効用
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効用(こうよう)とは、ミクロ経済学で用いられる用語で、人が財(商品)を消費することから得られる満足の水準を表わす。対語は非効用(不満足)。見込まれている効用は期待効用。
近代経済学においては、物の価値を効用ではかる効用価値説を採用し、消費者行動は予算制約による条件付き効用最大化問題として定式化される。また利潤の最大化をめざす企業部門に対し、家計部門は効用の最大化をめざすものと仮定される。一方、マルクス経済学においては、物の価値を労働ではかる労働価値説を採用している。
尚、価格のあらわす希少性は、効用とは区別すべき概念である。伝統的には水とダイヤモンドを例として価値のパラドックスを問題にしたアダム・スミスがいる。
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[編集] 基数的効用と序数的効用
効用を測定する方法としては、基数的効用(Cardinal Utility)と序数的効用(Ordinal Utility)とがある。前者が効用の大きさを数値(あるいは金額)として測定可能であるとするのに対して、後者は効用を測定不可能ではあるが順序付けは可能であるとする点で異なり、両者の違いは、これは効用の可測性の問題として、効用の概念の発生当初から議論の対象であった。
当初は基数的効用の考えが主流であり、効用は測定可能で、各個人の効用を合計すれば社会の効用が計算され、また、異なる個人間で効用を比較したり足し合わせることも可能であると考えられた。
しかし、効用の尺度として客観的なものを見出すことができなかったため、現在では多くの経済学者が、「ある選択肢が、他の選択肢より好ましいかどうか」という個人の選好関係をもとに、より好ましい財の組み合わせはより大きな効用をもつ、という意味での序数的効用によって効用を考えている。序数的効用では効用は主観的なもので、異なる個人間で比較することも、各個人の効用を足し合わせて社会全体の効用を測定することもできないとされる。尺度水準を参照のこと。
[編集] 限界効用と限界代替率
財一単位の消費による効用の増加分を限界効用と呼ぶ。限界効用は、消費量が増加するにつれて減少すると考えられ、これを「限界効用逓減の法則」と呼ぶ。この法則は基数的効用 に基づく。
これに対し、ある消費者にとって同じ効用をもたらす財の組み合わせは無差別曲線と呼ばれ、2財モデルの消費者行動分析においては基本的なツールとして用いられる。また複数の財の任意の消費量における限界効用の比を限界代替率と呼ぶ。消費者は市場価格の比と限界代替率が等しくなる点で効用を最大化するという意味で、限界代替率は消費者行動分析において重要な役割を果たす。尚、財Aを増やすにつれて同じ効用を保つために諦めねばならない財Bの量が減ることは、財Aに対する財Bの限界代替率逓減の法則といわれる。この法則は序数的効用 に基づく。
[編集] 厚生経済学との関係
[編集] ピグーの第2命題
ピグーの「厚生経済学」は、所得配分の公正 を問題としている。そこでは所得再配分はそれが経済全体のアウトプットを減少させないかぎり、一般に経済的厚生を増大させると説かれている(ピグーの第2命題)。この命題は、限界効用逓減の法則から導かれたもので、効用の基数性を前提した上、所得再配分は貧者のより強い欲望を満たすことができるから、欲望充足の早計を増大させることは明らかであるとしている。
これに対し、新厚生経済学では、所得配分の公正よりはむしろ資源配分の最適性 が問題となっている。ロビンズの「経済学の本質と意義」では、ピグーの第2命題は、理論的な仮定からは導かれず、単なる倫理的な仮定にすぎないとしている。この結論は効用の可測性(基数性)の否定から導かれたもので、内省によっては他人の内心を測定できない以上、異なった人の満足を比較する方法がないとしている(効用の序数性)。
しかしながら効用の序数性を仮定する限り、各個人の選好順序から社会的な選好順序を得ることはできない。これをアローの不可能性定理といい、序数主義の限界を示すものと考えられている。
[編集] パレート改善
効用の序数性を前提とする新厚生経済学においては、ある集団において、少なくとも一人の効用を改善でき、誰の効用も悪化させないような資源配分の改善はパレート改善といわれ、もはやパレート改善の余地のない状態はパレート最適といわれる。このパレート改善によるパレート基準が現実の経済政策に適用されるためには、潜在的な財の移転を想定した補償原理(カルドア・ヒックス基準)が求められる。
[編集] ロールズ基準
ロールズの格差原理においては、社会において自分自身がいかなる境遇におかれることになるか知られないという無知のヴェールが仮定されたとき、社会で最も不遇な人々の厚生が極大化されるという原理が成立するとされる。