職者を含む)から司教が任命する。
罰則を伴う裁判では、必ず弁護人をつけなければならない。被告人が弁護人を選任しないときは、判事は職権で公選弁護人を選任しなければならない。
[編集] 正教会
正教会においては聖伝の一部とされる。その内容は「聖規則」(ノモカノン)とよばれる、聖使徒規則などの初期キリスト教文書、および教会会議、公会議(全地公会)・(地方公会)などの決議、(聖師父・教父の書簡から規則として承認された部分)などの決議からなり、これがすべての基準となる。なお、これらの文書は特定時代に決められたもので、今日では適合しない条文などもあるが、すべてそのまま保存されている。各教会や主教は、聖規則全体の趣旨や精神を汲んで、適用についてはイコノミア的判断を下すわけである。また、これらに基づき、各地方教会で定めた規則、規律もあり、各地方教会で適用される。ローマカトリック教会のような「教会法典」は存在しない。