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グラウンデッド・セオリー - Wikipedia

グラウンデッド・セオリー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Grounded Theory(GT)とは、社会学者のBarney Glaser and Anselm Strauss(グレイザーとシュトラウス)によって提唱された、質的な社会調査の一つの手法で、アメリカ看護学において定着した。グラウンデッド・セオリー・アプローチ (Grounded Theory Approach ; GTA) とも言われる。

目次

[編集] 解説

彼らは、分析の最終目的として、社会現象を説明するための実証分析で役立つような、明確な理論を作ることを、とくに重視した。定性的研究の多くは、データを取った後は各自が自分で考え、印象批評をするのみで、取った後のデータの処理方法や、具体的な分析手法はない。単に結果を記述することのみを重視するものも多い。しかしこの手法は、データを文章化した後の、分析法を提示しようと試みている点に特徴がある。

この手法の特徴は、患者へのインタビューや観察などを行い、得られた結果をまず文章化し、特徴的な単語などをコード化しデータを作ることである。その上で、コードを分類し分析することになる。ただ、得られたデータが少数でもそれはやむを得ないこととしてしまっており、研究法として限界があることも否定できない。あまり少数では、そもそも分類自体が不可能だからである。研究を始める段階で、問題設定や仮説探索目的で使う上では有用なこともあり、おもしろいと感じることが多い手法だが、以下の短所があり、分析法は直感に頼る部分が多い。したがって、分析結果としての結論(あるいは理論構築)にたどり着かないことも多いため、実証研究で用いるには十分な注意が必要である。

[編集] 注意すべき点とデータの偏り

データが少数の場合、その偏りがまず問題となる。この手法で扱うデータは、数十人程度のインタビュー結果を文章にしたものである。少人数データは、たまたま低学歴の人が多かったり、積極的な性格の人が多い、ある社会階層の人が多いなど、様々な偏りがある。病院内の患者であれば、患者の社会的地位社会階層社会階級は、研究テーマによっては問題ないように見えることもある。しかし、多くの社会学においては、社会の中のごく一部の層からデータをとっても、偏りの大きいデータであり、得られた結果に信用性がないと言わざるをえない。また患者であっても、社会的地位が低いほど平均寿命が短く病気になりやすいなど、患者のすべてが均質とは言えないため、一部の患者のみからデータを取っても、有効な研究とはならないことも多い。偏りの大きなデータを用いて分析した場合、結果として大きな誤解や結論の偏りが生じることは、実証研究において重大な問題である。そのためこの手法には各種の批判が存在し、現在はアメリカでもあまり盛んな方法ではなくやや沈滞しており、社会学者でこの手法を用いるものも少ない。この手法は、研究を始める段階で仮説探索を行う場合に有効だが、この手法で研究の結論を出すことには慎重になるべきである。ただ現在のアメリカ社会学では、シンボリック相互作用論以来の各種手法を含め、質的調査自体が減少傾向であり、この手法に限ったことではない。

この手法は、データをとった上で、データに立脚して仮説理論を構築することを目指している。これは単に個人的印象や直感でなく、データに基づいた確信に近いものを得ることを重要視する研究法である。質的調査(記述的社会調査)と呼ばれる各種の手法には、分析や分類や、データにもとづいた理論構築を否定するものも多い。しかしこの手法は、質的調査でありながら分析や理論構築を目指す方法であり、限界や批判はあるが一部で注目を集めた。

ただ、この手法の提唱者の、グレイザーとシュトラウス(ストラウス)自身が、後に分析手法の考え方の違いから対立を深めており、また、その他の質的調査研究者からの批判もありさまざまな手法があるため、この手法を厳密に定義することは難しい。研究者によってその方法は微妙に異なる。概ね、得られた文章データ(テキストデータ)のコード化と分類を行い、分析結果を出した上で、理論構築を目指す質的調査法ということはできる。

1967年の彼らによる最初の出版以来、グレイザーとシュトラウスはGTについて意見が合わなかった。シュトラウスが Qualitative Analysis for Social Scientists (1987)を発表したあと、この分裂は最も明確となった。その後シュトラウスはジュリエット=コービン(Juliet Corbin)とともにBasics of Qualitative Research (1990)を発表した。この後、グレイザー(1992)によって、自分の手法こそがGTであり、シュトラウスが書いたものがなぜGTでないかについて非難が続いた。GT方法論のこの相違は非常にアカデミックな議論の対象ではある。そして、それをグレーザー(1998)は「修辞的なレスリング(rhetorical wrestle)」と呼んだ。Kelle (2005)によると、グレイザーとシュトラウス間の論争とは、「研究者が明確な「コーディングパラダイム(coding paradigm)」を使い、「原因の発生する状況(causal conditions)」、「現象や文脈、要因間に存在する状況(intervening conditions)、行動戦略(action strategies)」と「結果(consequences)」を、常に体系的にデータを用いて探すかどうかという問である。あるいは、彼らが用いた実質的なコードと同様に、理論上のコードというものを使用するか、という問なのである。

そもそもこの手法では、扱うデータが少数で偏りが大きいという短所は、どうしても避けられない。また客観的な分析結果を得ることを目指している方法といいつつも、コーディングや分類の方法は研究者の直感による部分が多いため、このような手法の混乱はやむを得ない部分がある。以下で手法の手順を説明する。

[編集] 具体的な手順

 研究者により様々な方法があるが、標準的な手法としては、文章データを以下のように分類し、コードの数字をつける(あるいはラベル名をつける)。その上で、コードを分類することになる。

  • 1 分析したいものをよく読み十分に理解し、観察結果やインタビュー結果などを文字にして文章(テキスト、データ)を作る。
  • 2 データへの個人的な思い入れなどは排除し、できるだけ客観的に、文章を細かく分断する。
  • 3 分断した後の文章の、各部分のみを読み、内容を適切に表現する簡潔なラベル(あるいは数字、コード)をつける。このラベルは、抽象度が低い、なるべく具体的な概念名とする。
  • 4 次に、似たラベル同士はまとめ、上位概念となるカテゴリーを作り名前をつける。これらの作業を「オープン・コーディング」という。
  • 5 ある1つのカテゴリーと複数のサブカテゴリーを関連付け、現象を表現する。

  サブカテゴリーとは現象について、いつ、どこで、どんなふうに、なぜ等を説明するもの。これらの作業を「アクチュアル・コーディング」という。

  • 6 アクチュアル・コーディングでつくった現象を集め、カテゴリー同士を関係づける。これが、社会現象を説明する理論となる。

このような一連の作業により、社会現象の原因を説明可能な理論や、因果関係の解明を行うことができると考える。例えば、Aというコード(ラベル)が含まれる文に、Bというコードも含まれることが多いならば、AはBの原因になっている(可能性がある)と考える。ただし、これはコードの付け方にもよる。ほぼ同じ内容を、A,B2つのコードで表していた場合、当然だが、2つは同時に含まれることが多くなる。また、十分な量のテキストデータがない限り、因果関係を判断することは難しい。そして、これにより明らかになるのは、あくまでも相関関係(同時に発生するという関係)であり、これが原因と結果という因果関係(原因は論理的に十分に結果と結びつきかつ時間的に先行する)となっているかどうかは、研究者が別途判断しなくてはならない。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


[編集] 参考文献

  • バーニー・G. グレイザー, アンセルム・L. ストラウス. 1996. 『データ対話型理論の発見―調査からいかに理論をうみだすか』新曜社 ISBN 4788505490
  • アンセルム・ストラウス, ジュリエット・コービン. 2004. 『質的研究の基礎 ―グラウンデッド・セオリー開発の技法と手順 第2版』医学書院 ISBN 4260333825
  • 木下 康仁. 2005. 『分野別実践編 グラウンデッド・セオリー・アプローチ』弘文堂 ISBN 4335551062
  • 鯨岡峻. 2005. 『エピソード記述入門 ―実践と質的研究のために』東京大学出版会 ISBN 4130120425
  • 戈木クレイグヒル滋子.2006.『グラウンデッド・セオリー・アプローチ ―理論を生みだすまで』新曜社 ISBN 4788509917
  • Strauss, A. 1987. Qualitative analysis for social scientists. Cambridge, England: Cambridge University Press.
  • Glaser, B. 1992. Basics of grounded theory analysis. Mill Valley, CA: Sociology Press.
  • Glaser, B. 1998. Doing Grounded Theory - Issues and Discussions. Sociology Press.
  • Kelle, Udo. 2005. "Emergence" vs. "Forcing" of Empirical Data? A Crucial Problem of "Grounded Theory" Reconsidered. Forum Qualitative Sozialforschung / Forum: Qualitative Social Research [On-line Journal], 6(2), Art. 27, paragraphs 49 & 50.
  • Charmaz, K. 2006. Constructing Grounded Theory: A Practical Guide Through Qualitative Analysis. Thousand Oaks, CA: Sage Publications.
  • Mey, G. & Mruck, K. (Eds.) 2007. Grounded Theory Reader (HSR-Supplement 19). Cologne: ZHSF. 337 pages
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