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カワリミズカビ - Wikipedia

カワリミズカビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

?カワリミズカビ
分類
菌界 Fungi
ツボカビ門 Chytridiomycota
ツボカビ綱 Chytridiomycetes
コウマクノウキン目 Blastocladiales
コウマクノウキン科 Blastocladiaceae
カワリミズカビ属 Allomyces (Butler, 1911)
和名
カワリミズカビ
下位分類(節)
  • ユウアロミケス節 sect. Eu-Allomyces
  • シストゲネス節 Sect. Cystogenes
  • ブラキアロミケス節 sect. Brachy-Allomyces

カワリミズカビは、水中性のカビのひとつである。核相交代を伴う世代交代が見られる菌界では数少ない例である。そのためにさまざまな面が研究された。

目次

[編集] 特徴

カワリミズカビ(Allomyces)は、ツボカビ門ツボカビ綱コウマクノウキン目コウマクノウキン科に属する菌類である。水中に生活する菌類で、植物などの遺体などに生える、ミズカビのような姿の生き物である。ただし、そのような姿で出現するものの大部分はミズカビを含む卵菌類であり、カワリミズカビが観察できることは多くない。なお、多くのミズカビ類は白っぽく見えるが、このカビは黄色っぽくなる。

菌糸は太くて先の丸い独特のもので、二又分枝の傾向が強い。水中へ長さ1cmほど伸びて、先端に胞子のうなどをつける。水中へ伸びる菌糸は限定成長で、無限に先へ伸びるものではない。餌となる基質の中へは仮根状の菌糸が伸びて栄養吸収を行い、全体としては高等植物の樹木のように、外に向けては枝を広げ、単一の根元から根が広がるような姿となる。これらは、おおよその構造として、中心となる幹のような基部があり、それを基質に固定するような仮根と、上向きの二又分枝する側枝という風に見ることもできる。隔壁は生殖部の基部以外はないが、古くなった部分に形成されることもある。生殖関係の構造については繁雑なので生活環の項で説明する。

なお、コウマクノウキン目において、この属は唯一、菌糸が枝分かれして伸びる群である。それ以外のものはごく限定的な菌糸体しか発達させない。

[編集] 生活環

この属の三つの群で生活環に三つの型があり、その型によって属以下の分類が行われ、それらを亜属、あるいは節として扱う。そのうちの一つが核相交代を伴う世代交代がある型で、これを行うものをユウアロミケス節(sect. Eu-Allomyces)に含める。この型のものには配偶体と胞子体の二つの菌糸体があるが、この二つは、形成される生殖細胞以外はよく似ている。

[編集] ユウアロミケス節

ユウアロミセス節のものは、二通りの菌糸体を持つ。

  • 複相の菌糸体

胞子体は複相の菌糸体からなる。胞子体の菌糸の先端には仮軸状に遊走子嚢(mitosporangium)をつける。遊走子嚢は透明で紡錘形など菌糸よりやや膨らんだ形をしており、ここからは複相遊走子(diploid zoospore)が形成され、それは放出後に発芽して胞子体に成長する。遊走子は後端に一本の鞭毛を持つ。

胞子体には別に休眠胞子嚢(meiosporangium)が形成される。形は遊走子嚢に似るがより丸っぽく、濃く色づいて厚壁になる。これは全体で脱落して休眠し、発芽時に減数分裂が行われる。これによって複数の単相遊走子(haploid zoospore)が形成され、それらは単相の核を含む。単相遊走子は複相遊走子に似るが一回り小さい。後端に1本の鞭毛を持ち、好適な基質にたどり着くと発芽して単相の菌糸体(配偶体)を形成する。なお、この休眠胞子嚢は、発芽までに数週間の休眠を必要とするのが普通である。

  • 単相の菌糸体

単相の菌糸体は、複相の菌糸体とほぼ同型ながら、菌糸の先端には若干形や大きさの異なる二種の配偶子嚢が形成される。形成される配偶子は大小の遊走細胞で、大きい方が雌性、小さい方が雄性配偶子である。雄性配偶子嚢はカロチンを含んで黄色い点でも区別できる。二つの配偶子嚢は種によっては連続して二つ一組に形成され、どちらが先端側になるか、といった配置は種によって異なる。

成熟するとそれらから配偶子が放出される。両性の配偶子はいずれもこの類の遊走子の典型的な形で、大きさは約二倍ほど異なる。両者は接合して、直後は二本の鞭毛をもち、そのまま泳いで好適な基質に付着して被嚢し、すぐに発芽すると複相の菌糸体に発達する。なお、接合し損ねた雌性配偶子は単独で発芽し、単相の菌糸体に発達することもある。

[編集] シストゲネス節

シストゲネス節(Sect. Cystogenes)に入れられている種では、独立した配偶体が存在しない。菌糸体の核相は2nである。ここに通常の遊走子嚢(栄養胞子嚢)と休眠胞子嚢(還元胞子嚢)をつける。前者から出た遊走子は発芽すると元と同じような菌糸体に発達する。後者の内部にはその内部一杯に本体の休眠胞子嚢が形成され、これは薄い膜を破って放出される。これが数日後に裂開し、そこから30子までくらいのアメーバ状の細胞が出現する。それらは短時間で被嚢し、数時間後にこれから四個の遊走子が出てくる。これらの遊走子は同型配偶子としてふるまい、接合すると二鞭毛をもつ接合子となり、基質に付着すると発芽して新たな菌糸体を形成する。減数分裂は休眠胞子嚢中で行われる。そこから出るアメーバ状細胞は二核性である。

[編集] ブラキアロミケス節

ブラキアロミケス節(sect. Brachy-Allomyces)のものでは、休眠胞子嚢中で減数分裂は行われず、そこから放出される遊走子は元と同じ菌糸体を形成する。一部のものではそこで無配生殖が行われている。

これらの一部についてはユウアロミセス類の種間雑種であり、染色体数が合わないために減数分裂がうまく行かないことからこのようになっていると考えられている。

[編集] 配偶子と世代交代について

配偶子形成について、一部の種でおもしろい観察がある。A. marginusでは菌糸の先端側に雄、基部側に雌の配偶子嚢が連続して形成される。それらはほぼ同時に作られるが、それ以降の内部での配偶子の分化の過程で必ず雌の側が15-20分遅れるという。

また、両性の配偶子が癒合する際、雌性配偶子が出すフェロモン(シレニン)によって雄性配偶子が誘引されることがわかっている。雌性配偶子は配偶子嚢から放出後もそこからあまりはなれず、ゆっくりと遊泳する。このことは明確なシレニンの濃度勾配を作り、接合の機会の増大に預かると見られる。他方、雄性配偶子もパリシンというフェロモンを分泌することが解っている。

ユウアロミケスは、長らく菌類中で唯一の核相の交代を含む世代交代を行う生物と考えられてきた。このような型の世代交代は例えば陸上植物のすべてに見られるものであり、藻類にも多くの例があるが、菌類ではほとんど例が無い。明確な物としては長くこの菌だけであった。出芽酵母には、通常の単相の細胞だけでなく、複相の細胞が出芽する例も知られていたが、形態的な分化は全く見られない。しかし、現在では同じツボカビ門ボウフラキンが同様の世代交代を行うことが知られている。

この菌では、単一の遊走子から二通りの配偶子が形成されるが、このことに着目して、その性決定の仕組みを調べる研究が行われたが、現在のところほとんど分かっていない。

[編集] 分離と培養

この属が最初に発見されたのはインド(1911)であったが、後に世界中から知られるようになった。水中性の生物ではあるが、常時水のある環境では見かけることが少ない。むしろすぐに干上がるような環境、あるいはたまに水たまりになる環境の方が探しやすい。水たまりが乾燥した後の土から分離できることもある。時にはカラカラのグラウンドの土からも分離できることがある。また、土壌中でも生育していると考えられる。なお、水田は定期的に乾燥するので、このカビが比較的よく出現するとも言われる。やや温暖な地域に多い。

分離は一般には釣り餌法による。土壌試料から分離する場合には滅菌水にそれを投入したものに対して釣り餌法を行う。ベイトにはゴマの種子を用いる。

純粋培養は比較的簡単で、ミズカビ類と同様に扱い、同じようにYpSs培地でよく育つ。培地中で育つ姿は、二又分枝が目立ち、菌糸の先端が丸く、普通の菌糸とはやや異なったおもむきがある。水中で麻の実などに育てることもできる。その場合、耐久胞子を作るので、そのまま乾燥させて保存する方法もある。

[編集] 分類

世界で約9種が知られる。小林・今野(1986)は日本産として以下の種を挙げている。

  • A. arbusculus Butler
  • A. neomoniliformis Indoh
  • A. javanicus var. allomorphus Indoh
  • A. macrogynus (Emerson)

[編集] 参考文献

  • 小林義雄・今野和子『日本産水棲菌類図説』,(1986),
  • ジョン・ウェブスター/椿啓介、三浦宏一郎、山本昌木訳、『ウェブスター菌類概論』,(1985),講談社
  • C.J.Alexopoulos,C.W.Mims,M.Blackwell,INTRODUCTORY MYCOLOGY 4th edition,1996, John Wiley & Sons,Inc.


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