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乳幼児突然死症候群 - Wikipedia

乳幼児突然死症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

乳幼児突然死症候群(にゅうようじとつぜんししょうこうぐん、SIDS: sudden infant death syndrome:シッズとも)とは、何の予兆もないままに、主に1歳未満の健康にみえた乳児に、突然死をもたらす疾患である。2005年4月18日、厚生労働省が公表したSIDSに関するガイドラインによると「SIDSは疾患とすべきでない」という意見もある。

目次

[編集] 疫学

2002年人口動態統計では、日本における乳幼児の死亡でSIDSと診断されたものは285名であり、やや減少傾向にはあるが、乳児期の死亡原因の第3位を占めている。

診断基準上は原則1歳未満とされているが、実際には月齢2か月から6か月程度の乳児における死亡がほとんどである。男女差はみられない。

[編集] 症状

一見ごく健康に育っているように見える乳児が、何の前触れもなく突然呼吸停止し、死亡する。通常は、苦しんだ様子もみられない。とはいうものの、SIDSは症状の申告だけで正確な診断ができるわけではない。例えば、死亡に先立って、その児を損なうような行為があり、静かになったことが眠ったように見えた場合、「眠っていた(と思っていた)のに死んでいた」という申告だけを聞いて病死という診断をしたならば誤診になる可能性は、高くなるであろう。 そこで法医学のなかでも正確な診断にこだわる人々は医学的な結論を出す前に犯罪の可能性と事故の可能性を否定するための調査を慎重にとりおこなう。これを死亡状況調査と言い、SIDSであることを確認する前提として最新のSIDS診断基準では必須とされる。

[編集] 原因

2004年現在、SIDSの原因は不明である。単一の原因で説明可能なのか、様々な原因による突然死の集合であるのかも判明していない。呼吸器の先天的・後天的疾患が関係するのではないか、等、いくつかの仮説があるに留まっている。

[編集] 診断

1歳未満の乳幼児突然死のうち、病歴、健康状態、死亡時の状況、精密な解剖を行っても死亡の原因を特定できないものである。 厚生労働省のガイドラインによると、

診断に際しての留意事項

  1. 諸外国で行われている研究も考慮し、乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断は原則として新生児期を含めて1歳未満とするが、1歳を超える場合でも年齢以外の定義をみたす場合に限り乳幼児突然死症候群(SIDS)とする。
  2. 乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断は剖検に基づいて行い、解剖がなされない場合および死亡状況調査が実施されない場合は、死因の分類が不可能であり、従って、死亡診断書(死体検案書)の分類上は「12.不詳」とする。
  3. 乳幼児突然死症候群(SIDS)は除外診断ではなく一つの疾患単位であり、その診断の為には、乳幼児突然死症候群(SIDS)以外の乳幼児に突然の死をもたらす疾患および窒息や虐待などの外因死との鑑別診断が必要である。
  4. 外因死の診断には死亡現場の状況および法医学的な証拠を必要とする。外因死の中でも窒息死と診断するためには、体位に関係なく、ベッドの隙間や柵に挟み込まれるなどで頭部が拘束状態となり回避出来なくなっている、などの直接死因を説明しうる睡眠時の物理的状況が必要であり、通常使用している寝具で単にうつぶせという所見だけでは診断されない。また、虐待や殺人などによる意図的な窒息死は乳幼児突然死症候群(SIDS)との鑑別が困難な場合があり、慎重に診断する必要がある。

外因死の場合は異状死として取り扱い、警察に届け出る必要がある。日本では剖検せずにSIDSと診断することが多く、外因死の隠れ蓑、裁判における免罪符となることが多い。後に虐待が判明することも多々ある。

[編集] リスク因子と予防

アメリカ小児科学会は1992年に、SIDSの発生率は、乳児を仰向けに寝かせることで有意に減少させられるという声明を発表した。日本小児科学会でも、健康な乳児は仰向けに寝かせることを推奨している。

「うつぶせ寝にさせない」の他、日本小児科学会が推奨する予防法は以下の通りであり、これらの積極的な実行によって死亡率が有意に減少することが明らかになっている。

  • 乳児の近くで喫煙しない、妊娠中に喫煙しない。
  • できるだけ母乳で育てる。
  • 乳児に過度に服を着せたり、暖めすぎたりしない。

厚生労働省も同様のキャンペーンを行い、両親へのSIDSの知識の啓蒙に努めている。しかし、これらの予防策によって確実にSIDSを予防できるものではない。

その他で、SIDSのリスクを高めるとされている因子としては、マリファナ・麻薬・低体重出生などが指摘されている。

[編集] 問題点

乳児が突然死亡した場合、過失や犯罪による死亡なのか、避けられない疾患による病死だったのかについて、しばしば問題となる。

欧米諸国では厳密に解剖(剖検)によって呼吸器や神経系などの器質的疾患を除外した後にSIDSの診断を行うが、日本では解剖の習慣はあまり定着しておらず、剖検の行われないままにSIDSと診断されるケースも多い。そのため、事故や虐待を隠すことになっているのではないかという指摘がしばしばなされており、そのような立場からSIDSの問題点を訴える団体も存在する。

SIDSの診断を巡っての訴訟が、日本を始め各国で発生しており、それらの大半は、SIDSと診断されたが、遺族が納得せず、窒息死などではないのかと反論するケースである(注:ノート 参照)。さらには、SIDSと診断された後に、乳児虐待の事実が判明するケースなどもあり、しばしばマスコミを通じて話題になることがある。

また、遺族は単なる悲しみだけではなく、何とか予防できたのではないか、という罪の意識に苦しむことがほとんどであるため、遺族の心のケアも重要である。

ウィキメディア・コモンズ


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