似非方言
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
似非方言(えせほうげん)とは、日本各地の方言を模した架空の方言のこと。方言に関する知識の乏しさから生じたものであるが、役割語の一種となっているものも多い。
特に関西弁(大阪弁、京都弁)、東北弁(津軽弁など)、九州弁(博多弁、鹿児島弁)、広島弁、江戸弁など認知度の高い方言に多い。
似非方言では以下のような特徴が多く見受けられる。
- 文法がでたらめ、あるいは共通語の文章の語尾にだけ方言を使用する。
- アクセントやイントネーションがでたらめ、あるいは他地方のものを使用する。
- 違う地方同士の方言を混同して使用する。
- 特定の集団のみで使用する表現をその方言で一般的な表現として使用する。
- 現代では使用されていない表現を現代でも一般的な方言として使用する。
- 表現の使用される状況や使用する人物が不適当である。
誤用例は印象に残りやすい各方言の語尾に特に多く、大阪の「でんがな・まんがな・でおま」、京都の「どすえ」、九州の「ごわす・ばい・ばってん」、広島の「じゃけえ・じゃけん」、高知の「ぜよ」、名古屋の「だぎゃあ」などがよく知られている。これは様々な方言を表現する際に、方言に対する詳しい知識が無くても容易に標準語話者との差別化ができることから一般化したものと考えられる。
似非方言は当該地域のイメージダウンや地方差別を誘引し、さらには本来の方言自体に悪影響を与えることすらある。このようなことから似非方言は地元住民からは好ましく思われないことが多く、何も知らない他地方の出身者が得意げに似非方言を使って嫌悪されることがままある。しかしその一方で、受けを狙ってわざと似非方言を使ってみせる者がいたり、また似非方言を取っ掛かりにしてその方言についての理解を深めたりといったことも否定はできない。
転勤族など方言の習得がままならない者が、似非方言と差別を受ける例もある。(方言難民を参照)
[編集] 役割語としての似非方言
架空の世界を舞台にした文学や漫画などで、キャラクターの差別化を計る手段として似非方言が用いられることはよくある。また海外の文学に登場する方言を和訳する際にも似非方言が用いられることがある。これを役割語と呼ぶ。
国籍や時代を問わず「田舎者」「農民」を表現する際には「…だべ・…だっぺ」「…ずら」「…ですだ」など「田舎弁」とも言うべき独特の似非方言が使用される。海外文学の和訳でも「風とともに去りぬ」「アンクル・トムの小屋」などでのアメリカ南部の黒人訛りが慣例的に「田舎弁」で訳される例がある。「田舎弁」は東北弁を真似たものであると認識されがちであるが、「田舎弁」は東北弁だけでなく東京近郊の農村地帯で話されていた様々な方言(茨城弁、多摩弁、静岡弁など)を混合させて成立したものであり、実際の東北弁とは大きく異なっている。
このほかにも、九州弁をベースに高知弁など西日本各地の方言をでたらめに混合していかにも粗暴で豪快な言葉に仕立てたり、「吉本弁」とも揶揄される吉本興業などのお笑い芸人が使う似非大阪弁(河内弁をベースに卑俗で荒っぽい印象に仕立てたもの)などがある。
また、他地方出身者が方言に強い思い入れがあって独学で方言を喋っているのを、わざとらしい似非方言であらわす例もある。これなどは、あえて誤用した方言を使うことによってキャラクターを強調する効果がある。
[編集] 関連
- 老人語(「わしは~じゃ」「おらぬ」のような老人を表現する際の言葉は西日本の方言をもとにした一種の似非方言である)