井村君江
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井村君江(いむら きみえ、1932年3月1日 - )は、日本の英文学者・日本文学者・児童文学者・比較文学者。ケルト・ファンタジー文学研究家。元明星大学教授。フェアリー協会会長。イギリス・フォークロア学会終身会員。うつのみや妖精ミュージアム名誉館長。妖精美術館(福島県大沼郡金山町)館長。
英文学ではアーサー王、シェイクスピア、オスカー・ワイルド、コールリッジが専門であり、海外の優れた未邦訳作品を数多く日本に紹介してきた。今でこそ、妖精研究者として知られているが、元来は大正期の日本文学が専門であり、特に与謝野晶子、佐藤春夫、日夏耿之介の研究者として業績を残している。
日本におけるケルト神話・妖精研究の先駆けであり、妖精学の世界的権威として著名である。近年では、『アーサー王物語』を日本で初めて全訳したことでも注目されている。
2003年に生まれ故郷の宇都宮市に膨大な数のケルト・妖精関係資料(文豪の自筆原稿や貴重な美術品を含む)を寄贈した。寄贈された資料を展示するため、2007年7月31日、世界的にも珍しい妖精をテーマにした美術館うつのみや妖精ミュージアムがオープン。功績を称えられ、宇都宮市から名誉館長の称号を贈られた。
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[編集] 来歴・人物
栃木県宇都宮市の旧家に生まれる。本名は君江・井村・ローラー。夫は禅僧・南画家であった井村常山の孫で夭逝した美学者井村陽一、中世英文学の権威でオックスフォードの教授であったジョン・ローラー(故人)。
青山学院大学英文科卒。東京大学大学院比較文学・比較文化博士課程修了。修士論文は『日本におけるオスカー・ワイルド』である(修士論文としては異例であるが、全部で500ページにも及ぶ)。
初期にはリルケ、ノワイユ夫人に関する論文も書いている。
島田謹二・日夏耿之介に師事し、佐藤春夫の鞄持ちをしていた。早稲田大学講師、鶴見大学教授、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学の客員教授などを歴任。数多くの後進を育成した。島田の執筆を手伝っていた頃、広瀬武夫に関する資料を神田で発見したのは井村である。これがきっかけとなり、島田は『ロシヤにおける広瀬武夫』を書き始めた。
院生の頃から尾島庄太郎や福原燐太郎、松浦嘉一を筆頭とする学者たちが井村の才能を認めており、鶴見大学では当時としては異例の30代で教授に抜擢された。鶴見大学時代に美智子皇后から招かれ、東宮御所で妖精についてご進講したことがある。
2001年に脳梗塞で倒れ、左半身不随になる。
2008年5月現在、生まれ故郷の栃木県宇都宮市を中心に講演・執筆活動など、精力的に活動している。近年は地元紙への寄稿が多い。
[編集] エピソード
- 女学生時代に川上澄生の英語の授業を受け、その影響で川上の母校である青山学院大学を目指した。
- パーティーの席で室生犀星に人違いされて話しかけられたことがある。
- 島田謹二から、江戸川乱歩の葬式の引き出物の座布団セットをプレゼントされた。
- 蘆原英了と一緒に『シャンソンに親しむ会』で活動していた関係で、来日したジョセフィン・ベイカーに楽屋でお茶を出した。
[編集] 著訳書
[編集] 著書
- 『ケルトの神話 女神と英雄と妖精と』(筑摩書房、1983年。ちくま文庫、1990年)
- 『妖精の国』 (新書館、1987年)
- 『世界の英雄伝説2 アーサー王物語』(1987年。『アーサー王ロマンス』と改題、ちくま文庫、1992年)
- 『妖精の系譜』(新書館、1988年)
- 『フェアリー 妖精幻視』(新書館、1989年)
- 『「サロメ」の変容 翻訳・舞台』(新書館、1990年)
- 『ピーター・パンと妖精の国 写真紀行』塩野米松と共著(求竜堂、1990年)
- 『妖精とその仲間たち』 (河出書房新社、1992年。ちくま文庫、2000年)
- 『イギリス・妖精めぐり』(同文書院、1993年)
- 『ケルト・ファンタジィ 英雄の恋』天野喜孝画(ANZ堂、1995年)
- 『ケルトの妖精』(あんず堂、1996年)
- 『ケルト妖精学』(講談社学術文庫、1996年。ちくま学芸文庫、2003年)
- 『コーンウォール 妖精とアーサー王伝説の国』(東京書籍、1997年)
- 『妖精の国の扉 フェアリーランドへ導く九つの鍵』(大和書房、1998年)
- 『妖精学入門』(講談社現代新書、1998年)
- 『妖精ファンタジー 絵画と詩』(アスキー、1998年)
- 『妖精の輪の中で』(筑摩書房,ちくまプリマーブックス、2000年)
- 『サロメ図像学』(あんず堂、2003年)
- 『妖精美術館』(レベル、2007年)
[編集] 翻訳
- フロリス・ドラットル『妖精の世界』(研究社出版、1977年)
- W・B・イエイツ『ケルト幻想物語集』全3巻、(月刊ペン社、1978年)
- キャサリン・M・ブリッグズ『妖精の国の住民』(研究社出版、1981年。ちくま文庫、1991年)
- デヴィッド・ラーキン編『ジャイアント』(サンリオ、1983年)
- マイケル・マークス『黄金のりんごの王子 現代イギリスファンタジイ』(新書館、1983年)
- W・B・イエイツ編『ケルト妖精物語』(ちくま文庫、1986年)
- W・B・イエイツ編『ケルト幻想物語集』(ちくま文庫、1987年)
- オスカー・ワイルド『幸福の王子 オスカー=ワイルド童話集』(偕成社文庫、1989年)
- オスカー・ワイルド『W・H氏の肖像』(工作舎、1989年)
- キャサリン・ブリッグズ『妖精who's who』(筑摩書房、1990年。ちくま文庫、1996年)
- アヴリル・ロッドウェイ『妖精の国への誘い』(福武文庫、1991年)
- ウォルター・ホッジス『シェイクスピアの劇場 グローブ座の歴史』(ちくま文庫、1993年)
- W・B・イエイツ『ケルトの薄明』(ちくま文庫、1993年)
- W・B・イエイツ『神秘の薔薇』大久保直幹と共訳(国書刊行会、1994年)
- ミシェル・ブラウン『ロイヤル・レシピ 英国王室料理』(筑摩書房、1995年)
- アーサー・コナン・ドイル『妖精の出現 コティングリー妖精事件』(あんず堂、1998年)
- ジョー・クーパー『コティングリー妖精事件』(朝日新聞社、1999年)
- トマス・マロリー『アーサー王物語』全5巻(筑摩書房、2004-2007年)