ガッシュ
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ガッシュ(グヮッシュ、Gouache)は、不透明な水彩絵具の一種で、顔料を、アラビアガムの水溶液で練ったもの。イタリア語のGuazzo(水溜り、不透明水彩技法)から来た言葉といわれ、本来は絵具の名前ではなく不透明水彩技法を指した。
透明水彩に対し不透明水彩といわれるが、透明水彩技法は産業革命後に絵具が工業的に作られるようになってイギリスを中心に発展したのに対し、ガッシュはそれ以前からヨーロッパ大陸を中心に使われていた水彩技法全般を指している。最も知られているのは中世の装飾本の挿絵の彩色に使われたものである。産業革命以前には屈折率の低い微粒子の顔料が少なかったために水彩絵具は不透明性が高かった。
現在のガッシュは、産業革命時に英国のウィンザー&ニュートン社が開発したグリセリンや新しい顔料を応用した水彩絵具に負うところがある。
ガッシュは、水分が蒸発することで塗膜が固化するので乾燥は早い。ガッシュは、重ね塗りも可能である。しかしデザイン向けに作られた製品は複製を前提としたデザイン用途を目的として鮮やかさと隠蔽力に重点を置いて設計されているために、耐久性に欠ける色もあり作品に使う場合には注意が必要である。
ガッシュの品質規格は国内では特にないため各メーカーがそれぞれ独自に製造しているが、米国ではASTM(American Society for Testings and Materials)Internationalの画材部会D01.57において、専門家用ガッシュ絵具の品質規格 D5724 "Standard Specification for Gouache Paints"が制定されている。
日本では小中学校で使用される水彩絵具を不透明水彩ということが多いが、これは透明水彩技法は小学生には難しいが完全な不透明水彩では絵画的な技法も限られるためにその中間的な性能で作られたものであり、マット水彩などとも呼ばれる。本来の不透明水彩と混同すべきではない。また学童用のために安価に作られているので耐久性に欠ける色もあり、そのような色は長期保存を前提とした美術作品には使うべきではない。ポスターカラーもガッシュの一種である。
[編集] アクリルガッシュ
アクリル絵具にもガッシュがある。最初にアクリルガッシュを製造したのは連合王国のラウニー社で、1970年前後と思われる。しかし、まもなく製造中止となった。その後、1980年代に入り、日本のターナー色彩がアクリルガッシュという品名で商品化し、この名称が一般化した。その後ホルベイン工業、ニッカー絵具などの主要メーカーも参入し日本での市場が広がった。英語圏にあってはAcryl Gouache(アクリルガッシュ)という表現もあるが、欧米ではAcrylic Gouache(アクリリックガッシュ)と言う。
アクリルガッシュは、主として、デザイン用途での絵具に耐水性を付与することが念頭にあり、ビヒクル(バインダー)がいわゆる水性アクリル絵具より少ないことや、鮮やかだが耐光性のない顔料がしばしば使われていることから、耐光性には注意が必要である。モデリングペーストなどを用いれば、極端な厚塗りも可能である。アクリル絵具は速乾性の効率的な塗料であり、人工物としての性格が強く、多くポップで軽快なテイストのイラストなどに用いられる。ただし、削り出しなど工夫によって重厚な画風とも調和し得る。アクリルガッシュは、水分が蒸発することで塗膜が固化するので乾燥は早く、効率的に描画出来るので、美術系大学のデザイン科などの入試における平面構成やイラストレーション、建築のパースなどに用いられる。
[編集] 下地について
水溶性で再可溶性のある、アラビアガム等の樹脂溶液を用いた従来のガッシュの下地は、基本的に水彩紙やケント紙などの紙が支持体であり、紙に直に描く。
アクリルガッシュは様々な物の上に描ける。アクリルジェッソ、モデリングペースト等の他、ジェルメディウム、マットメディウムなどのメディウム上にも描画できる。様々な凹凸を作ることが出来る。
またアクリルジェッソ、モデリングペースト等は油彩画の下地にも使われる。立体物を作るのにも使用されることもある。