クリムゾン (色)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この項目では色について扱っています。閲覧環境によっては正しい色が表示されない可能性があります。 |
16進表記 | #DC143C |
---|---|
RGB | (220, 20, 60) |
CMYK | (0, 122, 73, 0) |
HSV | (348°, 91%, 86%) |
マンセル値 | - |
クリムゾンまたはクリムソン (crimson) は濃く明るい赤色で、若干青みを含んで紫がかる。彩度が高く、色彩環上ではマゼンタと赤の中間に位置する。
元は昆虫コチニールカイガラムシ(エンジムシ、学名 Dactylopius coccus)を乾燥したものから得られる染料の色であったが、一般的に赤い色を指し示すようになった。
目次 |
[編集] 語源
「クリムゾン (crimson)」という語は英語では1416年から使用されていた。初期には 「ケルメスの」、または「ケルメスに関係する」 (of or belonging to the kermes) の意である古期スペイン語の "cremesi" を取り入れた cremesin, crymysyn, cramoysin といった単語が使われていた(関連する単語として赤い服を意味する cramoisy が挙げられる)。その語は中世ラテン語でカイガラムシの一種 Kermes vermilio から採取される染料 kermesinus または carmesinus を示す cremesinus に由来し、さらに、その語源はサンスクリット krmi-ja から派生したアラビア語・ペルシア語の قرمز (quirmiz) である。krmi-ja はラテン語 vermis および英語 worm の語源でもあり、「虫(長虫、蠕虫)によって作り出された(赤い色素)」を意味する複合語である。「虫」 krimih と「作り出された」 -ja (インド・ヨーロッパ祖語の *gene-)の2節からなっている。赤の意で語源を同じくするものに古代教会スラブ語 (Old Church Slavic) の čruminu、ロシア語の čermnyj がある。ラテン語 carmesinus の短縮形 carminus はカーミン(カーマイン carmine)ともなった。朱色 (vermilion) も参照。
[編集] 染料
原料となる昆虫は地中海の国々で樫の木の一種ケルメス・オーク (Kermes oak) から捕集され、ヨーロッパ中で売られた。ケルメス染料はアングロスカンジナビアン・ヨークにおいて、埋葬の際に遺体を包む布などにみられた。コチニールの導入によって使われなくなった。これらの色素は品質や色の強さにおいてほとんど変わらないが、同等の効果を得るために、ケルメスはコチニールの10から20倍を必要とした。
アリザリン・クリムゾンは1868年にドイツの化学者カール・グラーベ (Carl Gräbe) とカール・リーベルマン (Carl Liebermann) によって合成された色素で、天然染料のマダー・レーキ(アリザリン)に取って代わった。アリザリン・クリムゾンはミョウバン(アラム)と結合させて用いる。オーカー、シェンナ、アンバーと混合しても色あせしない。
コチニールのメスを乾燥したものから採取される染料が、クリムゾン、クリムゾン・レーキ、またはカーミンと呼ばれることもある。一般には原料となる虫の名から「コチニール」という場合が多い。スペイン人エルナン・コルテスによるメキシコの征服の際に発見され、1500年代前期にヨーロッパへもたらされた。カーミンが初めて記述されたのは1549年のことで、マスィオリ (Mathioli) によるものである。
カーミンはカルミン酸のアルミニウム塩またはカルシウム塩であり、カーミン・レーキはコチニールからの抽出物をアルミニウム、もしくはアルミニウム-スズでレーキ化したものである。一方、クリムゾンレーキはコチニールを煎じたものにミョウバンと酒石酸カリウム (cream of tartar) の5%溶液を加えて作る。パープル・レーキの調整法はカーマイン・レーキとほぼ同じだが、酸化カルシウム (lime) を添加することによって深い紫色を出す。カーミン染料は比較的早く色あせする傾向を持つ。
食品添加物として、カーミンにはE番号 E120 が与えられている。ナチュラル・レッド4 (Natural Red 4) とも呼ばれる。
[編集] 一般的な用途
かつてはアメリカ州やヨーロッパで絶賛された。ミケランジェロの絵画や、軽騎兵、テュルク、英国兵や王室カナダ騎馬警察がまとう布地に用いられた。
今日では食品用の着色料、医療用途、および化粧品にはカーミンが使われる。油絵具や水彩絵具にも用いられている。
[編集] 文化
- イギリスでは伝統的に血の色と関連付けられており、それゆえ暴力、勇気、苦痛を連想させる色でもある。カーキ色の迷彩服が導入されるまではイギリス軍将校の制服に利用される特徴的な色であったが、現在ではその旗に残るのみである。実際にはヘモグロビンの赤はより暗く、彩度も低い。
- ポーランド語でクリムゾンに相当する karmazyn はマゼンタと同義語である。
- うさぎ座の変光星うさぎ座R星はその赤い色合いから 「クリムゾン・スター」 と呼ばれている。
- クリムゾンはいくつかの大学でスクールカラーに採用されている。ハーバード大学、セント・ジョセフズ大学、アラバマ大学、ワシントン州立大学、インディアナ大学、ユタ大学、オクラホマ大学など。日本では一橋大学などが挙げられる。
- ハーバード大学の日刊紙は「ザ・ハーバード・クリムゾン」、アラバマ大学のものは「ザ・クリムゾン・ホワイト」と呼ばれる。
- ハーバード大学の陸上競技チームの名は「クリムゾン」、アラバマ大学は「クリムゾン・タイド」である。
- デュポン・マニュアルハイスクールも1892年にクリムゾンを採用し、そのフットボールチームは「マニュアル・クリムゾンズ」として知られる。
- 三木谷浩史は上記の一橋大学・ハーバード大学にあやかって自身の資産会社に「クリムゾングループ」の名前を付け、さらに楽天イーグルスをはじめとする楽天グループのコーポレートカラーにもクリムゾンカラーを用いている。
- スティーブン・キングのフィクション小説『ダーク・タワー』シリーズには敵役としてクリムゾン・キングが登場する。彼は『不眠症』などその他のキングの小説にも登場する。ベフ・ビンセント (Bev Vincent) は著書『暗黒の塔への道』において、クリムゾンは病気、狂気、そして苦痛を象徴付ける色である、としている。
- アメリカ陸軍ではクリムゾンは陸軍武器隊の色である。
- 非営利法人であるギリシャ文字団体、デルタ・シグマ・シータ (ΔΣΘ) はクリムゾンとクリーム色をシンボルカラーとしている。
- コンピューターゲーム「ディアブロ」で「エルドリッチの祭壇 (eldritch shrine)」を使うと「クリムゾンと空色こそが太陽にふさわしい (Crimson and Azure becomes as the sun)」というメッセージが表示される。
この記述には、パブリックドメインの百科事典『ブリタニカ百科事典第11版』本文を含む。