ホンダ・VTR1000F
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
|
VTR1000Fは、本田技研工業が1997年より2007年まで生産・販売していた、996ccのVツインエンジンを搭載したオートバイ。国内での名称はFIRESTORM(ファイアーストーム)。1997年から2003年まで国内市販が行われたが、それ以降は輸出専用車となり、2007年に生産終了となっている。
目次 |
[編集] モデル背景
開発にあたっては1987年に発売されたBROSの改良からスタートし[要出典]、最終的には全く新しいコンセプトを持ったスポーツバイクとして完成した。本機種はV型90度バンクDOHCエンジンを持つ機種としては最大排気量を誇る機種の一つとなった。
一般的にV型エンジンは前後長が長くなるため、スポーツバイクに搭載する場合にはマスの集中化が難しくなる傾向がある。開発にあたって通常の機種では、空冷を採用してさらにシリンダーのはさみ角度を狭くすることで、エンジンのコンパクト化を計ろうとする。しかし、本機種では新しい挑戦として、水冷、90度バンクシリンダー、DOHC、1000ccの排気量というエンジンの肥大化要素とコンパクト化という相反する要素を実現するために様々な挑戦が行われた。 新開発のエンジンをコンパクトに製作するだけでなく、本来はエンジンの前方に来るラジエターを、古くはレーサーNRにも採用された、分割してサイドに配置する方式の「サイドラジエター」を採用し、スイングアームはクランクケース後端にマウントされた。このため、フレームはスイングアームピボット部を持たない「ピボットレス」方式となり、こうした車体構成により車体の前後長を圧縮しマスの集中を実現した。 また、十分に車体長を調整できたため、V型エンジン特有の問題である後方シリンダーとサスペンション、スイングアーム、エキゾーストパイプの干渉を緩和する技術である「片持ちスイングアーム」は採用が見送られた[要出典](実際片持ちスイングアームはコスト、重量等で不利である)[要出典]。 以上のような構成の結果、重心位置と振動を低く抑えたままコンパクトな車体構成を可能とした。意欲的な機種となった本機種だが、通常の機種にあるエンジン後方の空間をガソリンタンクに使用することができないだけでなく、エンジン上部にはエアクリーナーボックスを配置せざるを得ないため、初期モデルはタンク容量が16ℓと、同クラスの他のスポーツモデルに比べて少ない容量となった。また、カウルの内気圧を利用して冷却を行なう「サイドラジエター」はネイキッド仕様車の製作を難しくしてしまった。
まれにL型2気筒エンジンを搭載するドゥカティ製のバイクと比較対照されることがあるが、この2機種は全く異なるものであり共通点は排気量の類似性ほどしかない。両者とも大排気量のエンジンをいかにして効率よく搭載するかを熟考して構成を導き出している。特に基本となるエンジンをVツインとするかLツインとするかは全く違った個性となって表れ、ドカティ側はコンパクト化を空冷(VTR1000F発売当時、現行機種では水冷もあり)、低重心、エンジン全高の低下をデスモドロミック、エンジン前後長の調整をLツインとすることで構成を可能としている。LツインはVツインに対してコンパクトにできる反面セッティングの難しさと両シリンダーの非対称環境がスムーズさを多少損なわせているが、これを個性としてよしとするかVTRの対称性から来るスムーズさをよしとするかは意見が分かれるところである。
[編集] モデル概略
[編集] 1997年
4ストローク・90度V型2気筒・996ccエンジンをトラス風のセクションを持つアルミピボットレスフレームに搭載してデビュー。 クランクケース後端にスイングアームをマウント、ピボット部を持たない車体構成や、 ラジエターを車体側面に配置した「サイドラジエター」など、さまざまな技術的トライもなされていた。 98mmというエンジンのボアは当時のホンダ車最大で、用いられたキャブも48φという、 CVキャブとしては最大径のものだった。
デザインは、日本・アメリカ・ヨーロッパのホンダによるデザインコンペが行われ、 日本案を中心にまとめられたもの。1月から欧州・北米に輸出が始まっていたが、 4月からは「ファイアーストーム」として国内市販も開始された。 ちなみに、北米仕様の呼び名は「SUPER HAWK996」。
パワーは輸出仕様が110PS/9000rpm、国内仕様が93PS/8500rpm。 両者の差はイグナイター、カムプロフィール、インシュレーター、マフラー口径、 チェーンサイズ、ファイナルなどだが、国内仕様もトルクが充実しており、 実際に乗った際の体感差も少なかったのと、パーツ換装によるパワーアップ (フルパワー化と一般に呼ばれるが、厳密にはフルパワーではない) が容易だったこともあり、国内仕様も高い人気を博した。
- ボディカラー
- イタリアンレッド、ブーンシルバーメタリック(国内)
- イタリアンレッド、パールフラッシュイエロー、ブラック(欧州)
[編集] 1998年
カラーリング変更。国内は輸出専用色に近いパールシャイニングイエローが登場。 イタリアンレッドは廃止され、シルバーも明るいフォースシルバーメタリックに変更された。 同時に、フレーム側面にバフ仕上げを施し、フロントフォークのトップキャップをブルーのアルマイト仕上げとし、 チェーンもゴールドチェーンを標準装備するなど、各部の質感が高められている。 欧州仕様は車体色に国内と同じシルバーが追加され、計4色となっている。
- ボディカラー
- パールシャイニングイエロー、フォースシルバーメタリック(国内)
- イタリアンレッド、パールフラッシュイエロー、フォースシルバーメタリック、ブラック(欧州)
[編集] 1999年
欧州仕様のカラーリングを変更。イタリアンレッドとフォースシルバーメタリックの代わりに、 新たにパールライブリーオレンジとミディブルーメタリックが登場。計4色のラインアップとなる。 国内仕様は継続販売で、変更はない。
- カラーリング
- パールシャイニングイエロー、フォースシルバーメタリック(国内)
- パールライブリーオレンジ、ミディブルーメタリック、パールフラッシュイエロー、ブラック(欧州)
[編集] 2000年
欧州仕様に若干の変更。 スクリーン前端部の、防眩用のブラック仕上げの部分がグラデーションとなったほか、 前後ホイールの塗色をシルバーに変更、若干のイメージチェンジを図っている。 カラーリングは、前年登場したオレンジとブルーが早くも姿を消し、 新たにブルーとグリーンの中間のようなヘレスブルーメタリックが登場したほか、 前年に廃止されたイタリアンレッドが復活。 継続色はパールフラッシュイエローのみで、全3色のカラーとなった。 国内仕様は継続販売で、変更はない。
- カラーリング
- パールシャイニングイエロー、フォースシルバーメタリック(国内)
- ヘレスブルーメタリック、イタリアンレッド、パールフラッシュイエロー(欧州)
[編集] 2001年
登場以来初めてとなる、大幅なマイナーチェンジを敢行。 燃料タンクを大型化し、2リットルアップの18リットル (輸出仕様では19リットルと表記されている)としたほか、 フロントフォークのダンパーのセッティング変更(ややソフトな味付けとなった)が施され、 ハンドルは垂れ角で7度、グリップ位置計測で16mm(ED仕様での発表値は実測で15.6mmとなっている)アップした。 メーターデザインも一新し、デジタルトリップメーターや時計、燃料計、ハザードランプなどの機能を追加。 盗難抑止効果の高いイモビライザーシステム「H・I・S・S」も標準装備(国内では初)するなど、 全体的にツーリングスポーツとしての機能を充実させる形での進化となった。
これはツーリングで手首が痛くなる、燃料タンクが小さい、といった、 従来型に対するユーザーの不満の声に応えたものである。 スタイリングは基本的に同一だが、リヤカウル両側面の「V2 90°DOHC」ステッカーが廃止され、タンク上にあった「FireStorm」ステッカーはホンダのウイングマークに改められ、フロントカウルサイドの「VTR」のロゴが「FireStorm」となっている。また、ステッカーの材質が光沢のあるアルミ箔から樹脂に変更されている。 そして、この型から、前後のウインカーが小型化されている。
エンジンはユーロ2などの排ガス規制に対応するため、 エアインジェクションシステム(二次空気導入装置)を採用。 新たにシリンダーヘッド部にエア導入のためのチャンバーが設けられた。 これにより、輸出仕様のパワーは110PSから106PSとなった。 国内仕様は93PSのままで同じとなっている。
輸出仕様と国内仕様の差はスペックのほか、装備が若干異なり、 国内仕様には、新採用のものも含め、いくつかの専用装備がおごられている。 具体的には、ハザードスイッチ、別体リザーバータンク付きリアショック、メッキハンドルバーエンド (ここまで新採用)、フォークトップキャップのブルーアルマイト仕上げなどである。 ホイールカラーは国内仕様がシルバー、輸出仕様がブラックとなっている。 ボディカラーは国内仕様がイタリアンレッド1色のみ、 輸出仕様はイタリアンレッドに加え、パールフラッシュイエロー、 深みのあるラピスブルーメタリックの3色となった。
- カラーリング
- イタリアンレッド(国内)
- イタリアンレッド、ラピスブルーメタリック、パールフラッシュイエロー(欧州)
[編集] 2002年
欧州仕様がカラー変更。 紺色に近かったラピスブルーメタリックが、明るい色調のキャンディタヒチアンブルーに変更された。 国内仕様は継続販売で、特に変更点はない。
- カラーリング
- イタリアンレッド(国内)
- イタリアンレッド、キャンディタヒチアンブルー、パールフラッシュイエロー(欧州)
[編集] 2003年
欧州、国内仕様ともカラーリングを変更。 パールフラッシュイエローが姿を消し、代わりにつや消し塗装のマットガンパウダーメタリックが登場。 国内仕様はイタリアンレッドの代わりにキャンディタヒチアンブルーが登場した。
また、この年からエンジン左右のケースカバーがマグネシウム風のゴールド仕上げとなっている。 欧州、国内仕様ともに、諸元に変更はない。
- カラーリング
- キャンディタヒチアンブルー(国内)
- イタリアンレッド、キャンディタヒチアンブルー、マットガンパウダーメタリック(欧州)
[編集] 2003年8月
事実上の国内最終モデルとなる限定車「SPECIAL EDITION」がホンダモーターサイクルジャパンから登場。 ボディカラーは輸出仕様と同様のつや消しブラック(ただしこちらは「マットガンパウダーブラックメタリック」と表記している)を採用、独特の色合いが特徴の「アノダイズドチタンサイレンサー」を採用した、モリワキエンジニアリング製のフルエキゾーストシステムを装備しての発売だった。
発売台数は限定100台、価格は100万円だった。
[編集] 2004年
輸出専用車として生産・販売を継続。 欧州仕様車に変更はない。
- カラーリング
- イタリアンレッド、キャンディタヒチアンブルー、マットガンパウダーメタリック(欧州)
[編集] 2005年
最後のマイナーチェンジ。 フロントフォークのボトムケースのカラーが、シルバーから クランクケース同様のマグネシウム風のものとなり、 ブレーキ、およびクラッチのマスターシリンダーが リザーバータンク一体型のものに変更され、若干のコストダウンが図られた。 クラッチ、マスターのシリンダー径は従来通り。 カラーリングはキャンディタヒチアンブルーがライナップから外れている。
- カラーリング
- イタリアンレッド、マットガンパウダーメタリック(欧州)
[編集] 2006年
輸出専用車として生産・販売を継続。 欧州仕様車に変更はない。
- カラーリング
- イタリアンレッド、マットガンパウダーメタリック(欧州)
[編集] 2007年
最終モデル。2005年モデルから内容、カラーバリエーション、ともに変更はない。ヨーロッパで排ガス規制・ユーロ3が実施されたことに伴い、 規制に適合しないVTR1000Fは、2008年モデルからカタログラインナップ落ちしている。
- カラーリング
- イタリアンレッド、マットガンパウダーメタリック(欧州)