奇巌城
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奇巌城 (きがんじょう, 奇岩城とも, L'aiguille Creuse) は、モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンシリーズの一篇。1909年発表。
「奇巌城」とは日本で最初にルパン全集を訳した保篠龍緒による訳題で、原題を直訳すると『空洞の針』ないし『空ろの針』などとなるが、この邦題があまりに見事なため、ほぼすべての邦訳で用いられている。
ルパンファンの間では「813」と並んでルパン・シリーズ最高傑作との呼び声が高く、エルロック・ショルメ(Herlock Sholmes・邦訳ではシャーロック・ホームズ)や、この作品のみ登場の高校生探偵イジドール・ボートルレ(こちらもガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』などに登場するルールタビーユのパスティーシュであるといわれている)、及びガニマール警部などとの激しい知力合戦が繰り広げられる。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] あらすじ
ノルマンディーのジェーブル伯爵邸で殺人事件が発生した。事件の影に、すでに伝説的怪盗として名を馳せていたアルセーヌ・ルパンの影が。高校生探偵イジドール・ボートルレは次々に謎を解き、ルパンの足取りを突き止めてゆく。フランス王家の財宝やガニマール警部、イギリス人探偵エルロック・ショルメも絡み、事件は次第に壮大な全貌を見せはじめる。そして思いも拠らぬ結末が!
[編集] ルパンシリーズにおける意義
ルパンシリーズの単行本第4冊目にして、初の長編(1冊目は短編集、2冊目は2本の中編、3冊目は舞台のノベライズ)。過去3本の短・中編で対決してきたライバル探偵「エルロック・ショルメ」との、最後の直接対決でもある。
この作品で、ルパンはその難攻不落の隠れ家(エギーユ・クルーズ)から追い出される事になる。「エギーユ・クルーズの事を考慮に入れない限り、ルパンは全く不可解な存在になり、伝説中の人物、現実離れのした伝奇物語中の主人公になってしまう。しかし、このとてつもない秘密を知っていたとしても、ルパンは、実はごく普通の人間なのだ。ただこの途方もない武器を、極めて巧みに使う術を知っているだけなのだ」(以上、「奇巌城」から抜粋)と言うように、エギーユ・クルーズは、初期のルパンの活躍における、力の源泉であった事が明かされる。
[編集] ホームズとショルメ
ルブランは短編「遅かりしシャーロック・ホームズ」の雑誌発表時、当時大人気を博していた英国の小説家サー・アーサー・コナン・ドイルの探偵小説の主人公シャーロック・ホームズの名前をそのまま使って登場させ、ルパンと対決させた。しかしドイルからすぐさま厳重な抗議があったため、ルブランは以降の作品ではこのキャラクターをエルロック・ショルメ(Herlock Sholmès)(アナグラムを用いている)というホームズとは別人ということにし、キャラクター付けも明確に変えたオリジナル・キャラクター(正確にはパロディー・キャラクター)として構築している。「遅かりし~」も、単行本(「怪盗紳士ルパン」)では「ショルメ」と修正して収録された。
しかしながら、アナグラムからも容易にわかるように、ショルメがホームズを指すことは当時の作者及び読者の共通認識であり、ホームズが人殺しをしてしまう作品として認識されている。このため、ホームズファン及びドイルに多大な不快感を与え、かつ、ルパンファンにはホームズに対する嫌悪感を引き起こす作品ではある。なお、日本では古くから「エルロック・ショルメ」は「シャーロック・ホームズ」と改変して訳す慣習となっている。原文では、アナグラムから容易にショルメ=ホームズであると連想できるのに対し、日本語訳でそのままエルロックショルメとすると、ショルメ=ホームズとの連想が成立しにくいからであり、作者の意向をくみ取った訳文となっている。なお、「奇巌城」発表時はショルメは充分「ルパン世界」の独立したキャラクターとして一人歩きしていること、及びこの作品のショルメがホームズであったことは、雑誌発表時も含めて一度もないことを根拠として、ショルメがホームズをさすものではないという意見もあるが、アナグラム化したキャラクターをそのまま用いている以上、ショルメ=ホームズが作者の意向であったことは否めない。このようにショルメをホームズとして訳していることが、日本のホームズファン(ホームジアン、シャーロッキアン)はルパンという作品を快く思っておらず、逆にルパンファンもホームズというキャラクターを好まないという、お互いに不幸せな構図の主因であるという意見もあるが、原文では容易にショルメ=ホームズとわかるが、日本では、それがわかりにくいことから、ホームズとして訳しているのであり、上記のような「不幸な構図」をすべて翻訳者の責にすることは筋違いである。作者はこのような「不幸な構図」を生むのを承知した上で作品を創作しているのであり、このようなエスプリを含んだ背景をも含めてこの作品を翻訳することを非難することは、むしろ作者の意図を歪曲するものである。
[編集] ルブランとルルー
ルブランが、本作に、ルルーの『黄色い部屋の秘密』などに登場するルールタビーユを思わせる、少年探偵ボートルレを登場させたことから、ルブランとルルーの関係は、一時期、かなり険悪なモノになった。エルロック・ショルメの一件を見ても分かるように、ルブランは挑発的で、エンターテイメント志向の強い、かなり人騒がせな人物だったと言えるだろう。もっとも、そうしたルブランの姿勢がルパンシリーズを面白くしている事実も否めない。
[編集] 舞台
フランス・ノルマンディーのコー地方。ルーアン、ル・アーブル、ディエップを結ぶ三角地帯が中心。ここは原作者のルブランが生まれた地でもあり、晩年をも過ごした、ルブラン最愛の地である。 エギーユ・クルーズのモデルとなった大針岩はエトルタの海岸に実在している。またこのエトルタの海岸は、同シリーズの「カリオストロ伯爵夫人」や、「八点鐘」の一編「テレーズとジェルメーヌ」の舞台でもある。これはクロード・モネの絵の題材にもなった有名な岸壁である。その頂上に登ると崖の内部に潜れるようになっており、『奇巌城』で出てきた暗号がそのまま金属プレートで掲示されている。またエトルタには彼の住居を基にしたモーリス・ルブラン記念館、通称「アルセーヌ・ルパンの隠れ家」がある。
[編集] カリオストロ4つの謎
この物語の核心となる謎は、後の作品「カリオストロ伯爵夫人」で語られる、マリー・アントワネットの口から語られカリオストロ伯爵が追い求めていたと言う「カリオストロ4つの謎」のうちの一つである。
カリオストロ4つの謎とは以下の通り。
●幸運の力によりて(イン・ロボール・フォルチュナ) … 「女探偵ドロテ」にて解明
●ボヘミア諸王の敷石 …「三十棺桶島」にて解明
●フランス諸王の富 … 本書「奇巌城」にて解明
●七本枝の燭台 … 「カリオストロ伯爵夫人」にて解明
[編集] 関連項目
- 最高裁判所 - その特異な外観から別名「奇巌城」と呼ばれる。