ダル・セーニョ
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ダル・セーニョ(イタリア語:Dal segno、「目印から」の意)は、西洋音楽における、楽譜上の演奏記号の一種。この記号の箇所から目印()の箇所へと飛ぶ指示を意味し、時には「D.S.」と略記される。
目印は、“segno”の頭文字“S”を米印“※”のように注意しやすくデザインした“”の形で記されているのが通常のものとして現代においては定着しているが、古い時代の浄書譜においては、写譜家の装飾によってそれが様々な形に書かれたものが残されており、当時の目印は必ずしも決められたものでなくてはならないわけではなく、それだと無条件に認識できる目印が書かれている箇所があればそれで用は足りた。
[編集] 語源・歴史
当時の楽譜においては、イタリア語が共通語として書き添えられてきたが、これもイタリア語に由来する音楽用語である。イタリア語“dal”は“da + il”の結合型で、英語“from + the”に該当し、イタリア語“segno”は英語“sign”、すなわち「印」を意味する。したがって、この2語を合わせると、“dal segno”=“from the sign”、すなわち「目印から(演奏せよ)」という意味のイタリア語の書き込みにしか過ぎない。
クラシック音楽においては、古典派音楽の時代から徐々に、楽譜の一区間をそのまま繰り返すことを嫌い、音楽の進展をより求めるようになったため、この記号が用いられることは少なくなった。ロマン派以降においては、現代まで滅多に見かけることがないものであるが、ポピュラー音楽においては現在でもよく見かける一般的な記号である。
[編集] 用法
古い音楽の中には多く使用され、“da capo(ダ・カーポ)”では曲頭に戻る指示であるのに対し、曲頭ではない箇所に戻りたい時に使用される。繰り返した後は、“fine”(フィーネ=end)か、もしくはフェルマータ記号が記されている箇所において曲を終えることとされる。時に、“dal segno al fine”と丁寧に記されている場合さえもある。イタリア語“al”は“a + il”の結合型で、英語“to + the”に該当するため、“dal segno al fine”=“from the sign to the end”=「目印(の箇所)から おわり(と書いてある箇所)まで(演奏せよ)」という意味になる。
[編集] 特異な用例
サティによる「スポーツと気晴らし(挿絵とコメント付)」の第16曲目“Le Tango”(タンゴ)においては、曲尾から曲頭へと“”が付せられており(曲尾から曲頭へと戻るため、本来なら“da capo”(ダ・カーポ)を指示すべきだが、曲に「はじめ」(capo)を設けたくなくて、あえて“dal segno”にしたとも考えられている)、戻って繰り返しても“fine”(フィーネ)がないため、永遠に繰り返され、一旦弾き始めると底なし沼のように終えることのできない恐怖の曲とされている。題の下には彼自身によってフランス語で“Perpétuel”(永久の)と書き込まれ、曲中の各部分には「タンゴは悪魔の踊り。悪魔のお気に入りの踊り。妻も娘も召使いも、こうやって心を冷たくする。」とコメントが書きちりばめられている。
通常は、このように終わりがない曲にならないように、必ず曲の終わりを示しておく必要があることを注意しておかなければならない。