バトラー
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バトラー(butler)はイギリスの上級使用人。執事とも訳される。数あるイギリスの家事使用人の中でも最上級の職種の一つであり、フットマン(従僕)を勤め上げた者がバトラーに昇格した。上流階級か、下層の上流家庭より裕福な中流最上層の家庭にのみ見られた。食器・酒類を管理し、主人の給仕をするという本来の職務に加え、主人の代わりに男性使用人全体を統括し、その雇用と解雇に関する責任と権限を持つ。多くの場合、ヴァレット(従者)を兼ね、主人の身の回りの世話をするとともに、私的な秘書として公私に渡り主人の補佐をした。
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[編集] 地位
屋敷内でのバトラーはハウス・ステュワード(家令)に次ぐ地位にあり、フットマン、グルーム・オヴ・ザ・チェインバーズ(客室係)などの下級の男性使用人全体を統括する立場にあった。地下室や台所で雑魚寝の下級使用人とは異なり、バトラーは通常、個室を持つことが許されており、大きな屋敷のバトラーであれば身の回りの世話に専属の使用人が割り当てられた。またフットマンが華美な仕着せをあてがわれていたのとは対照的に、バトラーは私服(unlivery)の使用人であり、主人と同様に「ジェントルマン」の服装をしていた。その際、故意に流行遅れのズボンを合わせたり、ネクタイの色を「外す」事で使用人としての立場を示していた。
[編集] 職務
本来の職務は主人への給仕とそれに関連した食器類、酒類の管理である。それらに加え、他の男性使用人の監督、灯りの準備、戸締まり、火の始末など全体的な管理業務も行う。専任のヴァレットが置かれない場合は主人の身の回りの世話も行う。
[編集] 給仕
食事の際、バトラーは主人への給仕を行った。しかし全ての料理がバトラーの手によって運ばれた訳ではなく、最初の料理を供した後は主人の左後ろに控え、他の使用人の運んできた料理の覆いを外したり、ワインを注いだりする以外はフットマンやパーラー・メイドなど下級使用人が行った。
[編集] 食器の管理
バトラーを置く様な裕福な家庭で使われる食器は概ね全て高価であり、取り扱いに特別な注意を要するものも少なくなかった。ナイフ、フォーク等の銀器は黒ずむ事の無い様に磨き上げられていなければならなかったし、食器類の洗い残し、破損などはあってはならなかった。その上、高価な食器類が不心得な者によって「紛失」される事のない様に厳重に保管する必要があった。
[編集] 酒類の管理
食器以外にも酒類を管理する必要があった。ビールの醸造、ワインの瓶詰めなどに関する技術と知識が必要とされ、食器室のみならずワインセラーもバトラーの管理下にあった。ワインの品質に関する知識もバトラーに不可欠だった。ヴィクトリア朝の特徴の一つである大量の食品添加物、不純物はワインにも混入されており、バトラーはそれらを除去する清澄方法に熟知している必要があった。バトラーは消費された量と補充した量を記録したが、しばしば酒蔵管理者としての立場を就業時間内外の個人的飲酒に悪用する事があった。
[編集] 監督
バトラーを置く屋敷であれば、最低でもコック、(少なくとも一人の)フットマン、数人のハウス・メイドやナース・メイドといった女性使用人を雇用していた。女性使用人は女主人かその代理であるハウス・キーパー(家政婦)が管理し、男性使用人はバトラーが統括した。複数のフットマンを雇用する屋敷であれば、仕事の大部分を彼らに割り振る事が出来たが、フットマンが一人しかいない場合はバトラーとフットマン、双方ともにハードワークとならざるを得なかった。
[編集] 現在
家事使用人を雇用するという慣行は下火となったが、現在でも絶えたわけではない。バトラーの存在も同様で、現在でも生き続けている。現在のバトラーは使用人の管理者というよりも、秘書と運転手と従者を兼ねた存在である。使用人そのものの減少により、現在ではフットマンから叩き上げてバトラーになる事はもはや殆ど無いが、特定の機関でバトラーとなる為の専門教育を受ける事ができる。
[編集] 関連事項
[編集] 参考文献
- P.ホーン 『ヴィクトリアン・サーヴァント』 子安雅博訳、英宝社、2005年
- Beeton, Isabella. Book of Household Management. Oxford : Oxford University Press, 2000
- May, Trevor. The Victorian Domestic Servant. Buckinghamshire : Shire Publications, 1998
- Huggett, Frank E. Life Below Stairs. London : Book Club Associates, 1977