債権者の交替による更改
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債権者の交替による更改(さいけんしゃのこうたいによるこうかい)とは、債権者が交替することが債務の要素の変更となり、債権者変更の前後で債務が同一性を失って旧債務が消滅し新たな債務が発生する現象又は右の効果を発生させる契約を指す。
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[編集] 概要
例えばAという富豪が、高名な陶芸家Bに陶芸の技法を教えてもらう契約を結んだとする。この場合、AはBに対して自分に陶芸の技法を教えるように請求できる債権を有しているわけだが、(Bから見ればBはAに対して陶芸を教える債務を負っていることになる)Aが体調を崩して入院したので代わりにAの妻Cに陶芸の技法を教えてもらおうと思い、ACBの三者が合意をしてBがCに陶芸を教えることになったとすると、事後、CがBに対して陶芸を教えてくれるように請求できる債権を有することになる。(Bから見た場合には、この合意によってBはCに対して陶芸を教える債務を負担することになる。)
これは債権者の変更による更改である。
陶芸を教えるという債務の場合、誰に教えるかということ(つまり債権者が誰であるかということ)は債務の要素の変更に他ならない。なぜならモノを教えるという債務は誰に対して教えるかによって、どのように教えるか、何を教えるかなど、給付内容が大きく異なるからである。したがって、同じ陶芸を教えるという債務であっても、Aに教えるという債務とCに教えるという債務は全く別の債務となり、Aに対して教える債務をCに教えると変更した場合、両債務の間に同一性はないことになる。
これと似たものに債権譲渡がある。債権譲渡も債権者が変更するという意味では同一であるが、債権者の変更によって債務の要素に変更は生じないため、更改ではない。例えばXがYに対して有する100万円の貸金債権をZに譲渡したとき、確かに債権者はXからZに変更するが、Yの負担する債務は100万円の金銭を給付するという点で全く異ならず、譲渡の前後で債務の要素に変更は生じない。この点が単なる債権譲渡と債権者の変更による更改の最大の差異である。
[編集] 更改の効果
- 旧債務は消滅し、新たな債権者に対する新しい債務が生じる。
- 当事者間で別段の合意がない限り、旧債務に付着していた担保権や抗弁権も消滅する。
[編集] 担保の移転
[編集] 債権譲渡との違い
- 債権譲渡は、譲渡人と譲受人の合意で行うことができる(第466条1項)が、債権者の変更による更改は、債務の要素を変更するものであるから、旧債権者(譲渡人に対応)と新債権者(譲受人に対応)の合意だけでは足りず、債務者も合意することが必要である。
- 債権譲渡では債権は同一性を保ったまま譲受人に移転するため、債権の担保も共に譲受人に移転するが、債権者の変更による更改は更改の前後で債権(債務)は同一性を失う(第513条)から、旧債権の担保はそのままでは附従性によって消滅し、当然には新債権者には移転しない。但し普通抵当権、質権については旧債権の範囲内で新債権の担保として流用することが許される。(第518条)