急性アルコール中毒
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急性アルコール中毒(きゅうせいアルコールちゅうどく)は、短時間に多量のアルコール(エタノール)を摂取することによって生じる中毒である。急性アルコール中毒の症状は血液中のアルコール濃度に比例する。
アルコールは脳を麻痺させる性質を持っている。アルコールを摂取すると麻痺は大脳辺縁部から呼吸や心臓の働きを制御する脳幹部にまで進み、最終的には生命維持にかかわる脳の中枢部分までもを麻痺させてしまい、呼吸機能や心拍機能を停止させて死に至る。
血中アルコール濃度が0.4%を超えた場合、1~2時間で約半数が死亡する。急性アルコール中毒患者の45%は20代の若者で、2/3が男性、1/3が女性である。
上述のように急性アルコール中毒(きゅうせいアルコールちゅうどく)は、エタノールによる脳の麻痺が原因であり、その症状は摂取したエタノールの量と血中のエタノール濃度に比例する。
一般的に、エタノールの体内での代謝過程で生成されるアセトアルデヒドのフラッシング反応(アセトアルデヒド脱水素酵素による代謝能力の差からくる)の有無を指し「お酒に強い体質」と「お酒に弱い体質」と定義する場合がある。しかし急性アルコール中毒の発生は、この「お酒に強い体質」と「お酒に弱い体質」とは関係がない。あくまでも血中のアルコール濃度、つまり飲んだアルコールの量に比例し、誰でもが陥る急性中毒である。
通常、飲酒すると「ほろ酔い期」「酩酊(めいてい)期」「泥酔期」「昏睡期」という順で、徐々に血中アルコール濃度が上がるので、本人も酔ってきたという自覚がある。また、飲みすぎると足元がふらつく、吐き気がするなどの症状も出るので、自分自身である程度は飲酒量をコントロールできる。しかし、飲酒開始から血中アルコール濃度の上昇までには時間差があり、血中アルコール濃度がピークに達するには飲酒後30~60分の時間がかかる[要出典]。このため、短時間で大量の酒を飲むと、酔っているという自覚なしに危険な量のアルコールを摂取してしまうことがある。この場合、「ほろ酔い期」「酩酊期」を飛び越えて一気に「泥酔期」や「昏睡期」に到達してしまう。
飲み始めてから1時間以内に泥酔状態になった場合、および酒量として、1時間に日本酒で1升、ビールで10本、ウイスキーでボトル1本程度飲んだ場合は急性アルコール中毒を疑い(生命にかかわる危険があるので)すぐに救急車を呼ぶべきである。
血中エタノール濃度 | 影響 | |
---|---|---|
0.05% | ほろ酔い期: | 陽気,気分の発揚 |
0.08% | 運動の協調性の低下,反射の遅れ | |
0.10% | 酩酊期: | 運動の協調性の明らかな障害(まっすぐに歩けない等) |
0.20% | 泥酔期: | 錯乱、記憶力の低下、重い運動機能障害(立つことができない等) |
0.30% | 昏睡期: | 意識の喪失 |
0.40% | 昏睡、死 |
目次 |
[編集] 予防法
- 既述のように飲み始めてから酔いが回るにはある程度の時間がかかるので、飲み始めの30分程度は意識的にゆっくり飲むように心がける。
- 空腹時はアルコールの吸収が早まるので、アルコールの吸収を遅らせる蛋白質や脂肪分を含んだつまみを食べながら飲酒する。
- 一気飲みはせずに、他人にも強要しない。酒の強さには大きな個人差があるので、自分のペースで飲むこと。
[編集] 適量の判断
- 一般的な日本人のアルコール代謝能力は、男性で6~7cc/h、女性で4~5cc/h程度である。翌朝に酒を残さないためには純粋なエタノール量に換算して男性で45~55cc、女性なら30~40cc程度が限度量となる。男性なら、日本酒で2合、ビールなら2本、ウィスキーのダブルで2杯程度。女性なら、日本酒で1.5合弱、ビールなら1.5本弱、ウィスキーのダブルで1.5杯弱程度。
- アルコールの血中濃度が0.1%程度で収まるように飲めば「ほろ酔い」で楽しく飲酒することが出来る。以下は簡易計算式。
- アルコールの血中濃度(%) = 飲酒量(cc) * アルコール度数(%) / 体重(kg) / 833
[編集] 治療法
エタノールの急性中毒に解毒薬はない。したがって、集中治療室(ICU)管理下で輸液と利尿とを施してエタノールを体外に排出させることが唯一の治療法になる。
[編集] 応急処置
何はともあれ救急車を呼ぶこと。病院(ICU)外でできることはほとんどない。救急車が到着するまでは呼吸の確保と体温の維持が留意点である。吐瀉物で窒息する危険があるので“応急処置の目的”で吐かせてはならない。
- 意識を失うほど泥酔している場合には、迷わず救急車を呼ぶこと。つねっても起きず、呼吸に異常(浅く速い呼吸、あまりにもゆっくりした呼吸)がある場合には極めて危険性が高い。もし、心肺機能の停止があるならば心肺蘇生法(人工呼吸、心臓マッサージ)を施すこと。AEDの適応。
- 激しい嘔吐、吐血(鮮血の場合もあるが茶褐色の場合もある)がある場合にも救急車を呼んだ方がよい。
- 酔いつぶれて横になった場合には、寝ているうちに舌がのどに落ち込んだり、嘔吐物がのどに詰まって窒息する危険があるので、必ず体と頭を横向きにして寝かせること。回復体位と呼ばれる体位。
- 酔いつぶれている者がいる場合は絶対に目を離さず、顔色や呼吸の様子を常に観察し異常が見られた場合には、救急車を呼ぶ等の適切な処置をする。
- 体温が低下しないように毛布を掛けるなど保温に気を配る。
- 飲酒量として1時間ほどで、日本酒で1升、ビールで10本、ウイスキーならボトル1本程度飲んで酔いつぶれた場合には、生命にかかわる危険があるのですぐに救急車を呼ぶべきである。
- 意識があり水分を摂らせる場合には、スポーツドリンクなど電解質を多く含むものは避けるべきである。
[編集] その他
アルコール依存症は、慢性アルコール中毒といわれることもあるが、本疾患とは別の概念である。
中長期にわたるアルコールの身体への影響はアルコール飲料の項に詳しい。
[編集] 法律
急性アルコール中毒が発生した状況において、刑事責任を追及される場合がある。例を次に掲げる
刑法 (1907.4.24~) ※抜粋 |
第二百五条(傷害致死) 身体を傷害し、よって人を死亡させた者 |
例)飲酒を強要し急性アルコール中毒で死亡させた場合等 最低2年の有期懲役 |
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第二百六条(現場助勢) 前2条(傷害・傷害致死)犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者(自ら人を傷害しなくても) |
例)集団で強要し急性アルコール中毒となった場合等 最高1年の懲役または最高10万円の罰金、科料 |
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第二百九条(過失傷害) 過失により人を傷害した者 2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 |
例)飲酒を強要し急性アルコール中毒となった場合等 最高30万円の罰金又は科料 |
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第二百十八条(保護責任者遺棄等) 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったとき |
例)泥酔者を放置した場合等 最低3ヶ月から5年までの懲役 |
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第二百十九条(遺棄等致死傷) 前2条(保護責任者遺棄等ほか)の罪を犯し、よって人を死傷させた者 |
例)泥酔者を放置して死亡させた場合等 保護責任者遺棄等の罪と傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 |
他にも飲酒に関する法令についてはアルコール飲料の項で更に詳しい説明がなされている。