フィナステリド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
フィナステリド(finasteride, 商品名 Proscar, Propecia, Fincar, Finpecia, Finax, Finast, Finara, Prosteride)は抗アンドロゲン薬の1つであり、テストステロンをジヒドロテストステロンへ変換する酵素である5-アルファ還元酵素を阻害することによって作用する。前立腺肥大症に対して低用量で、前立腺癌に対しては高用量で使用される。ドキサゾシンと組み合わせて用いることにより、前立腺肥大症の病状が進行する危険性を低減することが示されている。また、男性型脱毛症の治療薬として多くの国で登録されており、日本ではプロペシアが発売されている。
目次 |
[編集] 開発の経緯
1991年にフィナステリドの開発が始まり、初め1992年に前立腺肥大の治療薬としてプロスカーの商品名で認可された。しかし、その後1mg用量での研究によって、男性型の脱毛症において毛髪の成長が見られることが明らかにされた。1997年12月22日、FDAはフィナステリドを男性型脱毛症の治療薬として認可した。2006年現在では世界60か国以上で承認されている。日本では、1年間の臨床試験を終え、2005年10月に厚生労働省に承認され、同年12月に発売となった。
[編集] 前立腺疾患
前立腺癌予防試験 (Prostate Cancer Prevention Trial, PCPT) において、(脱毛症への通常の処方量よりも多いが)前立腺癌に対しては一般的な処方である5mg/日の投与では、プラセボ(偽薬)を与えた患者よりも25%前立腺癌の進行が遅れた、という結果が得られた[1]。しかしながら、フィナステリドを与えた患者のうち進行が見られた場合については、癌の増加と拡大の率が大きかった。その原因については明らかになっていない。研究者はそれらの患者の癌が特に強いものであるかについて、経過を観察している。低用量でもこのような効果があるのかは不明である。
確認されている副作用として勃起不全、まれに女性化乳房が6%–19%の患者に起こっている[2]。試験では、投与を中止すれば副作用は治まった。
[編集] 脱毛症
プロペシアは1日1錠内服の「飲む発毛剤」である。日本では2005年12月に万有製薬から発売された。海外では既に60か国以上で承認されている。DHT(ジヒドロテストステロン)という髪の成長を妨げる原因物質を抑えることで効果を発揮する。アメリカ食品医薬品局 (FDA) が認めた男性型脱毛症(いわゆる、若ハゲ)に有効な薬は、このプロペシアとミノキシジル(商品名リアップなど)のみである。なお、男性型脱毛症以外の脱毛症(円形脱毛症など)には効果はない。
[編集] 作用機序
男性型脱毛症の原因は遺伝の他に DHT といった物質がある。この物質は思春期以降に男性型脱毛症、前立腺肥大症、ニキビなど好ましくない症状を引き起こすことがある。フィナステリドは 5α-還元酵素を阻害し、男性型脱毛症の原因物質である DHT の産生を抑えることで効果を発揮する。
男性型脱毛症は、時間と共に進行していくものであり、髪が薄くなっていくことを抑える事がまず大切である。少なくとも進行をくい止められたという意味では、フィナステリドは、98% の人に3年間効果があった。髪が増えてくる人も多く、国内の臨床試験では半年で 48%、1年で 58%、2年では 68%、3年で 78% と髪が増える人が経時的に増えていった。また髪が増えるだけでなく、髪の質(長さ、太さ)なども改善することも分かっている。頭頂部(頭のてっぺん)だけでなく、髪の毛の生え際などの前髪にも効果がある点も、従来の育毛剤とは異なる。リアップ(ミノキシジル)と一緒に使うと、さらに効果が良くなることが、海外の試験で証明されている[要出典]。
[編集] 副作用
副作用は少ない。国内臨床試験時では、1 mg のプロペシアで胃部不快感、性欲減退など 5% 程度の副作用が認められた。この副作用の発現頻度は、プラセボという有効成分の入っていない錠剤で起こった副作用の頻度と同程度である。[3]特に重篤な副作用は報告されていない。性欲減退の副作用を気にする人がいるが、性欲を司るテストステロンを減少させる薬ではないので、理論上この副作用は起こりえない。実際、この副作用の発現頻度もプラセボと変わらない。
[編集] 服用方法
0.2 mg あるいは 1 mg 1日1錠を服用する。なお、必要に応じて適宜増減できるが、1日1mgを上限とする。服用時間は自由である。服用は成人の男性に限られる。女性、未成年は服用できない。
禁忌(下記の人には使えない)
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳中の婦人
また服用中は献血していはいけない。献血には、最低でも一ヶ月の休薬期間をとる必要がある。
[編集] 価格
医師の処方が必要である。また医師の処方する他の医療用医薬品とは異なり、薬価基準未収載品であるため健康保険で算定されない。そのため、薬剤費を含め、診療費、調剤料などは全額自己負担になり、その負担額は医療機関によって異なる(卸からの仕入れ価格などにより病院、薬局ごとに異なる)。販売元(万有製薬)では、参考薬剤価格として1錠250円(税抜き)という目安を出しているが、薬剤費とその他の負担額(診察料、調剤料)などを含めると1か月9,500円~13,000円程度のところが多いとされる。
[編集] AGAチェック
AGAチェックは血液や毛髪のDNA配列を解析することによってAGA(男性型脱毛症)のリスクとフィナステリドの効果を判定する検査であり、専門の医療機関で受けることができる。
AGAの主な原因とされているDHTは毛乳頭細胞のX染色体上にあるレセプター(男性ホルモン受容体)に作用して症状を発現させるが、X染色体にはこのレセプターを覆い隠すような三次元構造を持つ特殊なDNA配列が存在する。 「c,a,g」という三つの塩基が繰り返すことから「cagリピート」と呼ばれるこの構造は長さ(繰り返し回数)に個人差があり、生まれつきcagリピートの長さが異なる。cagリピートが長ければDHTが作用しにくくなるためAGAのリスクは低く、短ければリスクが高くなる。 cagリピートの長さはフィナステリドの効果にも影響する。cagリピートが短ければDHTの作用を強く受けるため、DHTの生成を抑える薬剤であるフィナステリドの効果は高くなる。
AGAチェックはこのcagリピートを測定するものであり、血液を採取するか、後頭部の毛髪を10本程度採取して検査する。 cagリピートは年齢によって変化することがないため、この検査は1回だけ受ければいい。
AGAチェックは女性が受けることもできるが、女性に対するフィナステリドの使用には制限が多い。
[編集] ドーピング
フィナステリドは、体内で男性ホルモンに影響し筋肉増強剤の使用を隠す効果があるため、世界アンチ・ドーピング機関などでドーピング剤として認定されている。
2007年3月13日、オーストラリア元代表のサッカーDF選手スタン・ラザリディスがドーピング検査で陽性反応を示したと所属サッカークラブパース・グローリーが発表した。報道では、彼が利用していた発毛薬で使われるフィナステリドに反応したと報じた。米国スケルトン男子のザック・ランドがフィナステリドが原因でトリノ五輪出場を逃した。
日本では、2007年8月10日にソフトバンク所属のリック・ガトームソン投手がドーピング検査でフィナステリドに対し陽性反応を示し20日間の出場停止処分が下された。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ^ "Can Prostate Cancer Be Prevented?" American Cancer Society, May 25, 2005.
- ^ http://adam.about.com/reports/000015_3.htm
- ^ 川島眞 他 臨床皮膚科 2006 ; 60(6): 521-530.