マイクロチップの魔術師
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『マイクロチップの魔術師』(-のまじゅつし)はヴァーナー・ヴィンジ(Vernor Vinge)のSF小説である(1981年)。原題はTrue Names。脳に密接に接続された架空のコンピュータネットワーク上での匿名の闘争を扱っており、その点からサイバーパンクの先駆けとして知られる。実際には大変ロマンティックな作品である。
目次 |
[編集] ストーリー
脳波によるコンピュータとのインターフェースが可能になり、強力なネットワークが形成された社会で、(時に不法に)ネットワークを利用し楽しむ人々がいた。彼等は真の名前を隠しており、「スリッパリー」はそんな一人であった。ある時、彼は政府関係者に真の名前をつきとめられる。政府関係者はスリッパリーを脅し、「郵便屋」と名乗る者の正体を暴き、その目論見を明らかにすることを要求する。巨大な計算機資源を駆使しての闘争の果てに、スリッパリーと協力者の女性が出会ったものは…
[編集] 影響
メタファーを駆使した全世界的な計算機ネットワーク=サイバースペース(小説中ではthe Other World「別世界」)。それは現実社会ともリンクし、例えば衛星軌道上のレーザー兵器を操作して特定の個人を抹殺することもできる。そのサイバースペース上で繰り広げられる匿名のハッカー達の活躍/暗躍。匿名ネットワークの自由と脅威、それに対する国家機関の干渉、計算機科学の究極の可能性。この小説は上記のような題材を扱い、SF界を越えた影響をもたらした。単行本にはなんとマービン・ミンスキーの長大な解説がついている。
[編集] こぼれ話
True Names and the opening of the cyberspace frontierによると、ヴィンジがネットワーク上の匿名社会の可能性について気付き、この小説のプロットを思い付いたのは、当時教鞭を執っていたサンディエゴ州立大学のPDP-11(太古のミニコンピュータの名器。PDPシリーズ参照)上での匿名TALK(UNIXコマンドの一つ。チャットのようなもの)セッションが切っ掛けだった。匿名ユーザとしてログインしていたヴィンジと、他の匿名ユーザの間で互いに実名(the true name)を明かそうという駆け引きが行われ、お互い相手の探索には失敗したが、セッション終了後、ヴィンジは「これはSFそのものではないか」と思ったという。
原稿はヒースキット(Heathkit) LSI 11/03 上のTECOアプリケーションを用いて執筆されたが、計算機可読な初稿は8インチディスケット→5インチディスケット→ハードディスクとデータの引っ越しをしている間に失われてしまった。
[編集] 資料
- マイクロチップの魔術師(訳書) 新潮文庫 ISBN 4102279016 (版元品切)
- "True Names and the opening of the cyberspace frontier" ed. John Frenkel. 1999, ISBN 0-312-86207-5 小説そのもの+リチャード・ストールマンらのエッセイ。