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避暑 - Wikipedia

避暑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

避暑(ひしょ)とは、定住しているヒトが、1年の内のある期間を、居住地での暑さや強い日差しを避けて涼しい土地で暮らすこと。主に風物詩とされ、季語にもなっている。避暑のために赴く場所のことを「避暑地」と言う。一年中「避暑地」に住む場合は避暑とは言わない。

なお、対義語は避寒(ひかん)であり、居住地の寒さを避けて暖かい土地へ赴くことを指す。

目次

[編集] 概要

生まれてから死ぬまでの間、移住があまりなかった近世以前には、ヒトはその環境に合った能動汗腺数を持ち合わせていたため、避暑は必要不可欠のものではなかった。また、避暑に行くと本来の職場(農地)から離れることになり、また、本宅以外での宿泊は経済的な負担にもなるため、希望してもみなが実現出来るものではなかった。しかし、より快適な環境を求めて、王侯貴族は避暑を行い、国によっては行政機関である宮廷がそっくり避暑地に移動することも多々見られた。大航海時代となると、寒冷地である西欧からアジアアフリカ熱帯地域へ貿易のためにヨーロッパ人が移動したため、能動汗腺数と気候の不一致から各地で避暑が行われた。

日本では、開国後に欧米人の商人宣教師教師が移り住んだが、日本の気候と彼らの能動汗腺数の不一致から、各地で(外国人専用)避暑地が造られた。その後、日本人も富裕層が避暑を行い、一億総中流から庶民も避暑を行うようになる。冷房装置(エア・コンディショナークーラー)が普及した近年は、必ずしも避暑を行う必要がないが、長年培われた避暑の文化的背景や、地球温暖化を見据えたエネルギー消費低減のために避暑を行う例も見られる。

[編集] 体温調節

ヒトの体温調節は、随意的な避暑・避寒、冷暖房および服装の変更、そして、不随意的な表層末梢血管汗腺が行う。

[編集] 熱伝導

血管による体温調節は熱伝導を利用している。深部体内の熱を受けた血液が皮膚に至り、熱を放散させてまた深部体内に戻るという熱交換を行う際、暑いときには副交感神経によって血管が拡張し、より効率的に排熱が行われる。また、の末梢にある肺胞の表層血管においても熱交換は行われ、運動時などの急激な体温上昇では呼吸数が上昇して、効率的な排熱がなされる。

[編集] 気化熱

(水分)による体温調節は気化熱を利用している。皮膚表面の汗や肺胞表面の水分が蒸発する際に周辺組織や末梢血から熱を奪い、上昇した体温の冷却が実現する。汗を分泌する汗腺にはアポクリン腺(腋の下などに分布)とエクリン腺性器以外の全身に分布)があるが、排熱に寄与するのはエクリン腺の方である。

汗腺は全身に200万~500万個あり、平均は約350万個であるが、全てに活動性が見られるわけではなく、を出さない「不能汗腺」と汗を出す「能動汗腺」に分けられる。すなわち、汗の量は能動汗腺の数に依存している。平均能動汗腺数は、ロシア人で180万個、日本人で約230万個、フィリピン人で280万個とされる。

しかし、能動汗腺数は個体差があるものの遺伝子によって決定されるものではなく、生後2~3年間のその人の育った環境によってその数が決定されると言われる。暑い環境で育てば能動汗腺は増加し、逆に寒い環境で育てば増加しない。そのため、乳幼児期に冷房の効いた空間で育てられると、暑い気候の地方であっても能動汗腺数は少なくなる。能動汗腺数はその決定時期を過ぎると増加しないため、寒い環境で育った後に酷暑の地方で生活せざるを得ない場合、冷房装置がなかった現代以前に「避暑」は重要な生命維持の方法だったとも言える。

[編集] 季節移動

[編集] 行政機関

首都ごと避暑の例
その他

[編集] 野生動物

野生動物の季節移動には、海棲生物(魚類クジラなど)の回遊や飛行生物(鳥類昆虫)の渡りが知られる。季節移動をする理由には食物(水)、繁殖、気候の3つがある。最も大きいのは食物であり、その生物の餌となるものが年間を通じて同じ地域に豊富ではない場合に季節移動が見られる。また、ヒトと違って野生動物は定住しているわけではないため比喩表現に留まるものの、季節移動にはその野生動物の体温調節能も影響していると考えられ、「避暑」「避寒」の面も持ち合わせる。

[編集] 家畜

アフリカ中央アジアで見られる移牧や遊牧の例では、多くは草地を求めての季節的な移動であって「避暑」「避寒」ではないが、ヨーロッパの山岳地域において、高度差による気温差を利用して家畜を冬季はより暖かい麓の牛舎で過ごさせ、夏季には涼しい森林限界より高い山の草地で放牧する飼育法が見られる。これも家畜の餌に依存した移動ではあるが、乳牛は夏の暑さに弱いため生乳の生産量が夏に少なる傾向があり、より涼しい環境に「避暑」させることで生産量を増加させる経済的インセンティブがある。なお、牛乳の消費量は逆に夏季に高まるため、初めから夏季に涼しい土地で乳牛を育てて消費地に牛乳を移出するのが現代的な生産方法である。

[編集] 関連項目


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