夏の医者
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夏の医者(なつのいしゃ)は、古典落語の演目の一つ。原話は、明和2年(1765年)に出版された笑話本・「軽口独狂言」の一遍である『蛇(うわばみ)の毒あたり』。
主な演者として、6代目三遊亭圓生や2代目桂枝雀、三遊亭鳳楽などがいる。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
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[編集] あらすじ
暑い夏…。鹿島村の勘太もダウンしたのか、ご飯を茶碗に七、八杯しか食べることが出来ない。
「もう歳だから」と息子が心配していると、見舞いに来たおじさんが「隣の一本松村の玄伯先生に往診してもらえば」と言う。
それを聞いた息子はおじさんに留守を頼み、ばっちょう笠に襦袢一枚、山すそを回って六里の道を呼びに行った。
汗だくになって訪ねてみると、玄白先生は畑で草取りの真っ最中。
早速頼み込み、息子が薬籠を背負って二人で村を出発した。
「山越えのほうが近道だべ」
先生がそう言うので、二人で山の中をテクテク。山頂に着いたときには二人とも汗びっしょりになっていた。
そこでしばらく休憩し、さぁでかけよう…とした所で、何故かあたりが真っ暗になった。
周囲は何故か温かい、はておかしいと考えて…。
「こりゃいかねえ。この山には、年古く住むウワバミがいるてえことは聞いちゃいたが、こりゃ、飲まれたかな?」
「どうするだ、先生」
「どうするだっちって、こうしていると、じわじわ溶けていくべえ」
うっかり脇差を忘れてしまい、腹を裂いて出ることもできない。
如何しようかと考えている先生の頭に、あるひらめきが舞い降りた。
息子に預けた薬籠を渡してもらい、中から大黄の粉末を取り出すと、ウワバミの腹の中へパラパラ…。
『初体験』の大黄に、ウワバミは七転八倒…ドターンバターン!
「薬が効いてきたな。向こうに灯が見えるべえ、あれが尻の穴だ」
ようやく二人は下されて、草の中に放り出された。
転がるように山を下り、先生、さっそく診察すると、ただの食あたりとわかった。
「なんぞ、えかく食ったじゃねえけ?」
「あ、そうだ。チシャの胡麻よごし食いました。とっつぁま、えかく好物だで」
「それはいかねえ。夏のチシャは腹へ障ることあるだで」
薬を調合しようとすると、 薬籠はうわばみの腹の中に忘れてきてない。
困った先生、もう一度のまれて取ってこようと、再び山の上へ登っていく。
一方…こちらは山頂のウワバミさん。下剤のせいですっかりグロッキーになってしまい、松の大木に首をダランと掛けてあえいでいた。
「あんたにのまれた医者だがな、腹ん中へ忘れ物をしたで、もういっぺん飲んでもれえてえがな」
ウワバミは首を横に振っていやいや。
「もういやだ。夏の医者は腹へ障(さわ)る」
[編集] 「チシャ」って?
漢字で書くと『萵苣』。
この噺で登場するのはおそらく「葉萵苣」で、西洋ではレタス、日本では小松菜が同族の品種だ。
[編集] 「大黄」
タデ科ダイオウ族の総称。漢方薬の一種でもあり、江戸時代には下剤として多用されていた。
詳しくはこちらを参照。
[編集] 落語の中の医者
落語に出てくる医者といえば、何故か藪医者だったり、医術よりも話術が得意な『幇間医者』といった変なものばかりが出てくる。
まぁ、落語が「こき下ろす」芸術であるため仕方がないのだが…。