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アルジュバロータの戦い - Wikipedia

アルジュバロータの戦い

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アルジュバロータの戦い

1385年8月14日
場所 アルジュバロータ近郊、ポルトガル中部
結果   ポルトガルの決定的勝利
衝突した勢力
ポルトガル

イングランド

カスティーリャ

フランス

指揮官
ジョアン1世

ヌノ・アルヴァレス・ペレイラ

フアン1世
戦力
6,500人 31,000人

アルジュバロータの戦い(Batalha de Aljubarrota)は1385年8月14日、ポルトガルジョアン1世と将軍ヌノ・アルヴァレス・ペレイラ率いるポルトガル軍とカスティーリャフアン1世の軍との間でポルトガル王位を巡って行われた戦闘。カスティーリャ軍は決定的敗北を喫し、ジョアン1世のポルトガル王位が確定した。

目次

[編集] 背景

14世紀末のヨーロッパは動乱の時代であった。百年戦争によりフランスは荒廃し、黒死病が猛威を振るい、貧困と飢饉により人々は苦しめられた。ポルトガルも例外ではなく、1383年にポルトガル王フェルナンド1世が王子のないまま没すると、王女ベアトリスが母レオノール・テレスを摂政としてポルトガル王に即位する。レオノールはカスティーリャの支持を得るため、フアン1世にベアトリスとの結婚とポルトガル王位の譲渡を提案し、フアン1世は5月17日にベアトリスと結婚した。ポルトガルの貴族達はカスティーリャ人による支配を嫌ってベアトリスの王位を認めず、1383年から1385年の期間を空位時代とした。1385年4月6日、身分制議会コルテスコインブラで召集され、ペドロ1世の庶子でアヴィシュ騎士団総長のジョアンに王位を授けた。フアン1世は妻の王位を主張し、フランスの騎兵隊と彼に従うポルトガル貴族の軍とともににポルトガルへと侵攻した。

[編集] ポルトガル軍の作戦

即位後、ジョアン1世はベアトリスとフアン1世を支持する都市(カミーニャ、ブラガギマランイスなど)への侵攻を開始した。カスティーリャ軍の侵攻の知らせを受けて、ポルトガルの元帥ヌノ・アルヴァレス・ペレイラもトマールの街でジョアン1世の軍に加わった。そこで、彼らは都リスボンに近づく前に敵軍と対峙することを決定した。

ジョアン1世は、ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの娘フィリッパと結婚することでイングランドと同盟を結んでおり、イングランドの弓兵隊が援軍として派遣されていた。ポルトガル軍はレイリア近郊で侵攻軍を迎え撃つ準備をした。アルヴァレス・ペレイラは戦場としてアルジュバロータ近くのサン・ジョルジェを選んだ。サン・ジョルジェは小さく平坦な丘で、小川に囲まれており、ごく小さな集落が現在も存在する場所である。8月14日の午前10時ごろ、ポルトガル軍は丘の北側に、やがて敵軍の現れる街道へ向かって布陣した。14世紀における他の防衛戦(例えばクレシーの戦いポワティエの戦い)と同じように、ポルトガル軍は以下のように作戦を練った。下馬した騎兵隊と歩兵隊は長弓隊とともに両翼を固め、彼らも自然の障害(この戦いでは小川と急な坂)によって防御されていた。背面にはジョアン1世自身が指揮する増援部隊が位置した。ポルトガル軍はこのように高い丘の上から敵軍の到着を観測することができ、急斜面によって、前面から攻撃を受ける心配は無かった。ポルトガル軍の背後には、最終的な戦場となる狭い坂があり、それは小さな村へと繋がっていたが、そこには対騎兵用の複雑に絡み合った堀が作られていた。この堀を使った戦術はこの時に生まれ、以降イングランド軍には百年戦争で、ポルトガル軍には以降のカスティーリャとの戦いで広く用いられた。

[編集] カスティーリャ軍の到着

戦闘の経過
戦闘の経過

カスティーリャ軍の先兵は昼食時に北から現れた。ポルトガル軍の強固な防御体制を見たフアン1世は戦闘を避け、約3万の軍勢とともにゆっくりと丘を迂回し始めた。カスティーリャ軍の斥候は、丘の南側には緩やかな坂があり、攻撃が可能であることを報告した。

カスティーリャ軍の移動を見て、ポルトガル軍は南側の坂へと反転した。ポルトガル軍は少数だったので素早く動くことができ、正午には最終地点へ到達した。アルヴァレス・ペレイラは兵の士気を高め、防衛陣地を仕上げるために堀にカルトロップ(まきびし)を仕掛けるよう命じた。このような戦術はイングランド軍の典型的手法で、おそらく戦場のイングランド同盟軍の提案によるものと思われる。

午後6時ごろ、ようやくカスティーリャ軍の戦闘準備が整った。フアン1世自身の記録によれば、カスティーリャ兵は8月の炎天下を朝から行進していたため、その頃には疲れ果ててしまっていた。もはや休止する時間もなく、すぐに戦闘が始まった。

[編集] 戦闘

戦いは、初めカスティーリャ軍が優勢であった。フランス騎兵隊が敵戦線を粉砕しようとポルトガル軍に全力で突撃した。騎兵は歩兵隊の目前まで迫ったが、クレシーの戦いのように長弓隊の攻撃と堀の罠にかかり、混乱した。大部分の騎兵が失われ、攻撃は完全に食い止められた。カスティーリャの歩兵隊ははるか後ろにいて、援護が出来なかった。生き残った騎士は捕虜となって背面部隊に送られた。

この時点でカスティーリャ軍の主力が戦闘に参加した。大軍ゆえに隊列は非常に大きく、小川に挟まれた小さな丘で戦うには隊列を崩さざるを得なかった。この時ポルトガル軍は再編成されており、アルヴァレス・ペレイラの先兵は2つに分けられていた。先兵隊を守るためにジョアン1世は長弓隊に退却を、自身の部隊に先兵隊の居場所までの前進を命じた。全ての部隊が前線に赴かねばならなかったため、捕虜となった騎士を見張る者がなく、ジョアン1世は騎士達に自害を命じ、そしてカスティーリャ軍との戦いへ向かった。カスティーリャ軍はポルトガル軍の両翼部隊と前進する背面部隊に押し潰される形となった。両軍ともに多くの損害を出し、カスティーリャ軍とポルトガル軍左翼部隊が特に大きな犠牲を出した。日没までにカスティーリャ軍はまったく防御不能の状態となり、まさに絶望的な戦況となった。フアン1世は退却を命じ、生き残ったカスティーリャ兵は逃亡を始めた。ポルトガル軍は追撃し、多くを倒して戦いに勝利した。

[編集] 結果

バターリャ修道院
バターリャ修道院

夜が明けると、戦いの惨状が明らかになった。丘を取り囲む堀はカスティーリャ兵の死体であふれていた。フアン1世は命からがら逃げ出したが、兵卒だけでなく多くの貴族を置き去りに逃げたため、カスティーリャでは1387年のクリスマスまで国中が喪に服すことになった。フランス騎兵隊の分遣隊は、イングランド軍によって別の場所でも敗北した。数十年後のアジャンクールの戦いでも同じことが繰り返されることになる。

この勝利によってジョアン1世の王位が確定し、ポルトガルの独立が守れられるとともに、アヴィシュ王朝が成立した。1390年のフアン1世の死まで国境紛争が繰り返し起こったが、ポルトガルの王権を揺るがすには至らなかった。勝利を祝して、また神の加護への感謝としてジョアン1世はバターリャ修道院の建設を命じ、またこの地にバターリャ(ポルトガル語で「戦い」の意)の街を作った。ジョアン1世と王妃フィリッパや王子たちはこの修道院に葬られており、世界文化遺産となっている。

[編集] ポルトガル軍の勝因

歴史修正主義の立場から戦闘そのものへの疑問の声も上がっているが、

  • 小川や急斜面を利用した主に地形的要因。これは補給や持久戦を度外視した作戦面での勝利とも言える。それに堀に罠を仕掛けるなど後世へ向けたメッセージともなった。が何れも敵軍を誘導する必要があり、作戦面との係わり合いから地形的要因を単発で取り上げることはできない。
  • 夏に戦いが行われた天候要因。カスティーリャ軍が移動後の戦いを強いられ始まる前に兵士たちの士気が減少していたこと。比べてポルトガル軍は迎撃戦で迎え撃つ準備を整えていたこと。しかし長期に渡って移動を強いられることは珍しくもなくこれが作戦面に大きな影響を与えるとは考えられない。したがって将士の指揮能力も考慮に入れなくてはならない。
  • 将帥の指揮能力・作戦の勝利。ジョアン1世の寡兵で大兵を破った手腕をその能力に求めることも多い。しかしこれは歴史学の立場から検証する必要があり、彼をナポレオンと同一視するポルトガル人の考えには普遍性がない。よって誘導・撃破はその時の条件によって解釈が異なる。
  • イギリスとフランスの援軍。これは両国が同時代に戦争していたこともあり、その項を参照。またイギリス軍が強くフランス軍は弱かったなどという事実はない。それぞれに得意な戦法や戦闘方法があり、当時の軍勢の攻勢を示す資料はない。


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