マッターホルン・ゴッタルド鉄道Ge4/4形電気機関車
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マッターホルン・ゴッタルド鉄道Ge4/4形電気機関車(まったーほるんごったるどてつどうGe4/4がたでんききかんしゃ)[1]は、スイス南部の私鉄であるマッターホルン・ゴッタルド鉄道(Matterhorn-Gotthard-Bahn (MGB))の山岳鉄道用電気機関車である。
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[編集] 概要
ブリーク・フィスプ・ツェルマット鉄道BVZ(Brig-Visp-Zermatt-Bahn)と合併してMGBとなる以前のフルカ・オーバーアルプ鉄道(Furka-Oberalp-Bahn(FO))がフルカベーストンネルの列車フェリーの牽引機として1979年に2両を製造した電気機関車で、レーテッシュ鉄道のGe4/4 II形電気機関車をベースに、車体、機械部分、台車の製造をSLM[2]、電機部分、主電動機の製造をBBC[3]が担当した。サイリスタ位相制御により1時間定格出力1700kW、牽引力113.8kNを発揮する汎用機で、18パーミルで350tを80km/hで牽引可能な性能を持つ。それぞれの機番と製造年、機体名(沿線のカントンの名称)は下記のとおりである。
[編集] 仕様
[編集] 車体
- 車体はDeh4/4 II形荷物電車と類似の角ばったデザインで、正面は2面折妻の2枚窓に、窓下部に大型の丸型前照灯を2箇所と上部中央に小型の丸型前照灯を1箇所を設置したデザイン、側面はコルゲーション板を使用している。
- 屋根上はパンタグラフ部分の屋根肩部には空気取入口のルーバーが並び、中央部には発電ブレーキ用の主抵抗器が設置されている。なお、屋根は取外しが可能な構造となっている。
- 運転室はスイスやドイツで一般的な円形のハンドル式のマスターコントローラーが設置されている。運転室横の窓は引違い式下降式、運転室乗降扉は右側のみの設置で、そちら側の運転室窓には電動式のバックミラーが設置されている。
- 連結器は先頭側がねじ式連結器で緩衝器(バッファ)が中央、フック・リングがその左右にあるタイプ、列車側は+GF+式連結器[4]自動連結器となっている。また、車体の前面下部に大型のスノープラウが設置されている。
- 塗装
- 車体塗装は赤をベースに前後端部の車体裾部がダークグレーで、グレーと赤との境界部分および車体側面下部中央部分に白帯であったが、後に車体下部側面中央部分もダークグレーとなり、白帯が若干上へ移った。また、側面中央には、FO塗装ではコルゲーションに合わせてFOのロゴと運転室窓下にFurca-Oberalpのレタリングが入り、MGB塗装ではMGBのロゴとシンボルマークと反運転台側の運転室窓下に機番が入る。正面中央には機体名のエンブレムが設置され、MGB塗装では正面にも白のストライプが入る。また、屋根および屋根上機器が銀色、床下機器と台車はダークグレーである。
[編集] 走行機器
- 制御方式はサイリスタ位相制御で、1台の制御装置で台車ごとの2台の主電動機を制御する方式としており、主変圧器を車体中央に、その前後に制御装置を1台ずつ設置している。なお、いずれも冷却方式は油冷式で冷却用のオイルポンプとオイルクーラーを装備しており、冷却風は屋根上肩部の吸気口から吸入する。
- ブレーキ装置は他励界磁をチョッパ制御することにより最大ブレーキ力75kNの発電ブレーキ力を発揮するほか、空気ブレーキ(機関車および列車フェリー用)、手ブレーキ、列車フェリー以外の列車用に真空ブレーキ装置を装備する。
- 主電動機は1時間定格出力425kW、連続定格出力380kWのBBC 製Typ 6FRO 4338直流複巻整流子電動機 を4台搭載し、1時間定格牽引力113.8kN、連続定格牽引力101.5kNの性能を発揮する。冷却はファンによる強制通風式で、冷却風は屋根肩部の吸気口から吸入する。
- 台車は軸距2600mm、車輪径1070mmの操舵台車とし、車軸が曲線に合わせて変位することで軌道への横圧を減らす方式としている。また、軸箱支持方式は円筒案内式、マクラバネは車体直結のコイルバネで、牽引力伝達は台車の枕梁からその下のボルスタを経由して引張棒で車体に伝達される方式である。主電動機は吊掛式に車軸と一体となっており、主電動機本体側はリンク機構で、ノーズ側はスライドベアリングで台車枠と連結され、車軸が軸中心をセンターにして変位するBBCのスライドベアリング式に装荷されている。なお、減速比は1:5.118である。
- そのほか、パンタグラフはシングルアーム式を2台搭載するほか、補機は主変圧器の交流235V駆動の主電動機等用送風機2台、オイルクーラー及びブレーキ用抵抗器用送風機1台、主変圧器用1台と位相制御器用2台のオイルポンプのほか、電動空気圧縮機、電動真空ポンプ、蓄電池などとなっている。
[編集] 主要諸元
- 軌間:1000mm
- 電気方式:AC11kV 16.7Hz 架空線式
- 最大寸法:全長12900mm、全幅2684mm、全高3870mm(パンタグラフ折畳時)
- 軸距:2600mm
- 台車中心間距離:6200mm
- 自重:50.0t(機械部品24t、電気部品26t)
- 走行装置
- 牽引力
- 牽引力:101.5kN(連続定格出力、於53km/h)、113.8kN(定格出力、於52km/h)、178.5kN(最大出力)
- 牽引トン数:350t(18パーミル、トンネル内)、150t(45パーミル)、230t(35パーミル、52km/h)
- ブレーキ力:75kN(最大)、1000kW(連続定格)
- 最高速度:90km/h
- ブレーキ装置:発電ブレーキ、空気ブレーキ(機関車用および列車フェリー用)、手ブレーキ、真空ブレーキ(列車フェリー以外の列車用)
[編集] 運行
- マッターホルン・ゴッタルド鉄道のフルカベーストンネルの両端のレアルプとオバーワルド間の列車フェリーの牽引に使用されている。
- 同区間は全長17.7kmでそのうち15.4kmがフルカベーストンネルである。トンネル内は最急勾配17.5パーミル、トンネル外に短距離ながら29.2パーミルの勾配があり、高度差は172mである。
- 列車フェリーは1980年と1985年に製造されたBDt 4361-4263形制御客車と1980年と1984年に製造されたSKl-v 4801-4807形ランプ車およびSKl-tv4811-4827形車運車で構成され、機関車+ランプ車2両+車運車最大8両程度+ランプ車1~2両+制御客車の編成で最高速度90km/hでプッシュプル運転される[7]。
- 本機は1980年には当時機関車不足であったレーテッシュ鉄道に貸し出され、FO塗装のまま使用されたことがある。
[編集] 同形機
- ベースとなったレーテッシュ鉄道Ge4/4 II形電気機関車とは外観や台車は異なるが、性能的には同一である。
[編集] 参考文献
- Ž. Filipovič 『The Bo'Bo' Thyristor Lokomotives Class Ge 4/4 III of Furka-Oberalp Railway』 「Brown Boveri Review (12-79)」
- Woifgang Finke, Hans Schweers 「Die Fahrzeuge der Furka-Oberalp-Bahn」 (SCHWEERS + WALL) ISBN 3-89494-111-1
[編集] 関連項目
- スイスの鉄道
- 新フルカトンネル
- フルカ・オーバーアルプ鉄道HGe2/2形電気機関車
- マッターホルン・ゴッタルド鉄道Deh4/4 II形電車
- マッターホルン・ゴッタルド鉄道HGe4/4 II形/ツェントラル鉄道HGe101形電気機関車
- レーテッシュ鉄道Ge4/4 II形電気機関車
- レーテッシュ鉄道Ge4/4 III形電気機関車
- 氷河急行
[編集] 脚注
- ^ RhBのGe4/4 IIの後継としてGe4/4 III形とも呼ばれるが、RhBにもGe4/4 III形電気機関車が存在する
- ^ Schweizerische Lokomotiv- und Maschinenfablik Winterthur
- ^ Brown, Boveri & Cie
- ^ Georg Fisher/Sechéron
- ^ このほか、回転数1390rpm、電圧685V、電流585A、界磁電流147A、トルク2610Nm
- ^ このほか、回転数1360rpm、電圧685V、電流654A、界磁電流147A、トルク2990Nm
- ^ 後のレーテッシュ鉄道のフェライナトンネルでのレーテッシュ鉄道Ge4/4 III形電気機関車による列車フェリーでは大形車の輸送も可能であるが、フルカベーストンネルでは断面の関係で大形車の輸送はできない