成形炸薬弾
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成形炸薬弾(せいけいさくやくだん、英:Shaped Charge)は、モンロー/ノイマン効果を利用する対戦車用砲弾のこと。戦車を標的とすることから対戦車榴弾(HEAT) と呼ばれる。また、成型炸薬弾とも表記される。
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[編集] 概要
成形炸薬弾とは円柱状の炸薬(現在RDX,HMX系が主流)の片側を漏斗状にへこませ、そこに同様な形状に金属板(ライナー)を装着し、へこませた側と反対側から起爆させることで発生した爆轟波によりライナーは動的超高圧になり崩壊する。金属のような固体でもユゴニオ弾性限界を超える圧力に曝される場合、液体に近似した挙動を示す。この結果、爆轟波の進行に伴い漏斗中心に発生したスタグネーションポイント(圧力凝集点)によって底部から先端まで絞りだされるように液体金属の超高速噴流(メタルジェット)が起こる。これがモンロー/ノイマン効果である。爆轟波が進行していくと生成されたジェット自体は速度勾配によって細長く伸び、やがてブレークアップする。最も良く用いられる、ライナーを銅としたモデルの場合、一般に約7~8km/sの高速のメタルジェットとなり戦車などの装甲を侵徹する。その原理は、接触したメタルジェットの運動エネルギーで今度は装甲との相互作用面がユゴニオ弾性限界を超える超高圧状態となり、装甲材自体の機械的強度は無視され、ほぼ液体として振舞う中、ジェットが突き進むためである。これは、装甲侵徹技術としてAPFSDS登場以前の運動エネルギー弾とは異なった威力を示している。進行するジェットはやがて速度と圧力が減少し、フラグメンテーションを起こし侵徹能力を失う。最後にジェットに成りきれなかったライナーがスラグとして飛んで行くが、既に実用上の効果は失った残滓である。このことから、ジェットが装甲を貫徹して内部に侵入してもジェットの軸線周囲しか加害できない。内部を十分に破壊するためには、ジェットの侵徹口から、爆風や弾片等が噴き込む事が必要である。弾体が高速で旋転していると、その干渉でメタルジェットの収束が阻害され容易にフラグメンテーションするため、滑腔砲や低初速のライフル砲からの発射が望ましいが、現在ではスリップリングの取り付けにより数rpm程度の回転数に押さえることで、高初速大口径のライフル砲から発射された場合でも効果を大きく減ずることはない。
HEAT は現在のもので漏斗の直径の約5~8倍の(理論的には約12倍)、第二次世界大戦期のもので2倍程度の均質圧延装甲(RHA:Rolled Homogeneous Armor 標準的な防弾鋼板)を貫通することが可能である。着弾時の速度によらず貫通力が一定なため対戦車ミサイルなどに用いられている。なお、侵徹力を増すためには、弾頭を大型(特に口径を)にする以外に、漏斗形状やライナーの加工精度の改善の他、効率良くメタルジェットが生成するよう、球面爆轟波を平面波とするため不活性物質のウェーブシェーパーを組み込んで爆速を調節したり、爆速の異なる2種類の炸薬を組み合わせた爆薬レンズ構造を用いたりしている。将来的にはより高爆速の炸薬(CL-20等)を用いたりする他、ライナーを銅より高密度高延性なタンタルや、モリブデンなどの合金に材料を変更するなども研究されている。別の工夫として爆風が入る前に侵徹口を塞ぐ恐れのあるスラグ排除のためインヒビターを装着することもある。
多種な兵器に搭載できる長所を持つがモンロー効果の有効距離がわずか数十cm程度であり、また、その信管作動の関係で装甲の数十cm手前に鎖のカーテンをつるしたり、柵状の檻のようなのを装着しておくだけで不発無効化や威力の大幅軽減ができてしまう弱点がある。しかし、最近では二重の弾頭を備えたタイプや、大抵の兵器の弱点でもある上部を狙ったホップアップするものなどが採用され始めているほか、中にはAPFSDSを応用した射程強化型も登場している(ただし、多目的砲弾としてのソフトキルが主な使用目的)。
上記のように成形炸薬弾は、動的超高圧により塑性流動を生じさせることが主たる効果であり、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の侵徹原理にも繋がるものだが、現代においてHEAT は対MBT用の砲弾として戦車に搭載されることはあまりなく、対MBT用の砲弾としてはAPFSDSが搭載されることが多い。その理由としてHEAT は数値上(RHA換算等)ではAPFSDSと同程度以上の威力を示すが、現在のMBTに多く使われる複合装甲に対してはAPFSDSに比べ有効ではないことが挙げられる。これはメタルジェットがAPFSDSのペネトレーターに比べ質量が著しく小さく、固体としての挙動ではない事により、複合装甲の持つ衝撃インピーダンス勾配界面の影響を受け易い他、複合装甲がセラミックを用いたタイプでは、高い衝撃インピーダンスと圧縮強度を持つセラミックがメタルジェットの圧力でも容易に液体として振舞わず、破壊されても固体のままの破片がジェットと干渉して、進行を阻害するためとの理論もある。
さらに、成形炸薬技術は軍用のみならず、爆発圧接加工による板材の面接合や鋼材の切断にも民間で用いられ、軌道上のデブリやメテオロイドの衝突実験の際、アルミのライナーによる10km/sものメタルジェットが使われることもある。
- 円柱状の炸薬の片側を円錐状に切り取ったような形に加工し、その反対側から起爆することで、爆発全体のおよそ30%のエネルギーが切加工された側に指向性に放出される。これをモンロー効果といい、この加工された形に沿った金属板を付加し、前述したモンロー効果によって発生した指向性の爆発(衝撃波)の圧力によって、金属板のユゴニオ弾性限界を突破させ、金属板に流体としての挙動を与えると同時に秒速数千mもの高速で加工された側に放出させる。これをノイマン効果という。この高速の金属流体の噴射(メタルジェット)の圧力によって、戦車等の装甲のユゴニオ弾性限界を突破させることで装甲を貫徹する。また、このメタルジェットの有効範囲は前方数十cmである。
[編集] 多目的対戦車榴弾
近年の戦車では多目的対戦車榴弾 (HEAT-MP: High Explosive Anti-Tank Multi-Purpose) が装備されていることが多い。これは、爆薬のエネルギーの70%以上がメタルジェットにならずに周囲に飛び散っているのを利用して、弾体のメタルジェット形成を阻害しない個所に鋼球やワイヤーを貼付し、爆発時に周囲に飛散するようにしたもので、榴弾兼用として使用される。ただ、同口径の榴弾と比較して威力で劣る(90式戦車の44口径120mm滑腔砲Rh120のHEAT-MPと74式戦車の51口径105mmライフル砲L7A1の榴弾が同程度)。
120mmM830A1多目的対戦車榴弾などはレーザー近接信管を持ち、ヘリコプターを撃墜することすら可能だとされている。
[編集] 魚雷
アメリカのMk50や日本の97式魚雷などの最新型魚雷には、成形炸薬弾頭が用いられている。これは、潜水艦の耐圧船殻の強化・二重化(複殻式潜水艦)に対抗するほか、魚雷の誘導精度の向上により船体への直撃が見込めるようになったためである。
[編集] タンデム弾頭
近年の砲弾やミサイルの弾頭では、成型炸薬を二段構えにして、大型のメイン弾頭の直前に小型の弾頭を配置したものがある。これは、成型炸薬弾防御のための爆発反応装甲に対抗するためである。小型のサブ弾頭があらかじめ爆発反応装甲を起爆させ、その後にメイン弾頭が突入することによって装甲を打ち破るものである。ロシアの戦車に搭載されている125mm戦車砲用の砲弾には二段ではなく三段構えになっているものも存在する。
[編集] よくある誤解
成形炸薬の装甲侵徹原理で「高温のガス・メタルジェットによって装甲を融かして穴を開ける」というような誤解をされる事があるが、前述した通り、装甲が液体として振舞うのは主として温度ではなく圧力によるためである。メタルジェットは液体として挙動するが固相の金属その物であり、断熱系のため、ジェットの発生しているような短時間に爆発の熱が装甲に伝導し溶融するほどの高温になることは無い。
確かに、衝撃インピーダンスが低い物質(気体など)は動的なエネルギーなどで圧縮を受けると熱に変換され易い。例として、この現象を宇宙船の大気圏突入時にみる事が出来る。大気圏突入時、宇宙船は高温に曝されるが、この時の熱には大気分子との摩擦熱の他に、ここで挙げたような、大気が進行方向への圧縮によって熱に変換されて高温のホットスポットを生み、それが機体に輻射された熱も多分に含まれているのである。
また、超高速の領域では衝突時の作用面の温度上昇は無視できないパラメータとなり、例えば固体でも相対速度10km/s以上の衝突を再現する軌道プラットホームのホイップルバンパーへの耐デブリ実験では、投射体とバンパーの命中箇所が高圧と高温により蒸発してしまうレベルになり得る。
しかし、金属をはじめとした固体全般のような衝撃インピーダンスが高い物質と、通常の成形炸薬のメタルジェットの速度領域という条件下では、受けた動的エネルギーは熱より圧力に変換され易くなる。その結果として動的超高圧が主な要因となって、装甲に塑性流動を引き起こすのである。