北朝鮮の核実験 (2006年)
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朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、2006年10月9日10時35分(KST)に初めて地下核実験を行ったと発表した。各国が観測した地震波からの推定によると爆発の規模はTNT換算で0.5~1.5キロトン程度という推定が多く、これは長崎型原爆のTNT換算22キロトンと比べてもかなり小さい。北朝鮮政府による映像の発表等がまったくないため、核爆発は不十分で実験は失敗に終わったとの見方が多いが、核実験独特の地震波が観測されているため、何らかの核爆発は起きたとみられている。
目次 |
[編集] 背景
- 1991年12月31日 - 朝鮮半島非核化に関する南北共同宣言。
- 1993年
- 1994年10月21日 - 米朝枠組み合意に調印。北朝鮮の主要核施設凍結。
- 1998年8月31日 - 北朝鮮がテポドン1号の発射実験。
- 2002年12月12日 - 寧辺にある核施設の再開を表明。
- 2003年
- 2005年
- 2月10日 - 北朝鮮が核兵器保有を公式に宣言。
- 11月25日 - 朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)解散、清算。
- 2006年
[編集] 概要
2006年10月9日10時35分(KST)、北朝鮮は地下核実験を実施。爆発による地震波の測定から、咸鏡北道吉州郡豊渓里で実施したとみられている。
CTBTOに基づく地震波観測網および、津波早期警戒観測網の高感度地震計で、核実験によるものとみられる人工的な地震波が捉えられた。
地震波を解析した結果推定された実験の規模は、CTBTOの観測網はM4.0、気象庁はM4.9、アメリカ合衆国地質研究所(USGS)はM4.2、韓国地質資源研究院はM3.58~3.7としている。震源の深さは0km(USGSの推定)で、通常の地震よりもかなり地表に近いところから地震波が到達したと推定されている。またロシア政府も、「同時刻に核実験を探知した」としている。
なお、各機関によってマグニチュードに大きな差があるが、これは核実験がP波をパルス状に出し、その最大振幅によってマグニチュードが決定されることによる。1つのパルスは、観測点や観測状況によって大きく異なり、マグニチュードの誤差も大きくなる。 アメリカ合衆国地震研究所(IRIS)の地震計ネットワークでは、推定"震源"の近傍でしかその波が捉えられなかった[要出典][1]。また日本の地震観測網(たとえばHi-net)は、"震源"の南東側しかカバーしきれず、満足な地震波形データが得られたとは言えない状況にある。
核実験と同時に、あるいは誘発されて自然地震が発生した可能性も指摘されており、これが核実験の解析を難しくしている。本来核実験ではほとんど発生しないS波も観測されている[要出典]。
爆発の規模は高性能爆薬TNT換算で、USGSが0.5~5キロトン、日本の東京大学地震研究所が0.5~1.5キロトン程度ではないかとコメントしている。最も大きな見積もりでも15キロトン程度と見られる[要出典]。
しかし、日本やアメリカ合衆国などの各政府は、核実験であるかどうかの確認には数日かかるため、正式に「核実験が行われた」とは当初していなかった。地震波の測定結果などから推定される爆発規模は極めて小さく、通常核実験規模の指針とされる広島・長崎型原爆の威力には達していないと見られている事や、放射能の拡散が検出されていない等から、プルトニウムの爆縮がうまくいかないなどしてに実験が失敗したとの見方が多い。地下空洞を利用して大きな核爆発が周辺諸国で小さく感じられるよう巧みに偽装した可能性も指摘されているが、示威行為の側面が強い今回の実験を、わざわざ規模を小さく見せる必然性は薄い。
一方、小型核の開発に成功したとの意見もある。実際、北朝鮮は核実験の直前に中国に核実験実施を事前通報したが、その時の設計計画爆発力は4キロトンとして中国に通知している。広島は16キロトンであり、4キロトンと中国に事前通知したと言うことは、核物質の手持ち量が少ないため、当初から核物質を限界まで節減して実験を実施した可能性は高い。
ただし、中国へ通知した4キロトンの計画爆発力も出せず、0.5キロトンと言う実験結果からすると、部分的成功に終わったと言う見解が多い。核物質の純度か、爆縮を起こすための起爆装置の性能に問題があった可能性がある。小型核を作るにはさらに高度な技術が必要である。プルトニウム240が過多であったか、爆縮装置の性能不足が疑われている。しかし、北朝鮮政府による映像の発表等がまったくないこともあり、真実は不明である。
北朝鮮のプルトニウム核爆弾は、不完全ではあるが、それでも爆発力はかなりのものであり、非常な脅威ではあるとされている。核分裂が不完全に終わっても、実際に都心で爆発すれば、高圧の火球(1キロトンでは温度100万度・直径40m)が数秒間出現し、大変なことになると予想される。また、今回の実験では、完全な爆発による示威と、設計どおりの完全な作動の実証には失敗したものの、北朝鮮側はデータを入手したので次回も過早爆発になる可能性はあまり期待できないとの見方もある[要出典]。しかし北朝鮮の技術で十分な核爆弾を作れるかどうかは不明である。
[編集] 環境への影響
放射能漏れなどによる周辺諸国への影響は実験前から懸念されていたが、今のところ影響はないとされている。ただ韓国政府は実験後、放射能の監視体制を強化して変化があった場合は国民に知らせるとしており、これに関連して日本の外務省は韓国滞在者や渡航者に対して「スポット情報」を出し情報に注意するよう促している。[2]
また、放射能漏れを心配する声が多いことから、日本海産の海産物などへの風評被害も懸念されている。
[編集] 金融市場への影響
為替相場では、円の対外相場がやや下落するなどの影響が出た。
株式市場では、韓国で影響が大きく、韓国証券取引所総合指数が2.5%、コスダック(ナスダックの韓国版)は急落のため取引を一時停止する措置がとられた。
[編集] 各国などの対応
[編集] アメリカ合衆国
ジョージ・ウォーカー・ブッシュアメリカ合衆国大統領は、北朝鮮への物理的攻撃ではなく、外交的に話し合いで解決していくと述べた[3]。
[編集] 日本
安倍晋三首相が訪韓中に起こったことであり、対応は遅れた。核実験および弾道ミサイル開発に対し、「国際社会の平和と安全に対する重大な脅威」「厳重に抗議し、断固として非難する」と発表した[4]。
国際連合の安全保障理事会議長国として、国連憲章第7章による制裁決議を進めていくほか、日本独自の制裁を実施を決定した[5]。
- 2006年10月11日発動。
- 北朝鮮国籍を有する者の原則入国禁止。
- 2006年10月14日発動[6]。
- 特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法に基づいて、北朝鮮船籍のすべての船舶の入港を禁止。(期間は2006年10月14日 - 2007年4月13日)
- 輸入貿易管理令、外国為替令に基づいて、北朝鮮からの輸入の全面禁止。
なお、貨客船万景峰号はミサイル発射実験があった2006年7月5日から入港を禁止されている。
秋葉忠利広島市市長は、10月9日、「強い怒りを覚える。被爆地・広島市を代表して厳重に抗議する」とのコメントを発表した。10日、北朝鮮に抗議文を送った[7]。
伊藤一長長崎市市長は、10月9日、「核兵器開発の即時中止を求める」との抗議文を送ると共に、日本政府に毅然とした対応を求める要請文を送ったとのコメントを発表した[8]。
山崎拓議員が北朝鮮の核実験を肯定ともとられる発言を行ったことは、秋葉広島市長と伊藤長崎市長からの抗議を受けるなど問題となった。
[編集] 中華人民共和国
中国政府は、核実験の数十分前に北朝鮮から実験を行う旨の通知を受けたという[9]。また、その通知を受けて中国政府は、核実験の数分前に在北京日本大使館にも連絡を行っていたという[10]。
従来は北朝鮮の核開発疑惑に対する制裁措置に慎重な姿勢を見せていたが、今回の核実験実施の報を受け、王光亜国連大使が一定の制裁を容認する見解を示した[11]。
2006年10月17日、中国政府は、北朝鮮への送金を停止したことなどを事実上認めた[12]。
[編集] 大韓民国
韓国政府は「朝鮮半島非核化宣言に反する行為」「対話を通じた問題解決に逆行する」として、強い非難の態度を取った[13]。
北朝鮮に対して「太陽政策」を実施してきたが、一部の国民からの強い反発もある。
当日、安倍晋三首相がソウルを訪問し、韓国の盧武鉉大統領と会談する予定が組まれていた。首脳会談は予定通り実施されたが、その多くの時間が核実験による対応に割かれた。
[編集] ロシア
ロシア政府は、核実験の約2時間前に北朝鮮から通知を受けたという。国営のイタル・タス通信は、「100%核実験である」と報道した[14]。
ウラジーミル・プーチン大統領は、軍事バランスの崩壊は容認できず、無条件で非難すると述べた[15]。また、コサチョフ国際関係委員長は、核実験は米国の圧力が原因であると述べた[16]。
[編集] 朝鮮民主主義人民共和国
金永南最高人民会議常任委員長は、「今後の核実験の継続は米国の対応次第である。金融制裁を解除しなければ、六者会合にも応じない。」と述べた[17]。 朴吉淵国連大使が「わが国の科学者、研究者に祝辞を述べるべきだ」と語った[18]。 国境警備兵は「核実験の成功を誇りに思う」と話している[19]。
[編集] 国際連合
国際連合安全保障理事会決議1718を採択し、国連憲章第7章第41条に基づく経済制裁実施を決定。これに対し、北朝鮮は「この決議は、わが国を崩壊させようというアメリカ合衆国のシナリオであり、わが国に対する宣戦布告とみなす」と、朝鮮中央放送を通じて発表した[20]。
[編集] 脚注
- ^ IRISの波形データ参照。
- ^ 「韓国:北朝鮮による地下核実験実施発表について」。外務省、2006年10月9日。
- ^ "United States Committed to Diplomacy with North Korea, Bush says"。在日アメリカ合衆国大使館、2006年10月12日。
- ^ 「北朝鮮による地下核実験実施発表に対する内閣官房長官声明」。首相官邸、2006年10月9日。
- ^ 「北朝鮮制裁、閣議決定 あすから輸入全面禁止」。産経新聞、2006年10月13日。
- ^ 平成十八年内閣告示第四号、平成十八年経済産業省告示第三百八号から第三百十一号。
- ^ 秋葉忠利 (広島市長)「北朝鮮の核実験実施の発表に対する抗議文」。2006年10月10日。
- ^ 伊藤一長(長崎市長)、山口博(長崎市議会議長)「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験への抗議」。2006年10月9日。
- ^ 「北朝鮮、中ロに事前通告」日本経済新聞、2006年10月10日。
- ^ 「北朝鮮、中ロに事前通告」日本経済新聞、2006年10月10日。
- ^ 共同通信「中国、北朝鮮制裁を容認 日米、決議案一本化へ」。U.S. FrontLine、2006年10月10日。
- ^ 「中国の銀行が送金停止 対北朝鮮、外務省認める」。西日本新聞、2006年10月18日。
- ^ 「北韓(北朝鮮)は核実験計画を直ちに取り消さなければならない(外交通商部) 」。大韓民国外交通商省、2006年10月4日。
- ^ 北朝鮮核実験、9日のドキュメント。朝日新聞、2006年10月11日。
- ^ 「北朝鮮の核実験、各国が非難」朝日新聞、2006年10月10日。
- ^ 北朝鮮核実験、9日のドキュメント。朝日新聞、2006年10月11日。
- ^ 「核実験継続は米次第 日朝平壌宣言は有効」。共同通信、2006年10月11日。
- ^ 共同通信「北朝鮮国連大使、核実験「祝福すべきだ」。日本経済新聞、2006年10月10日。
- ^ 「「核実験、誇りに思う」 あっけらかんと国境警備兵」。朝日新聞、2006年10月10日
- ^ 「北朝鮮、制裁は「宣戦布告」と声明」。TBS News-i、2006年10月17日。