光害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
光害(ひかりがい、こうがい)は、過剰または不要な光による公害のことである。夜空が明るくなり、天体観測に障害を及ぼしたり、生態系を混乱させたり、あるいはエネルギーの浪費の一因になるというように、様々な影響がある。光害は、高度に工業化され、人口が密集したアメリカ、ヨーロッパ、日本で特に深刻である。
日本では、川崎市在住のアマチュア天文家川村幹夫により、「公害」の一種と捉え、敢えて同じ発音を持つ「光害(こうがい)」と命名され、一躍この用語が全国に広まった。最近では「公害」と発音が同じでまぎらわしいとの指摘から現在は一般に「ひかりがい」の呼称が用いられている。
上記以外にも、昼間、ビルの窓ガラスに太陽光が反射して生じる影響についても、自動車の安全運転などに支障をきたすことなどにより、一種の光害とされる[要出典]。
目次 |
[編集] 光害の影響
[編集] 天体観測への影響
光害の影響として最も代表的なのは、夜空が明るくなり、星が見えなくなってしまうことである。自然のままの状態の夜空であれば、肉眼では数千もの星や、天の川がはっきり見える。しかし、光害が進んだ地域では、天の川が全く見えないのはもちろん、肉眼で見ることのできる星も極めて限られてしまう。現在の日本では、都市部で天の川を見ることはほとんど不可能と言ってよい。「美しい星空が失われたことが、子供達の理科の力の低下にも繋がっている」という指摘もある[要出典]。
光害のため、天文台での天体観測や、アマチュア天文家の天体観望や写真撮影などが著しく妨害されることがある。敏感な観測機器には、小さな明かりでも大きな影響が出る。天文台が作られてから、そのすぐそばに都市が大きく成長したため、街灯のオレンジ色の光により天文台の観測に大きな障害が出ることがある。また、光害のある市街地などで天体写真を長時間露出して撮影すると、街灯の明かりのため画面全体が明るい緑色になってしまう。50km離れた都市の明かりでも、影響が出る場合もある。
[編集] 生態系への影響
研究者の中には、光害が人間や動物、昆虫の行動に影響を及ぼしていると考えているものもいる。ウェルズリー大学で動物プランクトンについて研究したマリアン・ムーアは、湖の周囲の光害が、魚が水面の藻を食べるのを妨げ、赤潮などの有害藻類ブルームが魚を全滅させる原因になっていると考えている。また、光害は他にも生態系に影響を及ぼしている可能性がある。例えば、夜に開花する花を受粉させる蛾の行動の変化などである。多くの鱗翅類学者や昆虫学者は、夜間の照明が、蛾の飛行能力を妨害していると考えている。鳥類にも同じ事が言えると考える学者もいる。
また、植物への影響も報告されている。明るい街灯のそばで夜間も長時間光を浴びつづける街路樹などには、紅葉の遅れなどの異常が起きることがある。これにより、植物の寿命が短くなってしまうことがある。稲にも、至近距離の明るい街灯から照らされつづけた場合、異常出穂や稔実障害が発生することが報告されている。
[編集] エネルギー資源への影響
過剰な照明使用や、人の生活圏外である空に向けて光が漏れることは、エネルギーの浪費である。国際エネルギー機関による2006年の記者発表によれば、現状のまま不適切な照明利用が続けば2030年には照明に使われる電力は80%増加するが、適切な照明利用が行なわれれば2030年でも現在と同等の消費電力に抑えることができるという。
[編集] その他の影響
街灯の過剰な明かりは歩行者や車の運転者に危険を及ぼすこともある。夜、街灯の光源から届く眩しい光(グレアと呼ばれる)が目に入ると、目がくらんで、暗いものまで見えるように開いていた瞳孔が収縮してしまい、1時間以上[要出典]戻らないことがある。こうなると、影になった暗い部分が見えなくなってしまい危険である。
[編集] 光害の原因
光害の原因となる光は、家庭や会社、工場、街灯、スポーツ場の照明、パチンコ店のライトなど、様々なところから出されている。
光害の主な原因として、不適切な形態の街灯が挙げられる。例えば、光源の周りをただのガラス球などで覆ったような街灯は、光があらゆる方向に発されるため、上の方への光は全く無駄になってしまう。また、横方向の光は、グレアとして、運転者などの目をくらませる原因となる。
日本では、イカ釣り漁船の漁火によって、海までもが非常に明るいときがある。漁火の光は、船の消費燃料の約半分という莫大なエネルギーを使って点されているが、上空にそのまま逃げたり、船の甲板や海面で反射されたり、吸収されたりして、大半が無駄になっている。海岸地域では、光害の原因の一つとなっている。
また、道路脇などによく自動販売機が設置されており、夜間明るい光を放っている。これも光害の原因の一部となる。日本で1年間に無駄にされる照明の光は、電気代に換算して2000億円相当になるという試算もある[要出典]。
[編集] 光害への対策
他の公害と異なり、光害を防ぐのは難しいことではない。明かりを消せば、暗い空がすぐに戻ってくる。しかし、実際にはこれは非常に難しい。光害は社会の工業化と深く関わっているからである。
街灯は、上部に反射材を伴う覆いを付けるなどして、不必要な方向への漏れ光を防ぐとともに、それらを適切に反射し、必要な方向だけに効率よく光が当たるようにした街灯への切り替えが求められる。また、使用光源に関しても、水銀灯に代表されるエネルギー効率の悪い[要出典]光源の使用を避け、効率の良い光源の利用の促進が求められる。しかし、まだまだそのような対策が全くなされていない照明も多い。
光害は、屋外での不要な照明を消すなどしても防ぐことができる。例えば、スポーツ場などの照明を、人が中にいるときにだけつけるなどの対策をとれば、その分光害を防ぐとともにエネルギーを節約できることになる。また、より暗い照明を使うことで、グレアを軽減させることができる。
アメリカでは、主な天文台の周囲に、直径数十kmの、光の放射が厳しく制限されている地域が設けられていることがある。1980年には、カリフォルニア州のサンノゼで、近くにあるリック天文台への影響を防ぐために、全ての街灯が低圧ナトリウムランプに取り替えられた。アリゾナ州ツーソン市では条例により市内全域に光源規制を行っている。特に、キットピーク国立天文台(Kitt Peak National Observatory)の半径35マイル及びマウントホプキンス天文台(Mount Hopkins Observatory)の半径25マイルについては屋外照明として石英灯(quartz lamp)、メタルハライドランプを使用禁止としているほか、その他の光源についても完全遮光、あるいは上方集束の遮光を求めている。似たような事業がハワイ州などでも行われている。
日本でも、1988年から、光害と大気汚染問題に関心を持ってもらおうと、全国の一般市民に参加を募り全国星空継続観察が開始された。また、1998年3月30日には、環境庁(現環境省)により、「光害対策ガイドライン」が策定された。 全国各地の自治体でも、パチンコ店などから発せられる無駄なサーチライトを禁止する条例が制定されている。岡山県美星町(現井原市)で、1989年11月22日に、美しい星空を守るための「光害防止条例」が制定されたのをはじめ、岡山県、佐賀県、熊本県では県としてサーチライト禁止条例を制定している。
漁火の問題への対策としては、青色発光ダイオードを用いた集魚灯が試験中である。従来のメタルハライド灯を用いる集魚灯と比較して消費電力は1/50~1/100程度で、指向性が高いために必要外の方向への漏れ光も少なく、機器の寿命も長い。現段階では必ずしも従来のメタルハライド灯と同等の漁獲を得られるわけではないといった問題点もあるが、実用化されればイカ漁業者の経費の大幅削減、イカ漁船による二酸化炭素排出量の大幅削減、周辺地域の星空の改善といった効果が期待されている。