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孤島の鬼 - Wikipedia

孤島の鬼

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文学
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孤島の鬼」(ことうのおに)は、江戸川乱歩の著した探偵小説である。乱歩の長編小説のなかでは、最高傑作として位置づけられることが多い作品である。明智小五郎が登場しない乱歩作品である。

博文館から発行されていた雑誌『朝日』に、1929年1月から翌1930年2月まで連載され、のち改造社から単行本として刊行された。

乱歩は、博文館の編輯部長となった森下雨村から、同社が創刊する雑誌『朝日』の創刊号に、『新青年』誌に掲載した「陰獣」のような小説を執筆するよう依頼された。乱歩は、執筆と避寒を兼ねて三重県鳥羽の漁村に滞在し、当時、同性愛関連の資料蒐集をともにしていた岩田準一を宿に呼び出した。そのとき岩田が持参していた『鴎外全集』のなかの森鴎外の随筆に着想を得たのが、「孤島の鬼」であった。その鴎外の随筆では、中国で見世物のために人間の身体を改造する話が描かれていた。

石井輝男の監督作品「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」は、「孤島の鬼」と「パノラマ島奇談」の物語を骨格とし、そこに他の乱歩作品のエピソードをからませた内容の映画である。

[編集] あらすじ

主人公の蓑浦はまだ30歳にもならない青年であるが、髪は見事な白髪である。彼の体験したある恐ろしい出来事の、そのあまりの恐怖のために黒かった髪が一晩にして真っ白になってしまったのだ。彼の妻の体にはむごたらしい傷跡があり、また恋人と友人を立て続けに亡くした経験を持つが、それも同じ出来事に関連した結果であった。

過去のこと、蓑浦は同僚の初代と恋に落ち結婚を決意する。初代は3歳の時に実の親に捨てられ、育ての親に拾われ大事に育ててもらい、養父亡き今は養母と仲良く暮らしていた。初代が捨てられた時に持たされていた系譜図は肝心なところが破れていて、やはり身元はわからないのだが、初代はお守りがわりのように肌身離さず持ち歩いている。結婚指輪を贈る蓑浦に初代は「私はお返しできるような値打ちのあるものは何も持っていないから、命の次に大事なこれを」と系譜図を贈るのだった。

そんな折、初代に猛烈な求婚を申し込む相手が現れる。家柄も収入も学歴も蓑浦より格段に上のその男は諸戸といい、蓑浦の知り合いだった。蓑浦と諸戸は学生時代に知り合い、蓑浦は尊敬できる先輩といった風に諸戸を慕っていた。諸戸は快活で頭のよい美男子だが実は同性愛者であり、女性に興味がないどころか汚いものだとさえ感じ、またそんな自分を恐ろしくも思い、そして蓑浦に恋情を寄せていた。蓑浦はわずかにそれを悟っていた。酒の勢いで蓑浦に対する恋情を暴露してしまった後は気まずくなり会うことも少なくなったが、いまでも熱烈な手紙をよこす諸戸とつい最近出かけたこともあった。蓑浦に同性愛者の性癖はなかったが、立派な男性として尊敬できる相手である諸戸にそういった感情をむけられることで少しばかり自尊心がくすぐられる向きもあったのだ。蓑浦は諸戸が初代に求婚したのは、初代と自分の仲を引き裂くためではないかと疑う。

ある日自宅で初代が殺され、いつも系譜図を入れていた手提袋などが盗まれる。自宅の鍵はすべてかけられており侵入の痕跡は見当たらない。蓑浦は諸戸を疑わずにはおれず、ひそかに初代の復讐を誓って探偵業を営む友人をたずねるが、彼もまた犯行など不可能と思われるような混雑した海水浴場で白昼堂々殺されてしまう。現場検証を見守る群衆の中に諸戸の姿を発見した蓑浦はいよいよ諸戸に対する疑いを深くするが、その後はこの頃考えていたよりももっと複雑な、おぞましく不幸に呪われた、残酷な「鬼」の所業ともいえる恐ろしい出来事に巻き込まれてゆく…。

[編集] 収録全集・叢書など

  • 『江戸川乱歩全集』第5巻、平凡社、1936年7月
  • 『江戸川乱歩選集』第9巻、新潮社、1939年8月
  • 『江戸川乱歩全集』第1巻、春陽堂、1955年2月
  • 『江戸川乱歩全集』第2巻、桃源社、1961年11月
  • 『江戸川乱歩全集』第4巻、講談社、1978年11月
  • 『現代日本推理小説叢書』 江戸川乱歩 第1巻『孤島の鬼』、創元社(創元推理文庫)、1987年6月 ISBN 4-488-40101-5
  • 『江戸川乱歩全集』第4巻(『孤島の鬼』)(『光文社文庫』)、光文社、2003年8月 ISBN 4-334-73528-2

※『光文社文庫・江戸川乱歩全集』は、今日の観点から見て、問題視される表現・用語を修正しており、その点は、「孤島の鬼」だけに限らない。 『光文社文庫・江戸川乱歩全集』江戸川乱歩作品は、時代の相違上、現代では問題とされる表現を修正して出版しているシリーズである。

※これに対し、創元推理文庫(創元社)に収録された本作品は、光文社文庫版では修正された表現も原文のまま掲載されている(巻末の編集部後記には、この点について、あえて原文通りにした旨が述べられている)。 創元推理文庫(創元社)では、本作品が雑誌「朝日」に連載されていた際の全ての挿絵・扉絵・見出し(竹中英太郎作)が合わせて収録されている。


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