空中浮揚
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空中浮揚(くうちゅうふよう)とは、重力に逆らって物体(特に固体)が空中にとどまること。大抵は重力以外の他の力によって支えられている。単に浮き上がっている状態は空中浮遊(くうちゅうふゆう)とも。
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[編集] 概要
空中浮揚は、何らかの物理学的な力の作用によって空中に物体がとどまること(移動している状態は飛行)で、それを支える力には様々なものがある。力学的に見た場合には落ちようとする力と飛び去ろうとしている力が釣り合っている状態にあるものをこう呼ぶ。
一般に物体が重力に逆らって空中に浮かび上がる力には、空気に対する浮力や、磁力どうしの反発力(→引力と斥力)が知られている。また神秘主義ないしサイ科学(疑似科学)の範疇でもしばしばこういった現象を観測したと称する報告もあるが、こちらは未検証である。
- 神秘主義の範疇ではオウム真理教が「教祖の浮揚」などと称した写真を公開していたが、後にヨギ(ヨーガの行者)が行う膝から上の足と背筋の反動を使った跳躍法の一種で、跳ね上がった際の瞬間を捉えて撮影された写真に過ぎないとして否定されている。
未検証ないし虚偽の神秘主義観に関するものや疑似科学のそれを除いた物理現象としては、先に挙げた磁力によるもののほか、磁場中の超伝導体が起こすマイスナー効果が知られている。磁場同士の反発では、空中に物体が固定される空中浮揚には、リニアモーターのように幾つかの磁場を調整して一定の場所に留めるようにしなければならないが、マイスナー効果の場合はピン止め効果の発生によって、磁場に対する反発力と超電導物質内の不純物に由来する常伝導が起こす支持力とによって「空中に固定された状態」が発生する。
玩具としては永久磁石による空中浮揚するコマ(→独楽)が商品化されている。磁石の内蔵された独楽を専用の台の上にプラスチック板を置いてその上でまわし、その後に少し持ち上げると空中にとどまって回転する。しかしそのように回すのはかなり難しい。独楽が台座からの磁力によって空中に固定される空間が限られており、それ以外の場所では逆に独楽が弾かれたり吸い付いたりしてしまうためである。
また静電場による反発効果を利用したイオノクラフト(英:Ionocraft)も掛けられた電圧強度にもよって浮遊することが知られている。
この他にはホバリングのように、物体から何かを噴射している状態もその噴射状態と物体に働く重力など他の力が釣り合っている場合には空中に静止しつづけることができるが、こちらは一般には「空中浮揚」とイメージされる範疇には含まれない。なお、ヘリコプターや垂直離着陸機ないしホバークラフトおよび噴射力を極めて精密に制御しているロケットなどがホバリングを行うことができる。
[編集] 架空の技術と空中浮揚
サイエンス・フィクションの範疇では、いわゆる反重力などが空中浮揚のための技術として位置付けられる。重力に反発する力ないし「上に向かって落ちようとする」ような逆方向に働く重力などとして描かれる。
ただ、実在する重力と逆方向に働く力を利用した技術に関しては、いわゆる静止衛星がちょうど落下する力と衛星軌道から脱出しようとする力の均衡状態で釣り合うことが利用されている。ただし静止衛星は所定の衛星軌道(静止軌道)から外れたり速度が変化すると、たちまち落ちてくるか衛星軌道から弾き飛ばされる(→人工衛星)。こちらは地上からの距離(約赤道からの高度約35,786km)があることもあり、一般にいうところの「空中浮揚」のイメージからもかけ離れている。
[編集] 奇術
いわゆる奇術(イリュージョン)の範疇では、空中浮揚は人気のある演目の一つである。ただしこれらは忌憚の無い言い方をすれば「タネも仕掛けもある手品」であり、実際には演劇のワイヤーアクションやフライング同様にワイヤーを使って人を吊り下げたり、舞台の下から棒を使って押し上げている。
しかし腕の良いエンターテイナーともなると、本当に不可思議な力で飛んでいるように見えるため、これは興行としても人気を博す。