ヨナ抜き音階
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ヨナ抜き音階(よなぬきおんかい)は近代以降の日本固有の音階(五音音階)である。本項目では同様の音階であるニロ抜き音階(にろぬきおんかい)についても記す。
目次 |
[編集] 概要
ヨナ抜き音階とニロ抜き音階には以下のものがある。
音階名 | 音階 | 備考 |
---|---|---|
ヨナ抜き長音階 | C, D, E, G, A, C | 呂音階と同じ |
ヨナ抜き短音階 | A, B, C, E, F, A | 陰音階の主音をAに変更 |
ニロ抜き短音階 | D, F, G, A, C, D | 陽音階と同じ |
ニロ抜き長音階 | C, E, F, G, B, C | 琉球音階と同じ |
「四七抜き音階」とも表記し、ヨナ抜き長音階を西洋音楽の長音階に当てはめたときに主音(ド)から四つ目のファと、七つ目のシがない音階のことである。雅楽の呂旋法がこれに当たり、西洋音楽関係者が日本音階の特徴として名付けた物である。
同じように、ニロ抜き音階は「二六抜き音階」とも表記し、ニロ抜き短音階を西洋音楽の短音階に当てはめたときに主音(ラ)から二つ目のシと、六つ目のファがない音階のことである。俗楽の陽旋法がこれに当たる。
尚、呂旋法以外の古典邦楽はヨナ抜きではない。例えば、主音をラに移すと四七抜き短音階になるため、陰旋法(ミファラシレミ、ミドシラファミ)は長音階、短音階のどちらに当てはめても四七抜きにはならない。
[編集] 民謡と童歌
明治以前から伝わる日本の童歌や民謡のうち、陽旋法の物はすべてヨナ抜き長音階と同じ音程を使う音階である。東北の童歌「どんじょこ・ふなっこ」(教科書に載っている「どじょっこ・ふなっこ」ではない)や、木曾節、稗搗き節、田原坂などが該当する。なお、民謡と古い童歌は、西洋音楽の影響がないのでドで終止するという考え方はなく、ラ(陽音階)かレ(律音階)で終わる曲が多い。
[編集] 唱歌と童謡
現在叙情歌として親しまれている唱歌や童謡などが作曲され始めるのは明治の中頃からである。唱歌はヨナ抜きというのが多くの日本人の印象であろう。
但し、よく調べてみるとファやシが入っている洋音階のものも結構多い。例えば「村祭り」や「ふるさと」などは、日本的なイメージの強いにも関わらず洋音階であり、ヨナ抜きではない。とくに「ふるさと」は、3拍子の曲であり、曲想からみるとあまり日本的ではないが、歌詞が日本人の琴線に触れるのだろう。文部省唱歌は、西洋音楽の理論で作られたため、長調の曲はすべてドで終わっている。
[編集] スコットランド民謡など
スコットランド民謡で使われる五音音階はヨナ抜き音階と同じ音階の曲が多い。“Long long ago”のようなヨナ抜き音階でない曲も例外的にはある。
明治以降に作られた日本の唱歌には、外国の曲に詞をつけた物がかなりある。そのうち、「螢の光」や「故郷の空」(原題は「麦畑」で、なかにし礼が訳詞し、1970年にザ・ドリフターズが唄ってヒットした「誰かさんと誰かさん」のほうが原詞に忠実な訳詞である)は、スコットランドの民謡のヨナ抜き長音階(と同じもの)である。また、ラテンアメリカのフォルクローレでも同様の音階が一般的であるほか、世界各地に同様の音階が見られる。
[編集] 演歌
ヨナ抜きといえば戦前のもの、懐メロというイメージを持つ向きも多いが、演歌は現在でもヨナ抜き音階が主流である。別れや失恋など悲しさ、わびしさ、やるせなさをテーマにした歌が多いため、圧倒的にヨナ抜き短音階の曲が多いが、「北国の春」、「夢追い酒」や、21世紀になってから登場した氷川きよしの「箱根八里の半次郎」、「星空の秋子」まで、ヨナ抜き長音階のものも多い。又、「リンゴ追分」、「りんとう峠」、「達者でナ」、「津軽平野」などの民謡調演歌には、ニロ抜き短音階のものがある。これらはコード進行で、VIm(ラドミ)や IIm(レファラ)などマイナーコードを多く使ってあるため、短調の曲と思っている人も多いが、短調ではほとんど使われないソが多く使われており、また、I(ドミソ)、V7(ソシレファ)、IV(ファラド)のメジャーコードだけで伴奏しても、芸術性はともかくそれほど違和感は感じないので、長調と短調の両方の性質を持つものと考えられる。
[編集] アイドル、J-POP
アイドル歌謡、フォーク、ニューミュージック、J-POPはのなかにも曲の一部、あるいは全体がヨナ抜き長音階でできているもの少なくない。「上を向いて歩こう」(坂本九)、「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)、「昴」(谷村新司)等が該当する。しかしヨナ抜き短音階やニロ抜き短音階でできた楽曲で目立った作品はない。なお「島唄」は珍しくニロ抜き長音階(ベース)による楽曲である。