狐火
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
狐火（きつねび）は、沖縄県以外の日本全域に伝わる怪火。ヒトボス、火点し（ひともし）[1]、燐火（りんか）[2][3]とも呼ばれる。
目次 |
[編集] 概要
人々の寝静まった夜中、提灯のような火が点滅しつつ[4]、十個から数百個も行列をなして現れる。行列の長さは一里（約4キロメートル）にも渡り、その数も次第に増えたかと思えば突然消え、また数が増えたりもする。火の色は赤またはオレンジ色が一般的だが、青い火の目撃例もある[5]。
その名の通り狐と密接な関係があるとされ、狐の吐息が光っているという説が多いが、他にも狐が尾で火を起こしているとも、狐の持つ狐火玉と呼ばれる玉が光っているとも言われている。寛政時代の雑書『諸国里人談』では、元禄の初め頃、漁師が網で狐火を捕らえたところ、網には狐火玉がかかっており、昼には光らず夜には明く光るので照明として重宝したとある[6]。
現れる場所は道のない山腹など、人の気配のない場所であり、人の気配を感じると姿を消してしまうとされる[1]。逆に人をどこまでも追いかけてきたという伝承もある[7]。狐が人を化かすと言われているように、狐火が道のない場所を照らすことで人の歩く方向を惑わせるとも言われており[8]、そのようなときは足で狐火を蹴り上げると退散させることができるとされる[9]。
逆に長野では、ある主従が城を建てる場所を探していたところ、白い狐が狐火を灯して夜道を案内してくれ、城にふさわしい場所まで辿り着くことができたという話もある[10]。
正岡子規が俳句で冬と狐火を詠っている通り、出没時期は一般に冬とされているが、夏の暑い時期や秋に出没した例も伝えられている[11]。
鬼火の別称とする説もあるが[3]、一般には鬼火とは別のものとして扱われている。
[編集] 王子稲荷の狐火
東京の北区王子の王子稲荷は、稲荷神の頭領として知られると同時に狐火の名所とされる。浮世絵師・歌川広重による『名所江戸百景』では、狐が口から炎を吐いて多くの狐火を灯している光景が描かれている。
かつて北区一面が田であった頃、大晦日に関東の狐たちが官位を得るため、提灯を灯しながら王子稲荷へ集まり、壮観なまでの狐火が見られたという。
周辺に住む者は、この狐火の量の大小によって農作の吉凶を占ったと伝えられている。
[編集] 狐松明
山形県の出羽や秋田県では狐火を狐松明（きつねたいまつ）と呼ぶ。その名の通り、狐の嫁入りのために灯されている松明と言われており、良いことの起きる前兆とされている。
[編集] 脚注・出典
- ^ a b とやま民俗 通巻10号 礪波地方怪怪譚（一） （怪異・妖怪伝承データベース内） 2008年2月10日閲覧
- ^ 伝承文学研究 通巻52号 歌、遊び、秘伝 （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ a b Yahoo!辞書
- ^ 民族 4巻3号 爐辺見聞 （怪異・妖怪伝承データベース内） 2008年2月10日閲覧
- ^ あしなか 通巻49号 伯耆大山を眺めつつ歩く （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ 日本随筆大成第2期 24巻 諸国里人談 （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ 常民 27号 石川県鳳至郡門前町 調査報告書 （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ 伝承文学研究 通巻52号 狐火 （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ 伊那 51巻1号通巻896号 火の玉と狐火 （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ 伊那 32巻1号/通巻668号 飯田の伝説 飯田の烏 （同上） 2008年2月10日閲覧
- ^ 日本民俗 2巻12号 狐火 （同上） 2008年2月10日閲覧
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 草野巧 『幻想動物事典』 新紀元社、1997年。ISBN 4-883-17283-X。
- 多田克己 『幻想世界の住人たち IV 日本編』 新紀元社、1990年。ISBN 4-915-14644-8。
- 水木しげる 『妖鬼化 1 関東・北海道・沖縄編』 Softgarage、2004年。ISBN 4-861-33004-1。
- 村上健司 『妖怪事典』 毎日新聞社、2000年。ISBN 4-620-31428-5。
