ティピー
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ティピー(あるいはティピ)とは、アメリカ先住民族のうち、おもに平原インディアンが利用する移動式住居(テント)の一種である。ラコタ・スー族の言葉で、「住居」の意味とされる。
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[編集] 概要
ティピーは円錐形構造で、一端を束ねた木の棒を広げて地面に建てて支柱とし、その周囲にバッファローのなめし革やキャンバス布を被せ、十数本の木の杭で前面を留めたものである。ラコタ族を始め、カナダ南部、北米平原部、北西部の部族が住居として利用していた。小さいものでは1~2人、大きいものでは数世帯が居住できる巨大なものもあった。たいていの場合、入り口は太陽の昇る東向きに建てられる。
天幕にはバッファローの皮が使われたが、19世紀になって軽いキャンバス布が交易で手に入るようになると、そちらに取って代わっていった。大きなティピーにはそれだけたくさんのバッファローの皮が必要であり、ティピーの大きさは個人の勢力をも表した。
これらは構造が簡単ながら頭頂部が開口するようになっており、ここが排気口となって内部で火をくべて暖房や煮炊きが可能である。長年いぶされた頂点部分の革は、モカシン(皮製の袋状になった靴)の底革に再利用された。雨や強風の際には、上部で襟のようになった折り返しを捲くることでこれを防ぐことが出来る。
内部には、裾に内張りを張り、夏には外部の裾をめくり上げることで風を通すことが出来る。かつて有力な戦士は、ティピーに自らの戦功、武勲や所有する馬達を、美しい色彩で描いた。
ナバホ族など、ティピーの習俗がなかったが、近年、行事や儀式でこれを採り入れる部族も増えている。また、ネイティブ・アメリカン教会のペヨーテの儀式は、必ずティピーで行われる。
[編集] 出入り
出入りには、円形に開けられた出入り口をまたいで通る。
入り口の覆いにはバッファローの毛皮が使われることが多かった。また、バッファローのひづめが呼び鈴代わりに吊るされた。(これが鳴るたびに、バッファローを呼び寄せるという呪いの意味もあった) 床面は中央部分は炉のために地面を露出させ、それ以外は敷物を敷いて居住空間とする。入り口と反対側には、祭壇を作る。中に入ったものは、先に座ったものの外側を通り、時計回りに円形に座っていく作法である。
用向きの際は、まず入り口の前で咳払いをして、主人に気づかせ、入る許しを得る。いきなりティピーに入ることはマナー違反である。
[編集] 解体・移動と設置
移動の際には周囲を囲む幕を外して畳み、支柱は束ねて括り、敷物を片付けるだけで済み、設置も撤去も短時間のうちに行うことが可能である。平原部族はかつてバッファローなどの狩猟のため移動を繰り返していたため、モンゴル遊牧民のゲルのように(むしろゲルより頻繁に)移動することが当然の生活スタイルとして定着していたため、このような住居スタイルが発生したと考えられている。
柱は一まとめにされてトラボイとして犬や馬に引かせる荷台(末端を地面につけて引きずるソリのようなもの)とし、荷物や赤ん坊を載せた。車輪よりもこの引きずり方式のほうが、あらゆる地形に対応できた。このような使用のため、柱は擦り減って次第に短くなるものだった。保留地時代になると、ティピーはみんな大型のものばかりになっていったが、これは移動生活が白人によって禁止されたために、柱が磨り減ることがなくなったためである。
ティピーを建てるのは女性の仕事だった。19世紀にインディアン戦士たちと狩りに出た白人が、野営の際、男たちがティピーの建て方を全く知らなかったという記録を残している。
正式なティピーの建て方は、まず地面に穴を開ける許しを精霊に請い、呪い師が清めの儀式を行い、柱を挿す穴を円形に掘り、柱を円錐形に立てる。これをロープ(昔はバッファローの腱)で巻いてまとめるが、この際、柱の周りを一回りするごとに祝詞を上げる。その後ロープの先端を中央部に下ろし、木の杭でしっかりと地面に留める。それから天幕を被せる。
[編集] シェルター
構造が簡単であるため、必要となる建材も極めて少なくて済む。サバイバルにおいては生活のために風雨を避けるシェルター(避難場所)が必要となるが、ティピーはその簡便性において理に適っており、アメリカ軍の軍事教練のうちサバイバルを扱ったマニュアルには、パラシュートの布と紐とを使ってこのティピーを作る方法も記載されている。