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無期刑 - Wikipedia

無期刑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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無期刑(むきけい)とは、刑の満期が存在しない刑罰である。通常自由刑の刑期の一種として存在する。

日本では、無期禁固刑と無期懲役刑が定められている。

目次

[編集] 概要

無期刑は、自由刑(身体を拘束して自由を奪う種類の刑罰)の一種である。自由刑は、期間の点で「無期刑」「有期刑」「不定期刑」に区分されるが、うち無期刑は受刑者が死亡するまで刑が終了しないもので、自由刑の中では最も重いものとされる。「終身刑」と呼ばれる場合もある。

ただし、「無期刑」「有期刑」「不定期刑」の区別は、実際の運用上、必ずしも厳密なものであるとはいえない。たとえば有期刑であっても寿命をはるかに上回る期間を定めたものは事実上の無期刑であり、また、不定期刑であっても刑の終了条件を満たさない場合には事実上の無期刑となる。逆に、無期刑であっても、何らかの条件を満たした場合には仮釈放という形で身体の拘束を解き、社会復帰をさせるという運用を行う制度もある(仮釈放を行わず終身にわたって拘束を続けるものを、特に「絶対的終身刑」などと呼び、日本においてはこれにあたる刑罰のみが「終身刑」と呼称されることが多い。詳しくは→終身刑)。

[編集] 日本における現状

[編集] 受刑者数

日本における、2005年末現在の無期刑受刑者数(仮釈放中の者を除く)は1467名(矯正統計年報による。以下記載がない場合の数値は同出典)であり、1991年(870名)以来、増加傾向にある。

[編集] 判決数

近年、無期刑の判決数・確定数は増加している。統計開始以後の各年ごとの無期刑確定者数を見てみると、以前は30~50名程度でほぼ横ばいであったが、2000年に初めて60名に達して以降、毎年増加しており、2005年には134名と10年前に比べ3~4倍の水準となっている。

一方、警察白書や犯罪白書などの政府統計データによれば、法定刑の中に無期懲役刑を規定している殺人や強盗致死などの発生件数の総数は減少傾向にあることから、判決における運用上の厳罰化も無期刑判決の増加の一因となっているのではないかという指摘も挙がっている。

[編集] 「無期」の意味

「無期刑は期間の定めのない刑罰であり、いずれ刑期を終えることができる」といった誤解も見られるが、無期刑の「無期」とは、「期限を決めない(期間の定めのない)」という意味ではなく、「満期がない」という意味であり、満期が存在しない以上、刑は本人が死亡して刑の執行ができなくなるまで続く。また、終身刑も本人が死亡するまで刑の執行が続くものをいい、本来、無期刑と終身刑は同義である[1][2]

期間を決めず刑種だけを決める刑罰は、絶対的不定期刑と呼ばれ、現行法制の下では、罪刑法定主義の考え方から許されないものとされている。

なお、仮釈放制度の存在を理由として日本の無期刑を「期間の定めのない(10年以上の)刑」とするならば、有期刑にも仮釈放の制度が存在しているのであるから、たとえば15年の有期刑は「5年以上15年以下の不定期刑」と呼称しなければ整合性が取れないという問題が生じる。

[編集] 仮釈放制度

法律上は、無期刑に処せられた者は10年以上服役すれば、仮釈放できる規定になっている(刑法28条)が、これはあくまでも仮釈放の申請が可能になるという意味にとどまり、必ず仮釈放されるという意味とは異なる。なお、仮釈放の申請は、矯正施設の長(刑務所長など)が行い、現行法では受刑者本人には仮釈放の申請権は認められていない。この申請は法務省の地方更生保護委員会高等裁判所に対応して全国に8ヶ所設置されている)に対して行われ、同委員会が仮釈放の許否を決定する仕組みとなっている。

無期刑には仮釈放の可能性があるが、仮釈放は刑の終了を意味するものではなく、無期刑の受刑者は、仮釈放が許された後も、恩赦などの措置がない限り、刑の終了自体はなく、一生仮釈放のままである(終身保護観察に付される)。そのため、仮釈放中に何らかの犯罪を犯せば、仮釈放は取り消され、刑務所に逆戻りとなる(このような刑罰のことを「相対的終身刑(相対的無期刑)」ともいう)。

つまり、日本の無期刑は、終生という刑期の途中で仮釈放によって社会復帰できうる刑罰である。

[編集] 仮釈放の運用の実際

無期刑に関して、マスコミなどから「10年で仮釈放し得る無期刑は刑として軽すぎる」と批判されることがあり、一般市民の中にも「10年経てば自動的に必ず仮釈放されるので、無期刑は実質10年である」などと誤解している例も見られるが、実際の運用を見てみると、そのようなことはなく、特に近年では全般的に厳格に運用されており、運用上の「厳罰化」が進んでいる。

仮釈放を許された者の在所年数については、以前は平均20年前後で推移していたが、2005年は平均27年2ヶ月となっている。法務省はマスコミに対し約25年と述べている。 また、1996年と2000年と2004年には仮釈放者の分布全体が長期化の方向にシフトしていて、特に2000年以降では、在所20年以内で仮釈放を許可される者は例外的となっており、2000年以降では20年以内の仮釈放者は3名のみ、最近3年間では仮釈放者全員が在所20年以上であった[3][4][5]。なお、2005年1月1日の刑法改正により有期刑の上限が20年から30年に引き上げられたことで、有期刑とのバランスを取る意味でも、将来的には仮釈放までの服役期間が延びる可能性も指摘されている。

また、2004年度の犯罪白書によると、1980年代前半までは毎年おおむね50人以上が仮釈放許可を受けていたのに対し、最近5年間では44人(年平均8.8人)となっている。未仮釈放の長期在所者については、2000年8月の時点で在所40年以上が17人、在所50年以上が2人確認されており、仮釈放を許されないまま刑務所で死を迎える者も毎年複数名存在していることも確認されている[6][7]

なお、懲役刑の執行を法律上管理し、仮釈放の運用にあたり意見を述べる立場にある検察庁は、特定の無期懲役案件に関して、仮釈放の申請がなされた場合であっても同意しない旨の運用をするための通達を行っているものとされている。

死刑廃止論や厳罰論に関連して、「無期刑は10年で仮釈放があるので、死刑との差が極端に大きすぎる。死刑を廃止し、終身刑を導入するべきだ」といった意見や、「無期刑は10年で仮釈放があるので、10年の有期刑だ。日本も海外諸国のように死刑制度維持のまま無期刑との格差を縮めるために終身刑を導入するべきだ」(土本武司=刑法学者)[8]といった意見もあるが、以上のデータから見るとその認識の妥当性には疑問が残る。

[編集] 昼夜間厳正独居拘禁者

受刑者の中には、昼夜間厳正独居拘禁の処遇を受けている者もおり、2000年の時点で、通算30年以上、昼夜間厳正独居拘禁の処遇を受けている無期懲役受刑者が5名存在することが確認されている[9]。このような処遇は人権上問題があるのではないかとの指摘もある。

[編集] 恩赦

戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮釈放中の者を除く)は86人いるが、1960年に実施されたのを最後に、それ以後は記録されていない。

また、政令恩赦による減刑も、1952年サンフランシスコ平和条約の発効に伴って実施されたのを最後に、それ以後は記録されていない(2000年10月3日 政府答弁)。

[編集] 仮釈放のない無期刑(絶対的終身刑)の導入議論

日本の無期刑は、20~40年で仮釈放が認められることがある点で、社会復帰の可能性がない絶対的終身刑とは異なる。

仮釈放中に復讐殺人や強盗殺人など重大な犯罪を犯すケースが見られること(無期刑の仮釈放中に殺人などの凶悪犯罪を犯すと死刑判決が下される場合が多い)や、死刑と無期刑との間に少なからずギャップがあるという点から、仮釈放制度のない無期刑(絶対的終身刑)制度の導入の是非が議論されている。この問題は、死刑廃止問題とも密接にリンクしており、死刑を廃止した場合に導入する最も重い刑として仮釈放のない無期刑(絶対的終身刑)を想定しているケースが見られる[10]

ただ、仮釈放中の再犯は、道路交通法違反、無銭飲食(詐欺罪)、万引き(窃盗罪)などの軽微な犯罪の比率が高い(2000年10月3日 政府答弁)。

[編集] 無期刑と未決勾留日数

無期刑の言渡しをする場合でも、未決勾留日数の一部または全部を刑に算入することができるとされており、実際にも、多くの裁判例において未決勾留日数が無期刑に算入されているが、無期刑は満期が存在しない終生の刑であるため、事柄の性質上、仮釈放が可能になる最低年数からは引かれず、未決勾留日数の算入は、恩赦などで有期刑に減刑された場合にしか意味を持たないものと解されている[11][12]

ただし、実務上は、未決勾留が長期に及んだ場合、仮釈放の検討の際に、ある程度の考慮が払われることもある。

[編集] 無期禁錮

法定刑に無期禁錮刑がある犯罪は、内乱罪および爆発物取締罰則第1条及び第2条違反のみである。

内乱罪は戦前に2件の適用例があるが、戦後に適用された例はない。また、爆発物取締罰則の適用そのものは時々あるが、これによって無期禁錮刑を言い渡された者は確認されておらず、無期禁錮刑は適用されることが非常に稀な刑罰である。

『平成9年版 犯罪白書』によると、昭和22年以降の50年間に無期禁錮刑を言い渡された者はいない。また、『犯罪白書』平成10年版~18年版では、「科刑状況」の章に「無期禁錮」の項目自体が設けられておらず、平成10年以降も無期禁錮刑を言い渡された者はいないと見られる。

[編集] 少年法と無期刑

少年法58条1項1号は、少年のとき無期刑の言渡しを受けた者には、7年を経過した後、仮釈放を許すことができると規定しており、同法59条1項は、少年のとき無期刑の言渡しを受けた者が、仮釈放を許された後、それが取り消されることなく10年を経過したときは、刑の執行を受け終わったものとすると規定している。 ただし、上記の規定は、不定期刑と同様、刑の言渡し時を基準としているため、刑の言渡し時にも20歳未満である者に対して適用される。なお、58条1項1号の「7年」というのは、あくまで仮釈放を許すことができる法律上の最短期間であり、実際に7年で仮釈放が許されることは皆無である。

また、同法51条は、罪を犯すとき18歳未満であった者について、本来死刑が相当であるときは無期刑を科す旨規定し(同条1項)、本来無期刑が相当であるときも、10年以上15年以下の範囲で有期の定期刑を科すことができる旨規定している(同条2項)。ただし、51条2項の規定は、「できる」という文面が示すとおり、同条1項のような必要的緩和とは異なる裁量的緩和であり、本来どおり無期刑を科すこともできるし、裁判官の裁量により刑を緩和して有期の定期刑を科すこともできるという意味である。なお、58条2項は、51条1項の規定によって死刑から無期刑に緩和された者については、58条1項1号の規定は適用しない旨規定している。

[編集] 各国の現状

EU諸国は死刑制度を廃止しているが、仮釈放なしの終身刑制度(絶対的終身刑)が残っているのはイギリスなど少数である。イギリスの場合は、裁判官が個別に最低服役期間(タリフ)を定める形を取っており、監獄における行状により通常15年から25年の幅で仮出所できる(2002年末現在で、5314人の終身刑受刑者のうち、タリフが一生涯のものは25人)。

各国の終身刑の最低服役年数については、ベルギー、ニュージーランド、イタリアは10年、オーストリア、フィンランドは12年、ドイツは15年、カナダは15年(原則)、フランスは20年(平均服役年数は27年)となっている(参考)。 なお、オランダでも20年経過後に仮釈放の申請が可能であるが、オランダでは仮釈放を許可されるケースは少なく、事実上の絶対的終身刑となっている。

また、ヨーロッパにおいては、最高刑を有期刑とする国もあり、スペインでは30年(テロの場合は40年)、スロヴェニアでは30年、ポルトガルでは25年、ノルウェーでは21年、キプロス、スウェーデンでは20年の自由刑が最高刑となっている。

これらの国では、死刑や終身刑がなくなったことで、国家は犯罪者を「社会に貢献し義務を果たす国民」に戻す責任を負うことになったこともあり、国家は矯正教育に力を入れ、そのプログラムが発達したともいわれている。日本では、旧監獄法に矯正の概念が乏しかったため、受刑者を収容施設に拘禁して刑期が終わると機械的に釈放してしまうシステムが長く続いてきたが、2006年に監獄法が廃止され、受刑者処遇法が成立したことにより、刑務所に刑務官以外の矯正教育プログラムの専門家が入るようになり処遇には改善が見られつつある。

現在、日本では現行の無期刑と死刑との間に重無期刑(絶対的終身刑)を置く議論もされているが、実際に「仮釈放なしの終身刑(絶対的終身刑)」(life sentence without possibility of parole)が置かれているのは、死刑制度を存続させている米国(一部の州を除く)や中国(凶悪犯罪で無期懲役になった場合には仮釈放は認められていない)、死刑を廃止したオーストラリア(一部の州を除く)やイギリス、オランダなど少数にとどまっており、多くの国における終身刑は、日本の無期刑に相当する「仮釈放のある終身刑(相対的終身刑)」である[13]

[編集] 参考文献

  • 龍谷大学矯正・保護研究センター編・石塚伸一監修 『国際的視点から見た終身刑―死刑代替刑としての終身刑をめぐる諸問題』 成文堂、2003年10月20日。ISBN 4792316278

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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