クリーンコンピュータ
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クリーンコンピュータは、シャープがMZシリーズおよびX1シリーズの、主に8bitパソコンで採用した設計思想である。名前の由来はメモリ領域上にROM-BASIC用のROMが存在せず、綺麗な状態にあると言う事から来ている。
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[編集] 解説
当時のライバル機であるPC-8001では64KBのメモリ空間のうち半分の32KBがROM-BASIC用のROMに占拠されていた。そのためRAMの最大増設が32KBまでという制限がつき、後に登場するCP/Mと高級言語の組み合わせを活用するのに苦労する。 そこでこのシリーズのコンピュータは、電源投入時点ではIPL(イニシャルプログラムローダー、ブートローダの一種)のみが動作し、各種プログラミング言語環境などが収められたカセットテープなどのメディアから基本プログラムのロードを行う。BASICやPascalなど、様々な言語環境に対応可能な反面、利用開始までにメディアからの基本プログラムロードが必要になるため、事実上の起動に時間がかかるという欠点も併せ持つが、無駄なROMチップを持たず、その分の予算でRAMを搭載できるという発想であった。 実際には高価なROMに焼いてしまうとバグ修正が困難であるため、メディアのみで修正できるように考案された実装である。現実にはそれほど致命的なBUGが露見する事はなかった。 初期のmzでは、メモリ空間に直接IPLが実装されていたが、80B系ではバンク切り替えに、X1ではリード時はROM、書き込み時はRAM空間にアクセスするようにし、IPLが直接読み込める空間を増やすなど、実装には変化が見られる。 しかしROMでシステムを持っていた系譜のPCでも、バンク切り換えで64KBすべてをRAMにできる設計が主流となり、クリーンコンピュータの最大のメリットが、そうでないコンピューターでも再現される事になった。そうなれば残るメリットは本体に実装する32KB程度のROMチップのコスト削減だけとなる。当時のPCに採用するには、デバイスの低速さもあって、起動に時間がかかるというデメリットだけが浮き彫りとなり、後世には時期尚早な設計であるとの評価を受けた。
[編集] 現在
現在のPC/AT互換機はIPLを含むBIOSを持ち、ROM-BASIC用のROMなどは持たない一種のクリーンコンピュータと言ってもいいだろう。メディアの読み出し時間がかかった当時では欠点であったが、HDDが普及した現在ではこのクリーンコンピュータ思想の恩恵が非常に大きい。
[編集] 逸話
笑い話だが、当時のMZ-80ではモニタの表示色がグリーン(当時の高級単色モニタ)だったため、「グリーンコンピュータ」と勘違いしていた人は少なくない。(但し、初期型及び一部の下位機種はブルーであった。そのため、特に上位機種の発売後は、緑のフィルターを灰色の標準フィルターにかぶす、またはそれと交換する事で、高級モニタに粉飾するマニアも実在した。)