互変異性体
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互変異性体(tautomer)は、互変異性化(tautomerization)と呼ばれる化学反応によって相互変換可能な有機化合物である。一般みられる例は、単結合と二重結合の変換を伴う、水素原子つまりプロトンの移動である。互変異性化の起こりうる溶液中では、互変異性体は化学平衡に達するが、その正確な比は温度、溶媒、pHなど、いくつかの要因に左右される。互変異性化によって相互変換可能であるという互変異性体の概念を互変異性と呼ぶ。互変異性化は構造異性の特別な場合で、非正規のDNA分子や、とりわけRNA分子の相補的結合において重要な役割を果たす。
互変異性化は下記にによって触媒される。
一般的な互変異性体の対は下記の通り。
- ケトン-エノール 例 アセトン (ケト-エノール互変異性参照)
- アミド-イミド酸 例 ニトリル加水分解反応
- ラクタム - ラクティム ヘテロサイクリック環におけるアミド-イミド酸間互変異性、つまり核酸塩基におけるグアニン、チミン、シトシン
- エナミン-イミン
- エナミン-エナミン、つまりピリドキサルフォスフェイトによる酵素反応中にみられる
求核性互変異性(prototoropic tautamerization)は、上記例のようなプロトンの移動を指し、酸塩基的挙動の一部とみなされている。求核性互変異性は、異性体における一連の水素化状態で、同じ実験式(empirical formula)とトータルチャージを持つ。
環状互変異性(annular tautomerism)は求核性の互変異性で、プロトンが二つ以上の位置を占めうるヘテリサイクリックシステムである。たとえば、1H-と3H-のイミダゾール、1H-, 2H-, 4H-の1,2,4-トリアゾール, 1H-, 2H-アイソインドールである。
リングチェーントータメリズム(ring-chain tautomerism)は、開環構造から閉環構造へ転換に伴ってプロトンが移動するときにおこる。たとえば、グルコース(glucose)のアルデハイド(aldehyde)とパイレイン(pyran)型である。
ヴェイレンス互変異性(valence tautomerism)は求核性互変異性と異なり、結合電子の速い再編成過程を伴う。例として、ブルヴェイレン(bullvalene)がある。他の例は、アザイド(azide)-テトラゾール(tetrazole)などの異性環化合物(heterocycles)。 ヴェイェン互変異性は、分子配置の変更を要するので、カノニカルな共鳴構造(resonance structures)あるいはメソマー(mesomer)と混同してはならない。
[編集] References
- Smith, M. B.; March, J. Advanced Organic Chemistry, 5th ed., Wiley Interscience, New York, 2001; pp 1218-1223. ISBN 0-471-58589-0
- Katritzky, A.R.; Elguero, J. et al. The Tautomerism of heterocycles, Academic Press, New York, 1976, ISBN 0-12-020651-X