スルフォラファン
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スルフォラファン | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | (R)-1-イソチオシアナト-4-(メチルスルフィニル)ブタン |
別名 | |
分子式 | C6H11NOS2 |
分子量 | 177.29 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 油状 |
CAS登録番号 | [142825-10-3] |
SMILES | |
性質 | |
密度と相 | g/cm3, |
相対蒸気密度 | (空気 = 1) |
水への溶解度 | |
への溶解度 | |
への溶解度 | |
融点 | °C |
沸点 | 160–165 °C/0.05 mmHg[1] |
昇華点 | °C |
pKa | |
pKb | |
比旋光度 [α]D | −78.6 (c = 1.19, 25 ℃, in CHCl3 |
比旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | |
出典 |
スルフォラファン (sulforaphane) とは、ブロッコリーに微量含まれるフィトケミカルの一種。最近の研究により、抗酸化作用や、解毒酵素を酵素誘導する作用が報告されている。
目次 |
[編集] 性質
スルフォラファンはイソチオシアネートの一種でアブラナ科野菜の中でもブロッコリーなどに含まれる。ブロッコリーを咀嚼すると、ミロシナーゼの加水分解反応により植物組織に含まれるスルフォラファングルコシノレート (SGS) がスルフォラファンに変化する。スルフォラファンの前駆物質であるSGSは熱に強く、水に溶けやすい。
[編集] 研究
[編集] 発見
がん予防の研究を専門とする米国ジョンズ・ホプキンス医科大学のポール・タラレーらは、さまざまな植物成分を調査した結果、ブロッコリーに含まれるスルフォラファンにがん予防効果があることを発見した[2]。
[編集] 高濃度化
タラレーはその後もスルフォラファンの研究を継続し、スルフォラファンの高濃度化に取り組んだ。そして、ブロッコリーの品種を選抜し、特定品種の発芽3日目のスプラウトの状態が最適だと結論づけた。その発表により、米国ではブロッコリースプラウトブームが起こり、野菜コーナーに並ぶようになった。
[編集] 効果
[編集] 抗腫瘍活性(がん予防)
人の体には、体内に取り込まれた発癌物質を無毒化し、体外に排出する解毒酵素(第2相酵素)が存在する。タラレーは、スルフォラファンにその解毒酵素を酵素誘導する(酵素の生成を活性化する)働きがあることを突き止めた[3][4][5]。
[編集] 抗酸化作用
スルフォラファンに酵素誘導される解毒酵素には抗酸化酵素の働きも確認されている。代表的な抗酸化物質であるビタミンCやビタミンEとは異なり、間接的に作用することが特徴である。抗酸化物質の作用は極めて一時的であるのに対し、抗酸化酵素は酵素誘導されてから3日間は働き続ける。つまり、スルフォラファンによる抗酸化作用は他の抗酸化物質による作用よりも長時間継続する[6]。
[編集] 新陳代謝
スルフォラファンは体内に摂り込まれると、抗酸化酵素の酵素誘導を行う。これによって、グルタチオンを抗酸化物質として損失することなくDNA合成の材料として使うことができる。また、スルフォラファンにはグルタチオンの生成を促す作用もある。その結果、細胞分裂が活性化され、新陳代謝を上げることができる。
[編集] ピロリ菌
スルフォラファンには胃癌の原因の一つといわれているピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の殺菌効果が報告されている。タラレーの研究グループの一人であるジェド・ファヒーの研究によると、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者から摂取した48株のピロリ菌全てに対して、スルフォラファンは制菌・殺菌効果をあらわした。抗生物質の耐性を持った菌株でも殺菌効果がみられた[7]。 また、筑波大学の谷中による臨床試験によって、スルフォラファンを多く含む発芽3日目のブロッコリースプラウトを2ヶ月食べ続けたピロリ菌感染者で菌の減少が確認された。
[編集] その他
スルフォラファンには皮膚や眼への紫外線によるダメージを防御する効果や、肝癌・高血圧・心臓病の予防効果なども報告されている。
[編集] 参考文献
- ^ Prochazka Coll. Czech. Chem. Commun. 1959, 24, 2429.
- ^ Zhang, Y.; Talalay, P.; Cho, C.; Posner, G. H. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 1992, 89, 2399–2403.
- ^ Zhang, Y; Kensler, T. W.; Cho, C. G.; Posner, G. H.; Talalay, P. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1994 91, 3147–3150.
- ^ Fahey, J. W.; Zhang, Y.; Talalay, P. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1997, 94, 10367–10372.
- ^ Basten, G. P.; Bao, Y.; Williamson, G. Carcinogesis 2002, 23, 1399–1404.
- ^ Fahey, J. W.; Talalay, P. Food and Chem. Toxicology 1999, 37, 973–979 DOI: 10.1016/S0278-6915(99)00082-4
- ^ Fahey, J. W.; Haristoy, X.; Dolan, P. M.; Kensler, T. W.; Scholtus, I.; Stephenson, K. K.; Talalay, P.; Lozniewski, A. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2002, 99, 7610–7615.