タイヤル族
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タイヤル(Tayal, 中国語:泰雅族。別名アタヤル族)は、台湾原住民のなかでも2番目に多い8万5000人の人口規模を持つ民族集団。居住地域は台湾の北部から中部にかけての脊梁山脈地域である。
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[編集] 言語
タイヤル語は固有に文字を持たないため、その表記にはカタカナやローマ字を用いる。日常的にはタイヤル語、北京語、日本語が混用される。若い世代は北京語に堪能な反面、タイヤル語に不自由な人が多く、年輩者と直接会話できない事が多かった。近年は原住民文化を見直そうとする気運が全国的に高まっており。その流れを受けて、小学校などでのタイヤル語の学習も始まっている。
[編集] 宗教
口承伝承に基づくアニミズムがあり、樹木や岩石などが現在でも神格化されている。日本時代の皇民化教育では神道が布教されたが現在では鳥居や石灯籠など神社の遺構が残されている程度であり、信者はほとんど見られない。第二次大戦後、日本やアメリカから宣教師が村々に入り、キリスト教が一般化した。
[編集] 風習
かつての首狩り(出草)の習慣、霧社事件などによって勇猛な民族として知られる。赤と白を基調とした民族衣装を身にまとっていたが、現在では祭礼の時や観光地などで観光客向けに着られる程度である。また男性は額と顎、女性は両頬に入れ墨を施していたが、日本統治時代に禁止され、根絶された。
[編集] 首狩り
佐木によれば、その動機は、紛争の解決、復讐、悪疫や不吉の払浄、武勇の誇示、尊敬の獲得などであり、伝承上、葬儀や農業と関係し、首祭りをともなう点においては宗教的であり、おもに社会的な意味でおこなわれた。武勇は、成年にとっては最重要な資格で、これを馘首によって実証し得たもののみがいれずみをほどこし得る。いれずみがないと社会的に無視され、結婚ができない。馘首の数がおおければ、特別な衣服や装飾をつける権利を得る。したがって要人はすくなくとも十数の首を馘ったものであり、霧社蕃ホーゴー社のある頭目は50以上を馘ったという。蕃人間の紛争にあたって、頭目は裁定権がなく、最後はオットフ(神霊)の決を首狩にあおぐ。伝説では、祖先がふえ分住を決したとき、平地組は山地組をだまして多人数を得たから、後者は復讐として首狩りをするのだという。外部の犠牲で内部の紛争を解決するのはこうして正当化される。
出草はふつう10人くらい、ときに個人でも4、50人でもおこなわれ、頭目または有力者を首領とし、まず、首狩りの祈願をおこなう。出発、進退は夢占、鳥鳴卜でさだめる。根拠地につくと、ふたたび成功をいのり、結束をかため、祓をおこなう。多人数のばあい、分担をきめ、狙撃、突貫などで敵をたおす。馘手は急進し、蕃刀で馘るが、いれずみのない少年が報酬を出し権利をゆずられることもある。戦利品は馘手のものとし、生擒はせず、ことがおわればただちに遁走し、渓で首を洗い、額に蔓をとおし、携行に便ならしめる。
出草中は種々のタブーが課される、すなわち、縁談、狩猟、農耕、炉火の授受は禁じられる。紛争の解決のための首狩で対立する両人または両派は相互交通を禁じられる。
部落全員で歓呼して凱旋をむかえ、首を馘首者の家の棚のうえに置き、ライポー(酒の一種)を口にふくませ、供物をそなえ、要旨つぎのような祭辞を呈する。「汝は此処に安住せよ。汝に酒を与える。汝の父母、妻子、兄弟、姉妹に此処の蕃人は甚だ良いと語れ。多勢呼んで此処に住め。」かくて終夜、宴舞し、翌朝、首を頭目の家にうつし、酒肉を供しまた宴舞する。おわって頭架の中央にすえ、宴楽は数日、続く。食物は皮肉の朽ちおわるまでたえず口辺に擦りこまれ、少年はこれを食して胆を練るという。
首狩に失敗したときは夜陰、ひそかに帰社し、不吉をはらい、次の満月を経ねば再挙しない。失敗の原因は社内のタブーの蹂躙にもとめられ、これに該当するとされた者は賠償の責を負う。
[編集] 産業
伝統的には焼畑農業と狩猟によって自給自足的に生計をたてていたが、日本統治時代以降、近代的な農業生産方式を教育された。ただ、タイヤル族の居住地域はほとんどが急峻な山岳地域であり、水稲栽培など平地向けの農業は不向きである。そのため現在では果実、茶、ビンロウなど商品作物の栽培が広く普及している。
また、都市部の住民や外国人を対象とした観光業も一部の地域では重要な産業となっている。
[編集] 関連項目・日本との関わり
台湾原住民 | |
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現存族群 | |
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ツォウ語群 | ルカイ族 | ツォウ族 |
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