燃料気化爆弾
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燃料気化爆弾(ねんりょうきかばくだん、Fuel-Air Explosive, FAE または FAX)とは、爆弾の一種である。なお日本では「燃料」が抜けて、単に気化爆弾とも呼ばれる。また、貧者の核兵器という呼称も持つ。
燃料気化爆弾というのは主に日本で定着している俗称であり、軍事上の正式名称はサーモバリック爆弾(Thermobaric)である。サーモバリックとはギリシャ語の熱を意味するthermosと圧力を意味するbaroを組み合わせた造語である。
最新式では燃料ではなくサーモバリック爆薬と呼ばれる専用爆薬を用いるようになってきているので、燃料気化爆弾という名称で呼ぶこと自体が不適切になってきている。
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[編集] 概要
燃料気化爆弾は、火薬ではなく酸化エチレン、酸化プロピレン、ジメチルヒドラジン等の燃料を一次爆薬で加圧沸騰させ、BLEVEという現象を起こさせることで空中に散布する。燃料の散布はポンプなどによるものではなく、燃料自身の急激な相変化によって行われるため、秒速2000メートルもの速度で拡散する。このため、数百キロの燃料であっても放出に要する時間は100ミリ秒に満たないと言われている。爆弾が時速数百キロで自由落下しながらでも瞬間的に広範囲に燃料を散布できるのはこのためである。燃料の散布が完了して燃料の蒸気雲が形成されると着火して自由空間蒸気雲爆発をおこさせることで爆弾としての破壊力を発揮する。
都市ガスによるガス爆発事故のように、爆鳴気の爆発は空間爆発であって強大な衝撃波を発生させ、12気圧に達する圧力と2,500-3,000°Cの高温を発生させる。加害半径は爆弾のサイズによって様々であるが、一般的には 数百m と推定されている。 広範囲に衝撃波を発生させるため、特に人体に多大な影響を与える事で知られる。
BLEVEという爆発現象による事故から、これを兵器に応用した物と思われる。近年では燃料ではなくサーモバリック爆薬と呼ばれる専用の爆薬を使用するようになってきている。
音速で飛行する航空機や、一定高度にあるヘリコプターから投下するタイプが湾岸戦争などで使用され有名になった。最近ではロケットランチャーや携帯ロケット弾からグレネードランチャーまで幅広く装備が進んでいる。
燃料気化爆弾の破壊力の秘訣は爆速でも猛度でも高熱でもなく、爆轟圧力の正圧保持時間の長さにある。つまり、TNTなどの固体爆薬だと一瞬でしかない爆風が「長い間」「連続して」「全方位から」襲ってくるところにあると言って良い。燃料気化爆弾の犠牲者は通常の爆弾による犠牲者とは異なった死体や負傷者となる。これは、燃料気化爆弾が金属破片を撒き散らさないで爆風だけで被害を与えるためである。
[編集] 起爆プロセス
- 航空機などから投下され一定の高度に達すると信管が作動する。
- 信管が作動するとRDXなどの一次爆薬が起爆して酸化エチレンを加圧沸騰させる。沸騰した酸化エチレンは耐圧容器に密閉されているため高温になっても気化することが出来ず、高温高圧の液体の状態でいる。
- 圧力が限界点に達した瞬間に放出弁が開くと酸化エチレンが急激な圧力低下によって気体へと変化して秒速2000メートルもの高速で噴出する。このような現象をBLEVEと呼ぶ。
- 酸化エチレンが空気中に放出されて蒸気雲が形成されると、これに着火して自由空間蒸気雲爆発を起こさせる。
この間、わずか0.3秒前後である。
[編集] TNTとの比較
TNTなどの固体相の爆発と燃料気化爆弾などの気体相の爆発は爆轟理論そのものが異なるため、一概に比較することが出来ない。単位時間当たりのエネルギー発生速度という点では固体爆薬が高いが、重量当たりの発生熱量という点では燃料気化爆弾のほうが高くなる。固体相では爆轟の伝播は衝撃波による断熱圧縮によって伝播するが、気体相の爆発は爆燃によって伝播する。そのため、伝播速度そのものは固体相の方が速く、界面点に近い場所での爆轟圧力は固体相の方が強くなるが正圧保持時間は気体相の方が長くなる。これは物理的な特性が異なる問題なので兵器としての威力を比較するのであれば、最終的な対象物である敵兵への影響という観点で比較するしかない。
[編集] 敵兵の殺傷力という観点からの比較
- 従来の爆弾の殺傷原理
- 従来の爆弾では「爆弾外殻の断片を高速で衝突させ人体を損傷させる」という原理に頼って殺傷半径を得ている。そのため、金属片を高速で飛翔させることで人間を殺傷するという点では機関銃などとまったく同じである。
- 以下のリンク参照:爆弾の殺傷半径解説資料(従来爆弾は外形以外変わっていないので現在でも有効。)
- 燃料気化爆弾の殺傷原理
- 燃料気化爆弾は金属片などではなく爆風衝撃波そのものによって人体を損傷させる。
- 爆風による人体への被害については爆風を参照
- 爆風は距離の三乗に比例して弱くなるが気体相の爆発はこの距離の基点が爆轟する気体相の界面点になるため、燃料を半径10メートルの気体相になるように撒けば、半径10メートルの爆弾が爆発したのと同様の状態となる。つまり、燃料気化爆弾とは密度が低い低威力の超巨大な爆薬の塊が投下されたのと同じ効果を持つわけである。
[編集] 機能・性質とその扱い
破片による被害は少ないが、急激な気圧の変化による内臓破裂などを起こさせる。
よく、燃焼により酸素を消費しつくして窒息死させると表現されているが、これは正確な表現ではない。人体は1Kgf/cm²程度の爆風でも急性無気肺や肺充血を起こす。さらに、一酸化炭素を大量に含んだ酸素バランスが悪いガスが襲い掛かってくるため、酸欠と一酸化炭素中毒と呼吸困難を同時におこすことになり、窒息死したような死体が出来上がるためである。
また、気密構造でない粗末な壕や一般建築物に避難/隠匿された兵士やミサイル車両(たとえばスカッドや核ノドン)の破壊には有効だが木造建築物さえ倒壊半径は殺傷半径の1/3であり、気密構造の建築物ごと倒壊させて殺傷する場合、有効半径は1/6-1/3、5-12mになり、実行困難な程多くの航空機や爆弾が必要になってしまう。つまり所在の掴めない隠匿されたミサイルや火砲を絨毯爆撃で破壊する場合、FAEは従来爆弾に比べ効果の確実性がより高いとはいえ依然完璧ではない。崖に簡易な横穴を掘って隠匿したミサイル車両の破壊は従来爆弾では難しく、FAEではある程度可能だが、気密扉が付いた堅固な横穴ならFAEでも中に隠匿されたミサイル車両の破壊は困難である。
また、燃料に使われている酸化エチレンや酸化プロピレンは、どちらも殺菌や殺虫などに用いられる薬品で、日本では労働基準法施行規則別表第一の中で有害性が中度な有害物に指定されている。つまり燃え残った燃料が大地に広がっただけでも危険という事である。一方で同兵器を開発・保有している米国では、積極的に運用したがる傾向も見られる。特に広範囲に敷設された対人地雷の処理には、この兵器による対象地域の一掃が「最も効率がよい」と考えられているようだ。
なお1990年代初頭の湾岸戦争において、広範囲の砂漠に分散して砂中に隠されたイラク軍戦車部隊や随伴歩兵らの兵力を削ぐべく同兵器が使用されたが、これにより多数のイラク兵が同兵器作動時に発生する巨大な火球によって塹壕や戦車の中で蒸し焼きになって焼き殺されたり、衝撃波で(目立った外傷も無く)圧死した。この状況は、反戦活動家の格好の攻撃材料となった。
しかし、従来爆弾の殺傷形態も爆弾の破片の高速の飛翔によって人体が破壊されることによるものであるし、共産圏はむしろFAEに熱心なので(中国軍は歩兵にバズーカのようなFAE発射筒を配備しつつある)「米国は残虐なFAEを使っている」という非難の妥当性には疑問が残るという指摘もある。ただし、FAEが位置のわからない相手を面制圧する兵器であり、「従来爆弾や過去の焼夷弾同様」に精密誘導兵器よりは付随被害が発生しやすい性格なのは事実である。しかし現代の技術では隠匿・擬装された車両/歩兵の上空からの発見は、擬装を解き移動したり発砲するまでは極端に困難であり、また広範囲に散開した敵歩兵一人一人を精密に殺傷するのは不可能なので、面制圧兵器は当面なくなりそうもない。
[編集] 燃料気化爆弾に関する誤解
一部マスコミでデイジーカッターを燃料気化爆弾と報道している場合があるが、別物である。利用するのが爆散する破片ではなく強力な爆風であるという点はデイジーカッターも同じだが、デイジーカッターは単なる巨大な爆弾であって、気化爆弾ではない。
また、燃料気化爆弾は周囲を酸欠にしてその場にいる人間を窒息死させると言われることがあるが、 厳密には上記されているように急性無気肺と一酸化炭素中毒と酸素分圧の低下による合併症による窒息死である。
実用化されたのは少なくとも1980年代以降であり、ベトナム戦争で使用されたことはない。デイジーカッターとの混同と思われる。
[編集] 主な兵器
- BLU-73 FAE I
- BLU-95 500-lb (FAE-II)
- BLU-96 2,000-lb (FAE-II)
- CBU-55 FAE I
- CBU-72 FAE I
- XM1060 40mmグレネード サーモバリック弾
[編集] 関連項目
- アメリカのアフガニスタン侵攻
- 第二次チェチェン紛争
- 高速爆発抑制剤散布装置
- 近年では燃料気化爆弾を無力化するためのアクティブ防御兵器も研究されている。
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