私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
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通称・略称 | 独占禁止法、独禁法 |
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法令番号 | 昭和22年法律第54号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 競争法、経済法、商事法 |
主な内容 | 私的独占及不当取引制限など |
関連法令 | 商法 |
条文リンク | 総務省・法令データ提供システム |
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(してきどくせんのきんしおよびこうせいとりひきのかくほにかんするほうりつ;昭和22年4月14日法律第54号)は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することを目的とする日本の法律である(同法第1条)。
同法律には法令用語で言うところの「題名」は付されておらず、頭書の名称は制定時の公布文から引用したいわゆる「件名」である。独占禁止法ないし独禁法と略称されることも多い。内閣官房による標準対訳(英訳)では、"Act on Prohibition of Private Monopolization and Maintenance of Fair Trade"と訳される。
同法は、こうした事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、もって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進するという政策目的(いわゆる主婦連ジュース事件に関する最高裁昭和53年3月14日判決民集32巻2号211頁を参照)に基づき制定されている(同条)。
第1条の目的を達成することを任務とする公正取引委員会を置くと定めている(同法第27条第1項)。
なお、本法を含む総称としての独占禁止法については独占禁止法の項を参照。
目次 |
[編集] 構成
- 第1章 総則
- 第2章 私的独占及び不当な取引制限
- 第3章 事業者団体
- 第3章の2 独占的状態
- 第4章 株式の保有、役員の兼任、合併、分割及び事業の譲受け
- 第5章 不公正な取引方法
- 第6章 適用除外
- 第7章 差止請求及び損害賠償
- 第8章 公正取引委員会
- 第1節 設置、任務及び所掌事務並びに組織等
- 第2節 手続
- 第3節 雑則
- 第9章 訴訟
- 第10章 雑則
- 第11章 罰則
- 第12章 犯則事件の調査等
- 附則
[編集] 弊害要件総論
[編集] 序論
独禁法における主要な違反要件においては、単に行為要件(例:不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと)を満たすのみでは足らず、「競争を実質的に制限する」(競争の実質的制限)や「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)を満たさなければならない。このうち後者についてを弊害要件という。そして、弊害要件が満たされるためには、「行為それ自体が競争手段として不正である」という不正手段か、「行為そのものが直ちに不正となるわけでないが、何らかの悪影響をもたらしている、あるいは、そのおそれがある」という反競争性が必要とされている。
条文上は、私的独占や不当な取引制限では競争の実質的制限が、不公正な取引方法においては公正競争阻害性が規定されており、後者のほうがより緩い要件とされている。
[編集] 市場
条文上の「一定の取引分野」とほぼ同じとされているが、個別の事情に応じて弊害要件を検討する際の前提として一般には需要者の視点からみた選択肢の幅からいわゆる「検討対象市場」を画定するものとされている。
[編集] 反競争性
競争停止、他者排除、優越的地位濫用の3つに分けられるとされているが、主な論点として他者排除事案に対し他者排除重視説(他者排除があれば、競争に影響をおよばさなくても反競争性を認める説)と原則論貫徹説(競争に影響を及ぼさない限り、たとえ他者排除があっても反競争性を認めない説)が対立している。
[編集] 不正手段
行為そのものが不正とみなされる行為をさす。
[編集] 正当化理由
反競争性がもたらされたり不正手段がなされても、そのような行為を正当化する理由があれば独禁法違反となるわけでない。このような正当化するような場合を認めるかどうか否かに関して争いがあるが,最高裁石油カルテル刑事事件(昭和59年判決)も限定的ながら認める余地があることを示唆しているとされている。
[編集] 私的独占(2条5項、3条前段)
事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを言う(2条5項)
大部分の「私的独占」に当たる行為は「不公正な取引方法」にも該当するため、独自の意義付けは低いという見方が最近提唱されている。排除型については、一般指定15項がほとんど包含するし、支配型については、2条9項4号がほぼ包含する。もっとも、支配型については「不公正な取引方法」にはない課徴金制度が導入されたため、「私的独占」で事件処理をする意味が増している。
[編集] エンフォースメント
排除措置命令
課徴金納付命令(支配型私的独占のみ)
刑事罰
[編集] 不当な取引制限(2条6項、3条後段)
事業者が、契約、協定その他何らの名義を持ってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう(2条6項)。
6条において不当な取引制限を内容とする国際的協定等が禁止されている。
典型的には談合がこれに当たる。
[編集] エンフォースメント
排除措置命令
課徴金納付命令(いわゆるハードコア・カルテルに該当するものに限る)
刑事罰
[編集] 不公正な取引方法(2条9項,19条)
次の各号のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。(2条9項)
- 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと
- 不当な対価をもって取引すること
- 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し,又は強制すること
- 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること
- 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること
- 自己(自己が株主あるいは役員である会社も含む)と国内において競争関係にある事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し,又は国内において競争関係にある事業者が会社である場合において,その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益をするよう,不当に誘引し,そそのかし,若しくは強制すること。
6条において不公正な取引方法を内容とする国際的協定等が禁止されている。
[編集] 一般指定
不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)のことを指す。
- 1号に対応して取引拒絶、差別対価等が1項~5項
- 2号に対応して不当廉売等が6項・7項(3項も対応する)
- 3号に対応して抱合せ販売等が8項~10項(特別法として景表法が存在)
- 4号に対応して拘束条件付取引は11項~13項
- 5号に対応して優越的地位の濫用は14項(特殊指定は主に5号に対応する)
- 6号に対応して競争者に対する取引妨害が15項・16項
が規定されている。
[編集] 特殊指定
詳細は特殊指定を参照
新聞業、物流、大規模小売店に関するものが存在する。
[編集] エンフォースメント
排除措置命令
民事上の差止め請求
[編集] 事業者団体規制(8条)
次に掲げる行為の禁止
- 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること
- 不当な取引制限・不公正な取引方法に該当する国際的協定又は国際的契約をすること
- 一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること
- 構成事業者の機能又は活動を不当に制限すること
- 事業者に不公正な取引方法に該当するような行為をさせること
[編集] 届出義務
一定の事業者団体は成立から30日以内に公正取引委員会に届出義務
[編集] エンフォースメント
排除措置命令
課徴金納付命令(1号の不当な取引制限に該当するとき、あるいは2号の不当な取引制限を内容とする国際的協定等を締結した場合に限る)
刑事罰(私的独占・不当な取引制限に限る)
[編集] 企業結合規制
[編集] 合併(15条)
次の各号の一に該当するときは合併をしてはならない。
- 合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとき
- 合併が不公正な取引方法によるものである場合
[編集] 共同新設分割・吸収分割(15条の2)
次の各号のいずれかに該当する場合は、共同新設分又は吸収合併をしてはならない。
- 共同新設分割等によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとき
- 共同新設分割等が不公正な取引方法によるものである場合
[編集] 事業の譲受け等の規制(16条)
会社は、次に掲げる行為をすることにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合は、そのような行為をしてはならず、不公正な取引方法により次に掲げる行為をしてはならない。
- 他の会社の事業の全部又は重要部分の譲受け
- 他の会社の事業場の固定資産の全部又は重要部分の譲受け
- 他の会社の事業の全部又は重要部分の賃貸
- 他の会社の事業の全部又は重要部分についての経営の委任
- 他の会社と事業上の損益を共通にする契約の締結
[編集] 会社による株式保有の規制(10条)
会社は、他の会社の株式を取得又は保有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合は、その株式を取得又は保有してはならず、不公正な取引方法により他の会社の株式を取得又は保有してはならない。
[編集] 銀行・保険会社による議決権保有規制(11条)
原則として他の国内の会社の議決権のうち、銀行については5%,保険業については10%を超えて、議決権を取得又は保有してはならない。
[編集] 役員兼任規制(13条)
[編集] 会社以外のものによる株式保有規制(14条)
[編集] エンフォースメント
排除措置命令(株式の譲渡,事業譲渡,役員辞任)
合併・分割無効の訴え
[編集] 届出制度
事前届出 合併・共同新設分割・吸収分割・事業譲受等 待機期間 原則30日
事後届出 株式取得・保有 30日以内
[編集] 事前相談制度
企業結合計画に関する事前相談に対する対応指針(平成14年12月11日公表)による事前相談が合併等の前に行われるのが通例である。申出の条件としては、具体的な計画に対する当事会社からのものでこれへの回答内容を公表することを条件として行われ、原則として90日以内に回答するものとされている。そして、問題がないと回答したものについては、届出後において法定の措置を採らないものとされている。
[編集] 例外的な規制
[編集] 事業支配力過度集中会社の規制(9条)
他の国内の会社の株式(持分を含む)を所有することにより事業支配力が過度に集中する会社を設立したり、そのような会社になってはならない。
[編集] 事業支配力が過度に集中するとは
会社(子会社その他株式所有により事業活動を支配している他の国内会社)の総合的事業規模が相当数の事業分野にわたって著しく大きいこと、
これらの会社の資金に係る取引に起因する他の事業者に対する影響力が著しく大きいこと、
又はこれらの会社が相互に関連性のある相当数の事業分野においてそれぞれ有力な地位を占めること
により国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進することの妨げになることをいう。
[編集] 報告書提出義務
一定の持株会社や総資産2兆円以上の会社(子会社も含んで計算。ただし,銀行等は総資産8兆円以上)については毎事業年度終了後3月以内(設立時は30日以内)に公正取引委員会に報告書提出義務がある。
[編集] エンフォースメント
排除措置命令(株式の処分等)
[編集] 独占的状態に対する規制(8条の4)
[編集] 独占的状態とは
同種または類似の商品又は役務の国内で供給されたものの価額が一定の水準を超えた場合において,その商品役務等に係る一定の事業分野において,次に掲げる市場構造及び市場における弊害があることをいう。
- 1年間において,一の事業者のシェアが50%を越えるか2の事業者のシェアの合計が75%を超えること
- 他の事業者が新規参入することを著しく困難にする事情があること
- その事業者が供給する一定の商品役務について、相当期間、需給の変動や供給費の変動に照らして、価格上昇が著しいか、その低下が僅少でありかつその期間において次の各号のいずれかに該当していること
イ 標準的な利益率を著しく上回る利益を得ていること ロ 標準的な販売費及び一般管理費に比し著しく高額な販売費及び一般管理費を支出していること
[編集] エンフォースメント
公正取引委員会は、独占的状態があるとき、事業者に対し事業の一部譲渡その他競争を回復させるのに必要な措置を命じることができる。ただし、そのような措置によりその事業者の供給する商品等の供給費用が著しい上昇をもたらす程度に事業が縮小し、経理が不健全になり、又は国際競争力の維持が困難になると認められる場合、及びその商品等について競争を回復するのに足りると認められる他の措置が講ぜられる場合はこの限りでない。
なお、公正取引委員会は審判開始手続に先立って公聴会を開催する義務が生じる。
[編集] エンフォースメント
[編集] 排除措置命令
平成17年改正後は排除措置命令(事前手続あり)が出た時点から効力が発生し、争う者は審判請求をおこなって審判手続に移行することとなった(供託金を積むことによる執行停止制度が存在)。
排除措置命令は現在行われている行為に対するのみならず、行為がなくなってから3年を経過していない場合は「特に必要があると認めるとき」に限り排除措置命令を出すことが可能となった。
確定した排除措置命令に違反した者には2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(併科が可能)に処せられ、法人については3億円以下の罰金(私的独占、不当な取引制限においては差止めを命ぜられた部分以外については、300万円以下)の両罰規定が設けられている。
なお、確定前(確定後でも過料に処すことは可能)は50万円以下の過料に処せられる。
[編集] 課徴金納付命令
不当な取引制限(価格にかかるものや価格に影響を与える行為に限る)と支配型私的独占に対し課徴金納付命令の制度が設けられている。
課徴金の額は原則売上額の10%(小売業3%,卸売業2%)とされている。
中小企業については4%(小売業1.2%,卸売業1%)である。
なお、継続期間が2年以内(他に要件あり)の行為については、20%減額、10年以内に違反行為をしている者には50%増額の規定が設けられている。
[編集] 課徴金減免制度
公正取引委員会に対して、規則に基づき不公正な取引制限に関して、調査開始日以前において単独で違反行為を申告した事業者について(他に要件あり)は、課徴金が1番目については全額免除、2番目については半額免除、3番目については30%免除となり、調査開始日(それ以降も含む)に申告した者でまだ三番目まで枠が埋まっていないときは30%減額となる。なお、調査開始日以後は違反行為を止めていることが条件である。
ちなみに,申告のFAX番号は03-3581-5599である。
[編集] 刑事罰
公正取引委員会の告発がないと、主要な違反類型については処罰できない(96条)。
主要な違反類型として次のものがある。
不当な取引制限や私的独占をした者に対しては3年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処せられ、法人等に対しては5億円以下の罰金の両罰規定等が存在する(未遂罪も罰する)。
確定した排除措置命令(独占的状態に対する確定した審決も含み、私的独占、不当な取引制限に対するものについては差止めを命ずる部分に限る)に違反した者に対しては2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられ、法人等に対しては3億円以下の罰金の両罰規定等が規定されている。
なお、これらに罰則においては懲役と罰金を併科することができる。
さらに、事業者団体の解散宣告や特許権の取消等の宣告をすることができる場合が存在する。
[編集] 民事訴訟(差止め・損害賠償)
不公正な取引方法によってその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより「著しい損害」を生じ、又は生じるおそれがあるときに限り、その利益を侵害する事業者等に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる(24条)。
私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法により排除措置命令(又は課徴金納付命令)がされた事業者は、被害者に対し無過失責任を負う(時効は命令等が確定後3年)(25条)。なお、この条に基づく損害賠償請求訴訟は東京高裁の専属管轄である。
また、独禁法25条によることなく、独禁法違反の行為が民法709条の不法行為に該当するときは、被害者は民法709条に基づいて損害賠償請求もできる。この場合は、被害者は故意過失をも立証しなければならない。
[編集] 申告制度(45条)
何人も,公正取引委員会に対し、この法律に違反している事実があると思料するときは、その事実を報告し適当な措置を求めることができ(1項)、公正取引委員会規則が定めるところにより、書面で具体的な事実を摘示したものであるときは、速やかにその結果を報告した者に対し通知しなければならない(3項)。
4項は職権調査についての規定である。
[編集] 行政調査(47条)
- 事件関係人等に出頭を命じて審尋し,又は報告聴取すること
- 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること
- 帳簿等を提出させ留め置くこと
- 事件関係人の営業所に立ち入ること
いずれも間接強制(罰則はあるが、直接強制はできない)。もっとも、1号の審尋はめったに使われず、大概任意の事情聴取という形が取られているようである(すなわち拒否する自由があるということである)。
[編集] 審判手続
独占的状態に対する措置に関するものを除いて、審判請求があってから開始する。
原則として、委員会が指定する審判官による公開の審判手続きを経て、委員会による審決が出される。
審決取消訴訟は東京高裁の専属管轄で、事実認定に関して実質的な証拠がある場合は裁判所も拘束される。
立法論としては審判制度を廃止して、最初から裁判所で争えるようにすべきだとの意見もある。
[編集] 犯則調査
国税の犯則調査と類似の制度がこのほど設けられた。
犯則調査の際は黙秘権が存在する(もっとも黙秘権告知義務無し)
[編集] 法定外のエンフォースメント
企業統合の際の事前相談制度等がある。
[編集] 警告・注意
公正取引委員会は、必ずしも法的な措置(排除措置命令等)によらずに警告や注意を出すことがある。
当局の説明では、警告とは法定の命令をするに足る証拠が得られないが違反のおそれがある場合に行うとされ、全て公表されることになっている。
注意は、違反行為の存在を疑うに足りる証拠が得られないが違反につながるおそれがある場合に行うとされている。
警告や注意そのものについては、これを不服として裁判所で争うことができないが、国家賠償責任が発生する場合はあり得る。