硬貨
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
硬貨(こうか)は金属で作られた貨幣である。コイン(coin)ともいわれる。但し、経済学では硬貨とは「軟貨」に対する言葉として、ハードカレンシー(国際決済通貨)や本位貨幣を指すことばである。一般には硬貨はコインのことを表すので、この項目ではコインについて述べる。ハードカレンシーや本位貨幣については各々の項目を参照されたい。
かつてコインは基本的に金や銀の素材金属の価値と額面の差の無い本位通貨として鋳造されることが多かったが、現在では素材の価値と額面の差が大きい補助貨幣のみが専ら流通しているが、これは管理通貨制度のもとの不換紙幣を補完するためのものである。
目次 |
[編集] 形態
硬貨は一般的に丸い形をしている物が多いが、四角、五角、六角、七角、八角など多角形をしたもの(しばしば定幅図形となっている)、周囲を帆立貝状にしたものなどが流通しており、真ん中に穴を開けた物も、各国に存在する。この穴は、古来紐を通して保存する目的で空けられたが、現在のコインは小額であり小型であまりその有用性は重んじられていない。しかし、同じ大きさのコインの触感による弁別を容易にするため、この意味での穴の存在価値はある。流通を目的としない収集家向けの硬貨にはギターの形や国の地図の形など特殊な形態の硬貨も存在する。
周囲に溝が刻まれた硬貨は世界中に有るが、そもそもこの溝は原材料の不正入手を防ぐために生み出された発明である。昔ある国に、金貨の周囲を不自然にならない程度に鑢で削ってその削り滓を不正に手に入れるという犯罪が流行した[要出典]。その国では対策として、金貨の周囲に溝を刻み少しでも削ると目に見える変化が現れるよう金貨を改良した。現在の貨幣に見られる周囲の溝はこの対策の名残である。また、この周囲のギザは目の不自由な人にとって、硬貨の選別を行う重要な手段であり、現在のユーロ硬貨などでは、ギザギザのみならず、窪みや溝など額面によって判別が容易になるように工夫されている。
例えば日本の一円硬貨は製造費用が1円以上かかっており、製造すればするほど赤字となっている。だが、硬貨には金属確保の目的もあり、万が一金属が不足した場合のストックの代わりともみなされている[要出典]。
紙幣には番号が印刷されているが、硬貨は金属板を打ち抜いて作るため番号を一枚毎変えるには膨大な版型を必要とし、現実には不可能のため発行年度が刻まれる。かつ品質保持のため万が一、不良品が出た場合でも、解消の対応策がとりやすい。
[編集] 肖像
西洋ではコインには発行当事者の肖像を彫ることがローマ時代より行われた。肖像は為政者が変わっても貨幣価値には変わらず、回収されることはなかった。
今も君主国では現在の君主の肖像を刻むことが多い。また共和国では過去の大統領や歴史的偉人の肖像などが用いられる。近年では欧米でも肖像を用いない硬貨が増加している。
東アジアの伝統的な硬貨では肖像は用いられないが、清の末期に各地で製造された近代硬貨の中には、光緒帝の肖像を刻んだものが存在する。また袁世凱は中華帝国皇帝として自らの肖像を硬貨に刻ませている。中華民国も孫文や蒋介石の肖像を刻むことが多かった。日本では畏れ多いとして天皇の肖像が刻まれることはなかったが、明治初期の紙幣と昭和32年(1957年)の100円銀貨発行時に試みられたことはある。また原則として日本では天皇以外の人物の肖像が刻まれることもないが、1990年に発行された「国際花と緑の博覧会記念」の5000円銀貨には初めて花の女神フローラになぞらえた少女の肖像が刻まれた。モチーフ的にあしらった人物像ではなく、欧米諸国の硬貨と同様な大きく人物の肖像を図案とした硬貨は日本ではこれが唯一のものである。
[編集] 硬貨の材質
硬貨の材質としては古来より、金、銀、銅のいわゆる貨幣金属 (coinage metal) と称されるこの三種の金属が貨幣製造に用いられてきた。
- 金貨:本来は本位通貨制度上の本位貨幣であったが、現在発行されているものは全て補助通貨で、収集型金貨または地金型金貨である。
- 銀貨:かつては本位銀貨と補助通貨が存在したが、これも現在は全て補助通貨である。銀含有量も様々。
- 銅貨:純銅の物は少なく、殆どが青銅、黄銅または白銅貨である。
この他の材質として、アルミニウム、亜鉛、錫、などの卑金属、逆にプラチナやロジウム等の白金族元素の金属を用いた硬貨も存在する。
また、戦時下の非常事態の緊急硬貨として陶器や樹脂製の硬貨、郵便切手を代用した硬貨などが使用されたこともあった。
変わった例としてはアメリカの硬貨に代表される、2種類の金属をサンドイッチ状に貼り合わせたクラッドメタルといわれる素材を使用した硬貨も各国に存在する。
流通を目的としない収集家向けの硬貨には、クリスタル製のものや、宝石をはめ込んだ物など、単なる装飾品に近い硬貨もある。ただしこれらは全て法的に有効な通貨であるところが、メダルとは異なる。
[編集] 現代の高額面硬貨
日本の500円硬貨は、発行国内に広く流通している硬貨としては、2007年現在の時点では世界で最高の額面を持つ。このため、後述するとおり、過去に大規模な偽造・変造事件が発生している。
他の主要国において発行されている高額面貨幣(2007年10月8日現在で日本円換算100円以上)には、以下のものがある(高額な順1円単位は切り捨て)。
スイス | 5フラン硬貨 | 約490円 |
イギリス | 2ポンド硬貨 | 約470円 |
デンマーク | 20クローネ硬貨 | 約440円 |
ノルウェー | 20クローネ硬貨 | 約430円 |
欧州連合 | 2ユーロ硬貨 | 約330円 |
カナダ | 2ドル硬貨 | 約230円 |
オーストラリア | 2ドル硬貨 | 約210円 |
スウェーデン | 10クローナ硬貨 | 約180円 |
ニュージーランド | 2ドル硬貨 | 約170円 |
台湾 | 50ニュー台湾ドル硬貨 | 約170円 |
香港 | 10ドル硬貨 | 約150円 |
アメリカ | 1ドル硬貨 | 約110円 |
流通を目的とする硬貨として、世界で最高の価値を持つものは、メキシコ合衆国の50ヌエボ・ペソ硬貨であり、約530円の価値を有する。しかし、発行国であるメキシコ国内においても、この硬貨はあまり流通していない。また、かつてスペインの500ペセタ硬貨は、日本の500円硬貨が発行された当時は約700円の価値を有していた。同様にドイツの5マルク硬貨は約650円、スイスの5フラン硬貨が約700円の価値を有し、日本の500円硬貨を含めて四大高額硬貨となっていた。
流通を目的としない硬貨、例えば記念貨幣などでは、500円を超える高額面のものが、各国に多数存在する。
[編集] 硬貨の偽造・変造
硬貨は紙幣ほどではないがしばしば偽造・変造されることがある。また、金属価格の高騰あるいはインフレーションなどを原因とする貨幣価値の下落により金属資源として額面以上の価値を持つに至り、そのため溶解されてしまうこともある。
[編集] 日本
日本の刑法における硬貨の偽造・変造に対しての罰則は無期または3年以上の懲役[1]であり、国際的な相場から見ると重刑である。もっとも運用上は短期ぎりぎりの量刑とされることが多い。
また資源として転用するなどの目的で硬貨を損傷・鋳潰しすると、貨幣損傷等取締法により1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる。握力の誇示のために硬貨を折り曲げたりすることも罪に問われる。ただしここで言う貨幣に銀行券は含まない。
日本において起こった大規模な偽造・変造事件には次の2つがある。
一つ目は記念硬貨の 「天皇陛下(昭和天皇)御在位六十年 記念十万円金貨」の大規模な偽造事件がある。この硬貨は使われている金の価格が額面の10万円を大きく下回り、偽造貨を額面換金することで大きな利益が出せるため偽造対象となった。
もう一つは500円硬貨に関する変造事件である。韓国の500ウォン硬貨は日本の500円硬貨とほぼ同じ大きさで重さがやや重かった。500ウォン硬貨は500円硬貨に比べて価値が10分の1程度のため、500ウォン硬貨をドリルで削り、自動販売機で利用する事件が多発した。被害を受けて日本では平成12年に偽造され難いよう細工を凝らした別の材質の500円硬貨が発行された。
しかし、2005年2月、東京都、福岡県、熊本県の以上3都県の郵便局で大量の偽造500円硬貨が発見され、その総数は2万枚にも及んだ。日本郵政公社や警察による調べでは、硬貨の成分が本物と同じ銅やニッケル、亜鉛の合金が使用されているが、その割合が異なっており光沢がないことや文字や模様の一部が欠落していることなどが特徴とされている。
[編集] コイン収集
コイン収集とは古今東西のコイン(貨幣)を収集する行為であるが、紙幣を収集する行為もこの中に含まれることがある。西洋において、コイン収集は古くは王侯貴族の趣味であった。その当時はオリエントのコインやローマコイン等が収集の主な対象であったが、現在ではあらゆる種類のコインが収集対象となっている。
日本においては、江戸時代前期、寛永通寶の発行によってそれまで流通した多種多様な円形方孔銭が廃貨となり、それに伴って古銭収集が始まったとする説がある。文献では、早い例として、1694年に刊行された趣味全般の手引書『万宝全書』の一巻が古銭紹介に割かれている。同時代の大蒐集家として、丹波国福知山藩主 朽木昌綱(1750-1802)が知られている。
日本でのコインブームは1964年のオリンピック東京大会記念1,000円銀貨の発行が火付け役となった。しかしその後、趣味の多様化による蒐集家人口の減少に追い討ちをかけるように1986年の昭和天皇御在位60年記念100,000円金貨偽造事件が発生し、コイン収集離れが加速されることとなった。
現在では主に現行コインを年号別に収集する蒐集家が多く、平成12年から平成14年の間に造られた1円と50円は、製造枚数が少ないため、高プレミア付きで売買されている。
また、製造時に刻印がずれている「エラー硬貨」の蒐集家もいる。エラー硬貨とは刻印の2度打ち、蔭打ち、刻印の破損、また穴あき硬貨の場合は穴無しや、穴ずれなどいわば不良品の硬貨で、これらは検査の途中で取り除かれるのが普通だが、日本の場合、5円と50円は中央に穿孔する工程で穴の位置がずれた硬貨が時々流通に回り発見されることがある。
コイン収集はブームが下火になったとはいえ、根強いマニアは多く、東京や名古屋、大阪で毎年定期的に組合や大手業者の主催でコインの展示即売会が開催されている。特に5月に東京で開催される「東京国際コインコンベンション」には日本全国の業者はもちろん、外国の造幣局や業者も出展し、全国の蒐集家が集まる日本最大のコインイベントとして定着している。
コイン蒐集家にも、さまざまな人がいるが、「にわか蒐集家」といわれるブームに便乗したコレクターは、目的もなく現行コインや記念コインを収集しているが、本格的なコレクターには、たとえば寛永通寶だけとか、イギリスの銀貨だけとかの専門的な蒐集家が多い。なお、最近ではコインの世界にも切手と同様に国別コレクションからトピカル、テーマティクコレクションへの変化がおこっている。