シルクスクリーン
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シルクスクリーン(screenprinting, またはsilkscreening, serigraphyとも)とは、版画、印刷技法の一種。版材に絹が使われたのでこの名がある。
シルクスクリーンを作るもっとも簡単なやり方は、図柄を切り抜いた紙やフィルムに、目の粗い薄絹のスクリーンを貼りあわせる、というものである。 これによってインクの通る部分と通らない部分が区分されるので、あとはそれを版として紙のうえに乗せ、適量のインクをヘラ(スキージー)で伸ばしてゆけばよい。 原理的にはステンシルと同じである。 ただし、この方法では精緻な図柄は作れない。 そこで通常は、あらかじめ溶剤を一様に塗布されたスクリーンから、図柄となる部分を熱や薬液で溶して「孔」をつくる。
版の「孔」の部分を通過したインクが図柄となるので、版画・印刷技法のなかでは孔版に分類される(上記のステンシル、古くは、学校などで藁半紙に印刷していたガリ版印刷なども孔版の一種である)。 現在では、絹布ではなくインクの通りが良いように開発されたテトロン(ポリエステル)の糸で織られた布を使う場合が多く、工業印刷では金属製のメッシュを使用することもある。そのため、印刷業界では単にスクリーン印刷と呼ぶことも増えてきた。
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[編集] 特徴
- 安価
- シルクスクリーンが普及したもっとも大きな理由である。製版、印刷ともに比較的小規模な設備でまかなえる。ただし版の耐久性はオフセットなどには劣るため、大量印刷には向かない。多品種少量印刷に適した技法である。
- 印刷対象に直接インクを乗せる技法だからである。またインクに限らず液状であれば、あらゆる素材の塗布に応用しうる。布に対する印刷は、プリント布地やプリントTシャツの作成など、テキスタイルの分野で広く活用されている。「印刷」項目の「孔版」参照
- 曲面印刷が可能
- 木版や銅版とちがって、版自体に柔軟性があるので、少々の曲面であればそのまま印刷可能である。また最近では、陶磁器や衣類に精緻なカラー印刷が安価でできるようになっているが、この場合は、一旦、柔軟性のある紙やフィルムに製版され、それが対象に焼きつけられている。
- 多色印刷が容易
- 製版技術が向上したため、現在では正確に同一の版を複数制作することが容易にできる。単純な配色の図柄であれば、同じ色の領域だけを取り出して、それぞれの色の版をつくればよいし、複雑な図柄であったとしても、色彩を光学的に分解すれば、少数の版でも原色をかなり再現できる。
- 写真のネガから容易に版を作成できる
- アンディー・ウォーホル(アメリカの画家)がこの方法を多用したことはよく知られているし、上記の多色印刷法を併用して多くの複製絵画が作られている。⇒悪徳商法に注意が必要である
- 図像が反転しない
- 版を介して紙に写し取られるのではなく、版を通過して紙にインクが達するため、凸版、凹版、平版といった他の版画技法と異なり、左右が反転しない。
[編集] 制作手順
ここでは、版画作品として紙に刷る場合の一例を紹介する。
[編集] 製版
[編集] 写真製版法
- フィルム、トレーシングペーパーなど光を透過する支持体に、インクなどで描画してポジを作成する。プリンターやコピー機で画像を印刷して作成することも可能である。多色刷りの場合は色の数だけポジを作り、1色1版で製版するのが基本である。中間トーンを表現するため、グラフィックソフトウェアやリスフィルムの使用により網点処理を施すことがある。
- アルミ製、木製などの枠に張ったスクリーンにバケットで感光乳剤を塗布し暗所で乾燥させる。感光乳剤は主にジアゾ系のものが使用される。
- スクリーンにポジを重ね、ケミカルランプを使用した感光機や日光などで一定時間紫外線に露光させる。
- 乳剤面に水をかけると感光が止まる(現像)。画像のない部分は感光して硬化した乳剤がスクリーンに固着してインクを透過しない幕状となる。感光していない画像部分は水で乳剤が流れ、インクを透過するメッシュ状のままとなる。
- 印刷後は感光乳剤専用の再生液で硬化した乳剤を溶かし、落版する。落版後のスクリーンは再使用が可能である。
[編集] その他の製版法
- スクリーンに直接描画して目留めするブロッキング法、紙を切り抜いたものをスクリーンに貼付するカッティング法があるが、現在は写真製版法が主流である。
[編集] 刷り
[編集] 手順
- 蝶番、クランプなどでスクリーン枠の一辺を刷り台に固定し、紙の位置合わせを行って刷り台に見当と呼ばれる目印を付ける。
- インクを調色して適切な硬さになるよう溶剤で調整する。
- スクリーン枠を浮かせたまま、手前の孔の空いていない部分にインクを乗せる。スキージーと呼ばれるゴムまたはウレタン製のヘラで版面の上部へ移動させて孔の部分のスクリーンの目をインクで埋めた後、スクリーンを紙面に下ろしてスキージーを手前に引くことで、インクが孔の部分を透過して孔の形に画像が刷られる。刷った後は、再度スキージーを版の上部に移動させてスクリーンにインクを乗せ、乾燥による目詰まりを防止する(返し刷り)。
- 印刷後はインクの種類に合った溶剤で版を洗浄する。
- 多色刷りの場合は版を交換して同じ手順を繰り返す。
[編集] サイン
- 版画作品の場合は、作品の下部に鉛筆でエディションナンバー(限定番号)、作家サインなどを記入することが通例となっている。
[編集] インク
- 揮発性の有機溶剤を用いる油性インク、水を溶剤とする水性インクがあり、水性インクは乾燥後耐水性となる。紙の他に布、金属、樹脂など様々な素材に対応したインクがあり、熱を加えることで発泡するインクなど、特殊印刷向けのものもある。
また、プラスチゾルインクというある一定の熱を加えないと半永久的に硬化しないインクがある。
[編集] グラデーション
- シルクスクリーンは基本的には1版1色であるが、版の上で異なる色のインクを混ぜ合わせてスキージーを動かすことにより、2色以上のグラデーションを刷ることができる。版画作品としてグラデーションを効果的に使用した作例が多数ある。
[編集] シルクスクリーンを活用した芸術家
- ロイ・リキテンスタイン
- ロバート・ラウシェンバーグ
- アンディー・ウォーホル
- カズモトトモミ
- 靉嘔
- 元永定正
- 横尾忠則
- ヒロ・ヤマガタ
[編集] 関連項目