小田原担ぎ
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小田原担ぎ(おだわらかつぎ)は、小田原独特の神輿を担ぐ際の様式の一つである。一般的に小田原流と呼ばれる。
神輿の担ぎ方にも地方や祭礼によって担ぎ方が多数あり、小田原担ぎは普通の状態で練り歩くとき、掛け声は「オイサー」「オリャサー」(若しくはこれに近い発音)で、足並みは通常の歩行と同じである。
他の地区であまり見られないのは、民家や商店、地区の祭礼事務所、神社などに木遣りと共に神輿を担いだまま跳ぶところである。※神輿を担いだまま走ることを跳ぶ(または突っ駆ける)と言いう。
例:
- 木遣者 「ソーオリャ~、エーエエーーっ」
- 担ぎ衆 「オウっ」
- 木遣者 「めでた~、めでた~のぉよ~オオーエ~」
- 担ぎ衆 「ソリャやっとこせーの~っ」
- 木遣者 「ソーオリャ、めでたくー納め~てよぉ、ヨーイトナー」
と、ここで駆け足で 「オイサー」「オリャサー」突っかける一連の形をとる。
木遣り唄は小田原では本来、漁船の上で網を引く時に唄われるもので、現代の様に機械で網を巻き上げる訳ではなかった昔は、船が網の周りを何台も囲んで、一斉に定置網を人の手で引き上げます。この時、全員が同じ様に網を引き上げないと網が傾き魚が逃げてしまいますから、引き手は掛け声を必要としました。 しかし、引き手も疲れてきますので少し休みたいわけですが、休むタイミングも全員一緒でなければなりません。そこで木遣り唄が唄われます。木遣りが始まると何人たりとも網を引いてはならず、木遣り唄が終わると全員一斉に再び網引きが続けられます。徐々に網が上がり魚が躍っている状況が見えてくると網もかなり重く、引き手が疲れてくるので木遣りが次から次へとどんどんかけられて行きます。 つまり、昔の漁師にとって小田原の木遣り唄は命の唄であって、決して祭典の為の唄ではなく、極めてまじめで神聖なものでした。また、この様な時代では漁師は海に落ちて亡くなる人も多く、木遣り唄には神を祭る唄も多く残っており、当時漁師は命がけの仕事であった事がわかります。木遣り唄の中には色唄も多く残る事から、漁の仕事が男の仕事であった事も裏付けています。
時が変わり現代、小田原にはこの松原神社祭礼に残る当時の漁師の想いが今もなお生き続け、例大祭の神輿運行に唄われています。 神輿運行中に木遣り唄が唄われ始めたら、担ぎ手は一切掛け声をやめ神輿を停止させなければなりません。小田原では上記理由から木遣り唄は大変重んじられています。不慣れな木遣り師が唄の途中で歌詞を忘れたり、また別の町会の神輿が木遣り中の神輿の前を通過してしまったり等、毎年口論や喧嘩の原因を作る発端となっています。
目次 |
[編集] 木遣りの一例
節回し省略、歌詞のみ記載
- <数え唄>
- 一で大山や、 石尊様だぞ
- 二で日光のよ、 東照宮様だぞ
- 三で讃岐のよ、 金毘羅様だぞ
- 四つ信濃のよ、 善光寺様だぞ
- 五つ出雲のよ、 色神様だぞ
- 六で六角堂のよ、 六地蔵様だぞ
- 七つ成田のよ、 御不動様だぞ
- 八つ八幡のよ、 八幡様だぞ
- 九つ高野のよ、 弘法様だぞ
- 十で当地のよ、 氏神様だぞ
- <チャリ(俗唄)>
- 私や小田原のよ、 荒波育ちだ
- 粋でいなせのよ、 若い衆頼むぞ
- 前は相模灘よ、 後ろは箱根だ
- 千両万両のよ、 宝の船だぞ
- 荒磯荒波よ、 しぶきの花咲く
- 木遣り師にぶてもよ、掛け声頼むぞ
- 富士の白雪やよ、 朝日で解けるぞ
- 茶碗と娘はよ、 一度は割れるぞ
- 娘と島田はよ、 情けでとけるぞ
- 三十三間堂のよ、 柳のりゅうさんだ
[編集] 起源
松原神社例大祭は、漁師の祭であり、海や漁師にちなんだ風習も多くある。中でも小田原流の担ぎ方で神輿が走るのは波が押し寄せる様を表しており、波に乗って神様が現れるという意味である。
[編集] 関連動作
[編集] 野声
駅前や宮入前の見せ場では他の地区の神輿同士が二基、三基と合体することもあり、野声と呼ばれる「オーリャ」「オーーリャ」という掛け声で走り出す場面も見られる。
[編集] 龍宮回り
跳んだ後に右方向に3回神輿を回すことがあり、俗に龍宮回りと言われている。
小田原流の神輿が左方向への回転を基本的に行わない理由は、漁船は昔から取り舵(左回り)を行わない事が決められていた事に由来しています。つまり右回転は面舵を意味しています。
[編集] 小田原担ぎでの注意事項
(以下は松原神社、山王神社氏子内の神輿の場合。) ※下府中連合、大稲荷・居神神社は担ぎ方、適用範囲が異なる。
- 基本的に御霊が入っているときは、意図的に揺らしてはならない。
- 神輿を回頭するときは面舵(右に回す)。取舵(左に回し)してはならない。
- 他の神輿が木遣り、(どっこいの場合は甚句)を始めたら掛け声をやめる。(オイサオリャサは言わない)
[編集] 共通注意事項
- 無断で他の神輿に触らない。(緊急時、合体時は除く)
- 本社神輿とすれ違うときは被り物(頭に巻いた手ぬぐいなど)をとる。
- 高い所からあからさまに見下ろさない。(少なくとも担ぎ手から分からないように)