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トラックボール - Wikipedia

トラックボール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ケンジントン製のトラックボールExpertMouse5。このように大きな直径と重量のある製品ほど使いやすいが、値段が張るのが難点である。
ケンジントン製のトラックボールExpertMouse5。
このように大きな直径と重量のある製品ほど使いやすいが、値段が張るのが難点である。

トラックボールTrackball)は、マウスなどと同様にコンピュータの操作に用いるポインティングデバイスの一種。

目次

[編集] 概要

上面についている球体(ボール)を手で回転させて、読み取らせた回転方向や速さに応じてカーソル(ポインタ)などを操作する。また、項目の決定・選択のためのボタンが2個以上配置されるのが通常で、トラックボールのボール単体で使用するパターンはアーケードゲームや一部の限定的な用途目的で作られたものくらいしかなく、稀である。

メーカーや商品によっては、例えばケンジントンのExpert Mouseやロジクール(Logitech)のMarble Mouseなど、トラックボールという名称を使用せず、マウスの名を冠している商品もある。

トラックボールの歴史[1]における最も古い記録は、1966年には既に米ニューヨークのOrbit Internationalが、米空軍にトラックボールを出荷していたという記録がある[2]

[編集] 特徴

トラックボールの操作は、マウスのように装置そのものを持って動かすのではなく、指先や手のひらを使ってボールだけをその場で回転させることで行う。似たような性質のものではトラックパッドポインティング・スティックなどもある。

その操作の特性上、腕全体を動かす必要がないため、操作のための広い面積も必要なく、机上の狭いスペースでも使えるほか、ノートパソコンに埋め込むような形でも利用されていたケースも存在した。

機器のある一部分に固定して設置できる事や、手の無い人、身体は思うように動かせないが、指先だけは正常に動かせる人など、身体障害者も利用可能な事から、画像診断装置(超音波診断装置など)のような医療用途の他、工業用や軍事用と公共施設に設置されているパソコンにも多く用いられる。

[編集] 操作性

トラックボールの操作感はマウスとは大きく異なる。 一般的に「トラックボールは使いづらいのではないか」というイメージが定着しているが、マウスからトラックボールに乗り換えて「もうマウスには戻れない」というユーザーも少なくない。

ボールの操作は、指をボールにつけたまま回すほか、ボールの慣性を利用して勢いよく回転させるような使い方もできる。大きなボールを備えたものは操作の正確性に優れCADなどのオペレーションにも利用されている。重量、直径が大きいものほど慣性を利用した用法に有利である。直径が小さい場合、解像度の高いディスプレイ上を動かすには不適であるが、パソコン上の設定から検知感度を変更することで対応することもできる。

トラックボールとマウスの操作性の大きな違いを比較すると、マウスではポインタを大きく画面の端から端まで動かす際に一度マウスを設置面から浮かせて別に位置に置き、また動かす必要があるが、トラックボールは指先の位置をすこしずらすだけで対応することができる。腕を大きく動かす必要性は無いため、肘や肩などにかかる負荷はマウスに比べて圧倒的に低く、長時間コンピューターを操作することの多い事務目的ならばマウスよりも圧倒的に身体にかかる負担は少ないと言える。

また、指先という極めて限定された部分の入力しか受け付けないため、ポインタのぶれも少ない。マウスならば腕や肘だけではなく、身体全体の動きが入力に影響してしまうこともままあるため、不意に身体を動かしたり、マウスから手を離す際、意図せずポインタがずれる現象が発生するが、トラックボールでは意図的に行わない限りめったに起こりえない現象である。

マウスが光学式になったのと同様に、トラックボールにも光学式のものが多くなっている。マウスではボールそのものが無くなったが、トラックボールの場合はボールの回転を光の反射で読み取るため、同じ形状ならば操作感に大きな違いはない。 メンテナンス性に関しては多少の差異がある。例えば、光学式では採光部分(CCDが球体の回転を読み取る窓)や球体支持部などへの定期的な掃除の負担が軽減される。

トラックボールの形状パターンには後述のようにいくつかの種類があり、これもまた種類ごとに異なる操作性を持っている。

[編集] ゲームとトラックボールの関係

慣れにもよるが、マウスに比べると素早く直感的にポインティングする事が不得意な一面もある。また、マウスとは違い、五本ある指のうち最もよく使う親指人差し指中指のいずれか一つもしくは手のひら全体を用いてボールを操作するという特性から、近年の高価な上位マウスに比較して多数のサブボタンを導入しにくいという欠点もある。トラックボールにもボタンが数多く付いている物があるが、通常良く使う3本指のうちいずれか一つが常にトラックボール操作に塞がれるため、マウスに比べれば使い勝手は悪い。上記のような理由から、トラックボールはハードコアにコンピューターゲームを利用しているユーザーからは敬遠されがちな傾向にある。

一方でトラックボールと関わり合いのあるビデオゲームは古くからあり、『ミサイルコマンド』や『マーブルマッドネス』、『アウトトリガー』といったトラックボールを操作系に採用したアーケードゲームも少なからず存在する。また過去にはアタリからコンシューマーゲーム機用のトラックボールが発売されていた事もある。しかし、こうしたトラックボールを用いたゲームは、ボールが回転する方向、速度などをゲーム性として利用した物が大半で、十字キージョイスティックのような操作をさせることを目的として導入されている事例はあまり多くない。手を放してもホームポジションやニュートラルポジションに戻らないという特性から、素早く的確に複雑なコマンド入力を必要と迫られる格闘ゲームなどにはマウスと同様に不向きなのも否めない点である。

[編集] 現状

ノートPC搭載のトラックボール(パナソニックのLet'snote)
ノートPC搭載のトラックボール(パナソニックLet'snote

過去にはマウスと並んでポインティングデバイスの代表格だったが、一般へのパソコン普及が加速し始めた頃には、既に主流はマウスに移っていた。ノートパソコンにトラックボールを採用する事例は少なくなかったが、本体の薄型化が進行するにつれて、ボールの直径が筐体の薄型化の阻害要因になること、ボールの直径を小さくした場合に良好な操作性を確保することが難しいこと等から、トラックボールを搭載する製品はほとんど見られなくなり、タッチパッドポインティング・スティックが主流となった。

現在ではマウスが標準となり、ノートパソコンからもトラックボールが消えてしまったため、目にする機会は少なくなった。しかし、現在でもトラックボールを好むユーザーは存在しており、有名企業を含むいくつかのメーカーから新製品がリリースされている。また、プレゼンテーション用の製品など、手で持ち上げて使うためのポインティングデバイスにおいては、現在でも小型のトラックボールを採用している製品が少なくない。

デスクトップ向け市場においてトラックボールを生産している主なメーカーはケンジントン・テクノロジー・グループサンワサプライロジクールの3社である。かつてはマイクロソフトもトラックボール製品を製造していたが、2006年に生産終了となった模様である。少数派と言えどもトラックボールは未だ根強い人気を保持しており、シャープのデジタルテレビパソコン「インターネットAQUOS」などのキーボードにも標準で搭載されている[3]

特殊なトラックボールとして「左手用トラックボール」という物もある。これはマウスやペンタブレットと組み合わせて、画面のスクロールや表示の拡大縮小などを指示し、ボタンに各種の機能を割り当てることによって、アプリケーションソフトをより素早く操作できるようにしたものである。これは「ポインティングデバイス」としての使い方ではないが、デバイスの構造は同様である。

[編集] 形状の種類

トラックボールは机にどっしりと設置するタイプの大きな物から、片手で持ったまま使える小型のものもあり、特に小型のものはプレゼンテーションなどの場面で利用されている。また、マウスは平たい場所で使用しなければ操作はほぼ不可能だが、トラックボールは可動面が天井を向いている製品が大半のため、ある程度固定された場所さえあれば、利用する場所は選ばない。

[編集] 手のひら操作タイプ

台座上面の中ほどに大型の球が載っているもの。大きな球の周囲にさらにボタンが配置されているため、大型の製品が多い。古くから存在するトラックボールの典型的な形状である。ボールは手のひらか、あるいは中指や人差し指の「はら」で転がす。ボールが大きく、そのぶん慣性も大きいので操作感がよいとして好む人々がいる。なお、この種の製品では「エルゴノミクスに基づいた設計」のものであっても左右対称(シンメトリー)で左右どちらの手でも操作できるものが多い。一般にボールの大きさは大きく慣性のあるものほど使いやすい。

[編集] 人差し指操作タイプ

一般的なマウスに似た形をしており、マウスならばボタンやホイールがついている部分に人差し指や中指の先で転がすためのボールが載っているもの。手のひら操作タイプに比較するとボールのサイズは小さめである事が多い。デバイス自体のサイズは通常のマウスか、それより少し大きいほどのサイズの製品が多い。手のひら操作タイプと同様に左右対称型の製品が多い。なお、この「人差し指操作タイプ」は前述の「手のひら操作タイプ」と操作感覚が近いため、この2種類を1つにまとめて分類する場合もある。

[編集] 親指操作タイプ

一般的なマウスに似た形をしており、ボタンやホイールも一般のマウスと同様の配置になっている事が多い。球はデバイスの左側面に配置されており、デバイスを右手で持った時に親指でボールを転がすように作られている。握り方やボタン操作の指はマウスを操作する場合と同じである。形状が左右非対称になっていて右手用のものを左手で操作することは難しいので、左右が反転した左手用のものもある。また、前述の2種のタイプに比べて操作感が大きく異なる。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

ウィキメディア・コモンズ

[編集] 脚注

  1. ^ トラックボールファンFAQ『トラックボールの歴史は?
  2. ^ oldmouse.comORBIT X-Y Ball Tracker
  3. ^インターネットAQOUS仕様書』によると、「入力装置 トラックボール(キーボードに内蔵)」とある。


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