叡山電鉄デオ900形電車
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叡山電鉄デオ900形電車(えいざんでんてつでお900がたでんしゃ)は、きららの愛称で知られる、叡山電鉄(以下叡電)の鉄道車両である。
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[編集] 概要
京都市営地下鉄烏丸線が国際会館駅まで延伸されたことに伴う乗客減を、“観光路線”としてアピールすることで回復、あるいは定期客の逸走を防止することを目指し、1997年10月4日に第1編成が登場した。
製造は従来の叡電の車両と同様に、阪神電鉄の子会社である武庫川車両工業(現在は解散)であるが、コンセプトデザイン[1]を含む設計全般は近畿車輛が担当しており、台車も従来の住友金属工業製ではなく同社製のものを模した近畿車輛製となっている。
この結果、本形式は近鉄21000系「アーバンライナー」以降約10年の間に近畿車輌が蓄積してきた高品位デザインのノウハウが惜しみなく注ぎ込まれて完成している。
なお、本形式は従来の鉄道車両の概念を超えた斬新かつ高水準なエクステリア・インテリアデザインを高く評価され、鉄道友の会から1998年に第38回ローレル賞を受賞した[2]。
[編集] 車体
座席は運転台に向かい左側に一方方向配置の1列固定式クロスシートを扉間に配し、向かって右側にはグループ旅客に配慮した2列のボックスシートと、当形式最大の魅力である窓向きのシートが2人がけ4脚で計8名分配置されている。各車とも同じ配列であるので、後側の車両では進行方向右側が一方方向配置のシートとなる。
窓ガラスは、一方方向配置のシートのある側は2枚単位の通常の連窓構成であるが、窓向きシートのある側は戸袋窓以外の扉間の側窓全てのピラーが細い連窓構造とされて温室のような外観とされている。これに加えて両側面共に明かり取り窓が屋根の肩部に設けられ、連結面の妻窓は側面にまでガラスが広がる曲面ガラスを採用し、更には各車各側面につき2カ所ずつ設置されている客用扉を縦長の窓の付いた引き戸とするなど、優れた眺望を着席客だけではなく立席客にまで広く提供することに特に意を注いだ設計となっている。それがゆえに、紅葉(紅葉ライトアップ)時期には同形式に混雑が集中することがある。
なお、側面中央腰板部に楕円形の「きらら」ロゴ銘板が貼付されているが、これは叡電伝統の車両番号板を模したものである。
[編集] 主要機器
主電動機は京阪大津線600形の昇圧対応工事で発生したTDK-8565-A[3]を小改造したTDK-8565-Bが使用されている。
但し、列車の運行頻度が低く回生失効となる可能性が高い[4]ためか、通常の電動カム軸式制御器による抵抗制御方式[5]とされた。このため、ブレーキは京阪600形で行われていた複巻電動機と界磁位相制御による電力回生制動の常用を行わず、電気指令式ブレーキと発電ブレーキ[6]を組み合わせたシンプルなHRD-1Dが採用されている。
台車は上述の通り住友金属工業製FS-503系を模した、積層ゴムによる側梁緩衝ゴム式台車である近畿車輌KD-232を新製して装着している。
また、集電装置としては叡電初のシングルアーム形パンタグラフ(東洋電機製造製)が奇数車に2個装備されている。
[編集] 運用
2編成4両が在籍し、塗色は第1編成(901-902)はメープルレッド、第2編成(903-904)はメープルオレンジをメインカラーとし、沿線の紅葉をイメージしたカラーリングも非常に好評である。きららの愛称は、沿線にある修学院から比叡山に通じる道「雲母坂(きららざか)」[7]から命名された。第1編成の登場時には、叡電の起点である出町柳駅に、全国の鉄道ファンや京都を訪れる観光客から、「きらら号は何時に乗れるのか?」という運行時刻の問い合わせ電話が多く寄せられた。現在は叡電のホームページのきらら専用の時刻表で確認出来る。叡山電鉄の看板電車として人気があり、観光シーズン(特に秋の紅葉時)の時はほぼ終日満員となる。平日ダイヤの一部の列車は車両点検のため、他の車両に振り替えられる。
貴船もみじ灯篭が行われる期間中は市原~二ノ瀬間の『紅葉(もみじ)のトンネル』がライトアップされる。この期間中、夜間(17〜21時ごろ)にこの区間の走行時は車内灯が消され徐行し、非常に幻想的な風景を楽しむことが出来る[8]。
ちなみに、叡電は毎年10月22日に行われる鞍馬の火祭への旅客輸送に際し、出町柳~鞍馬を直通する運用に2両編成を全編成投入する特別体制で臨んでいるが、本形式は車内構造が輸送力列車に適さないことから夕方(16時~17時)からは鞍馬への運用から外れ、夕方以降(17時~20時ごろまで)は出町柳~二軒茶屋の区間運転に用いられている。この時、不足する2編成については本来単行運転用のデオ700系を2両連結して2編成を構成し、当該運用に充当することで混雑時の対応としている。
[編集] 脚注
- ^ デザインコンセプトとしては、他社で流行していたレトロ電車的なものも一旦は検討の俎上に上ったというが、これは早期に却下され、最終的にはデザイン時点での最新最良のものを取り入れてまとめ上げる方針で叡山電鉄側の了解が得られている。
- ^ 叡電車両としては史上初。親会社の京阪電鉄も含めると6000系以来2車種目となる。
- ^ 定格出力53kW、直流複巻式。
- ^ また、回生失効に対応する電力吸収設備も変電所等に設置されていない。
- ^ 主電動機は複巻式ではなく直巻式相当の回路構成で使用されている。
- ^ それゆえ、奇数車の床下には抵抗器が所狭しと並べられており、極めて密度の高い床下機器配置となっている。
- ^ かつては比叡山の僧兵が京と北嶺を往来するのに用いたことで知られ、叡山電鉄叡山本線のルーツというべき由緒正しい古道である。
- ^ 2006年11月にはこの走行風景を撮影するためにテレビ局が取材に訪れ、そのシーンを使用した番組内でも非常に好評であった。
[編集] 模型
KATO(関水金属)よりNゲージ鉄道模型が第1・第2編成とも発売されている。
[編集] 外部リンク
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現行車両 | 営業用:デオ900形 - デオ800系(800・850番代、810番代) - デオ700系(710形、720形、730形) - デオ600形 事業用:デト1001形 |
過去の車両 | 営業用:デナ500形(阪神831形電車) - デオ300形 - デオ200形 - デナ21形(20番代、120番代) - デナ11形 - デナ1形 事業用:デワ101形 |