直接民主制
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直接民主制(ちょくせつみんしゅせい、Direct democracy)とは、代表者等を介さずに、住民が直接所属する共同体の意思決定に参加し、その意思を反映させる政治制度である。対になる概念として間接民主制がある。
一般的には国民の国政に対する直接参加を指すが、広義においては地方自治体などの都市単位の決定を含む。また、国民投票(レファレンダム)と国民発議(イニシアチブ)の制度を以って直接民主制と指すことがある。
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[編集] 概説
多くは古代ギリシアの都市国家で誕生していった民主主義政治の原点ともいえる政治制度だが、国土や国民の肥大によって、困難となり代わって間接民主制が登場してくる。現在国家レベルでの直接民主制を実施している国は存在しない。(リビアが直接民主制を宣言しているが、実体はないと見られる。)スイスは議会が存在し間接民主制の制度を持つが、国民発議と国民投票が憲法上認められており、国民の直接参加の機会が大きく直接民主制の色彩が濃い。
現在ではスイスおよびアメリカの一部の州で行われており、先進諸国における住民投票等はこれに相当する。また、日本においては地方自治法第94条及び第95条による規定で町村総会の設置が認められており、八丈小島の宇津木村では1955年(昭和30年)に八丈村と合併するまで村議会が置かれずに直接民主制による村政が行われていた。
[編集] 長所
民主主義の原点であり、高い正当性を得られる。
制度の構造が単純。このため、国民の数が非常に少なくても運用できる。また、制度が歪められる余地が少なく、正当性を保ちやすい。
[編集] 短所
[編集] 無所属・小党乱立による政治の混乱
直接民主制は、代表者の数が国民と同数で全国1区・足切り無しの比例代表制の選挙制度を持つ間接民主制と等しく、この制度で代表者に当選するのに十分な最低得票数は僅か1票である。このため、どんなに小さな政党も代表者を送ることが保証される(ただ1人の国民が1党となりうる)ので、直接民主制は小党乱立の極限状態になる。このため、どの政策を行政府が採っても、過半数の支持を得られず成立できない法律が理論上必ず出るため、政策の一貫性を保てず、政治の混乱を引き起こす。
間接民主制では、党議拘束の存在や足切り条項の付加・区割り・小選挙区制の採用などにより、比例性を歪めて小党乱立を回避できる。しかし比例性が破れると代表者の集団から直接民主制の代替機能が損なわれるため、民主主義としての正当性を損なう。かといって比例性を維持すると、直接民主制と同様にこの問題にぶつかる。
行政と法体系はどちらも国家の最高意思を実現するものであり、片方が変化したならもう片方も他方に合わせて変化していなければならない。しかし現在多くの国で採られている制度では、行政府の更新と法体系の更新が別個に行われることが許されている。
例えば、議院内閣制の下では、国民は議員を更新することで、行政府と法体系の更新を同時に行っているが、議員自身は、内閣の選出(行政府の更新)と法案の採決(法体系の更新)を議会で別個に行う。大統領制に至っては、国民は行政府と立法府を別々の選挙で更新する。
これらの問題を回避するには、行政や法体系をすべて抱き合わせたもの(あるいは、改正前の行政・法体系との差分)を議決し、同時に更新すれば良い。
[編集] 意見交換・議論の困難
国土や国民の肥大により、全ての国民が1箇所に集まると多大な犠牲が生じるが、この問題はインターネットの発達により解決する目途がある。しかし、人間の情報処理能力の限界から、全ての国民の意見を聞くことは誰でも不可能であり、意見交換をしていない国民同士の組み合わせが必ず残る。このため、全ての国民が納得するまで議論を練り上げることは不可能である。
間接民主制では、全ての代表者が納得するまで議論を練り上げることが可能なように、代表者の数を調整できる。しかし、国民レベルでは直接民主制と同様である。
マスコミが間接民主制での代表者の議論と同じ役割を担うことがある。
[編集] 意見集約・決議の困難
国土や国民の肥大により全ての国民が1箇所に集まることは不可能なので、国民の身分と人口をきちんと把握していないと多重投票が行われ、どの政策を何人の国民が支持しているかを把握するのが困難になる。この問題を解決するには、しっかりとした住民登録制度(日本の場合、住民基本台帳)が必要である。間接民主制も、選挙を行うとき、この問題にぶつかる。