急ブレーキ
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急ブレーキ(きゅうブレーキ)とは、乗り物を急激に減速ないし停止させる必要に迫られた際にかけるブレーキ、またその様態のこと。「失政のため景気回復に急ブレーキがかかった」などと比喩としても用いる。本稿では、自動車・オートバイなどのタイヤで陸上を走る乗り物の急ブレーキについて詳述する。
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[編集] 定義など
特別に「急ブレーキ」という装備・機能があるわけではなく、常態のブレーキよりも強くかける場合をまとめて呼ぶあいまいな言葉。なお、自動車以外で緊急用の特別によくきくブレーキが備えられている乗り物もあるが、それらは「緊急ブレーキ」「非常ブレーキ」などと呼ばれる(鉄道車両で緊急事態の際行われる操作については緊急列車防護装置参照)。
[編集] 道路交通法
道路交通法上は、次のように規定されている。
第二十四条 車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない。
すなわち、衝突など交通事故が発生する危険を防止するため、他に手段が無く、かつやむを得ない場合を除いては、急ブレーキは禁止される。ここで言う急ブレーキは、後述の、タイヤが路面との間で滑走を始める程度に(後述のABSが作動する程度を含む)、急なブレーキ、と解されている。
よって、公道(道路交通法に言う「道路」)上で、故意に(意図的に)急ブレーキの試みをするのは、理由を問わず違法である。
最高速度違反や、故意の(意図的な)蛇行運転をしていたり、その他道路交通法に違反する行為をしていた場合には、上記「やむを得ない場合」には当たらないとされる。すなわち、違反行為が無ければ急ブレーキを掛ける必要が無かったであろう(違反行為と急ブレーキとの間に因果関係が認められる)ような場合には、たとえ危険防止のための急ブレーキであったとしても急ブレーキ禁止違反となる。
また、車間距離保持義務との関係では、後車の車間距離不保持を理由として前車の急ブレーキが正当化されることも、前車の急ブレーキを理由として後車の車間距離不保持が正当化されることも、いずれもない。
すなわち、故意または不必要な急ブレーキを踏んだために後車が追突し、もって後車側の人を死傷させたりすれば、故意の場合は殺人罪、殺人未遂罪や傷害罪などの凶悪犯・粗暴犯、過失の場合(不必要な急ブレーキ)は業務上過失致死傷罪に問われうる。また、前車が急ブレーキその他の理由に急に(後車から見て不意に)減速・徐行・停止したために追突した場合も、後車の責任は免れない。執拗かつ異常に前車に接近して、その結果前車側の人を死傷させた場合、危険運転致死傷罪に問われうる。
よく「犬猫等が飛び出した場合には、急ブレーキを掛けたり急ハンドルをしたりするな」と言われる。これは、法令上は物体として扱われる犬猫等の動物よりも、人命を優先させるためである。法令上も、過失で動物ほか物体を損壊しても、賠償責任はともかく、罪には問われない(ただし器物損壊罪には問われうる)。一方、人間については死傷させれば業務上過失致死傷罪に問われる可能性がある。小動物等をとの衝突を避けるために急ブレーキや急ハンドルをした場合には、前述の「やむを得ない場合」には当たらないとされる可能性がある(ただし、体格の大きい動物に衝突した場合など車両側にも物理的に危険が及ぶような場合はこの限りではない)。
[編集] 概要
自動車(四輪自動車やオートバイ)は、タイヤで接地して陸上を走る。タイヤと路面との間には、それぞれの材質、温度、乾湿等の条件によって決まる摩擦係数がある。この摩擦係数の範囲内でのみ、自動車は、加速・減速・転回をすることができる。急ブレーキの場合にも、摩擦係数の限界を超えて減速することはできない。
[編集] 急ブレーキと制御不能
摩擦係数は、大別して「静止摩擦係数(静摩擦係数)」と「動摩擦係数」との2つの概念に分けることができる。「静止摩擦」は、2つの物体が相互に滑っていない状態での摩擦係数であり、「動摩擦係数」は滑っている状態での摩擦係数である。一般に静止摩擦係数は動摩擦係数より大きい。
自動車のタイヤと路面は、通常の滑っていない状態では、静止摩擦の状態である。しかし強くブレーキをかけた結果、タイヤと路面が滑り始めると、動摩擦の状態となる。動摩擦係数は静止摩擦係数より小さいから、この状態では逆にブレーキはききにくくなる。
また、タイヤが回転を止め完全に路面を滑走する状況になると(「タイヤがロックする」という)、ハンドル操作をはじめとした制御は一切きかなくなる。
そのため、急ブレーキの際は、通常の穏やかなブレーキとは異なり、さまざまな注意が必要になる。また、ブレーキは「強くかければかけるほど急激に減速できる」というものではなく、「限界の範囲内では強くかければより急激に減速できるものだが、その限界を超えて強くかけると逆に止まりにくくなり、制御を失う」ことに注意する必要がある。
[編集] 訓練と対策
[編集] 訓練
通常、公道での運転で、タイヤと路面が滑走するほどの急ブレーキを体験することは稀である。そのため、どの程度までブレーキをかけても大丈夫なのか、タイヤが滑走をはじめたらどのような挙動になるのか、そういった非常事態から回復するにはどうしたらいいか、そういったことを学ぶことはむずかしい。
そこで、自動車やオートバイの製造会社やそのサービス会社では、限界を体験するような運転体験スクールや訓練プログラムを提供している。たとえば、「タイヤが滑走をはじめてしまった場合には、いったんブレーキを緩めて滑走を止め、車やオートバイの制御を取り戻す」などの実技を体験することができる。これらのドライバーやライダーの訓練は、上手に急ブレーキをかける技術を身につけ、危険を回避するためのテクニックを習得するためには有効である。
また、自動二輪免許の試験課題には急制動と呼ばれる一定速度からの急ブレーキがある(実際は、タイヤをロックさせると失格である)。
[編集] 対策
また、車輌側の対策も行われている。
実用化されているもののひとつに「アンチロック・ブレーキ・システム」 (ABS) がある。これは、自動車やオートバイのブレーキに滑走検出機能をつけ、タイヤが滑って制御を失ったら自動的にブレーキのききをゆるめ、制御を取り戻すというものである。ABSを搭載した車輌の場合、操縦者はただ全力でブレーキをかければ、車輌側が自動的に限界ぎりぎりのブレーキをかけてくれるというものである。四輪自動車ではABSは標準的な装備になり、二輪車でも装備が進んでいる。