新方言
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新方言(しんほうげん)とは、日本各地の方言の語彙・文法のうち、比較的最近成立したものをいう。
- 共通語との接触による変化。
- 新語としての新方言。特定の地域で広まった新語のうち、共通語では別の語を使うか、対応する語がないもの。
の2つに分けられる。文法のレベルでは前者が、語彙のレベルでは後者が多い。
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[編集] 共通語との接触による変化の例
- 西日本に多い否定の助動詞「ん」の過去表現は本来「…なんだ」であるが、「ん」と共通語「…なかった」が交じり合って「…んかった」という形が生まれ、「…なんだ」に取って代わりつつある。 (例)知らなんだ→知らんかった
- 近年では同様に共通語「ない」の連用形「なく」と否定の助動詞「ん」を混合させた「んく」という新方言が広まりつつある。 (例)分からなくなった→分からんくなった(旧来の表現は「分からんようになった」等)
- ウチナーヤマトグチ。沖縄において、旧来の琉球語(琉球方言)が話せない若者が増える反面、琉球語(琉球方言)の影響を受けた共通語(あるいは共通語の影響を受けたもの)ともいうべき新方言が広がっている。
- ただし、琉球語(琉球方言)については方言か言語か、未だ議論が続いている。
- 「来ない」に相当する関西弁には「きやへん」から変化した「けーへん」(大阪)と「きーひん」(京都)があるが、「けえへん」と共通語「来ない」が合わさってできた「こーへん」という表現が若者を中心に広まっている。もとは神戸から広まりだしたともいう。
- 中部地方には打消の助動詞に東日本的な「ない(ねぇ)」と西日本的な「ん」を併用する地域がいくつかあるが、「…じゃないか」の「ない」が打消の助動詞と混同され、「…じゃんか」という形が生まれた。それが横浜を経て東京に伝播したことで一気に全国区となったが、伝播の過程で「か」が取れて「…じゃん」と短縮された形で敷衍した。
- 西日本各地では「する」の未然形は文語「せ」を用いるが、共通語文法の「し」と混同される例が増えてきている。 (例)せん→しん せないかん→しないかん
[編集] 新語としての新方言の例
- ケッタ - 名古屋弁で自転車を言う。名古屋を中心に東海地方の広い範囲で使う。「ケッタマシン」とも。全国的には「チャリ」又は「チャリンコ」に近い表現。
- 車校(しゃこー) - 名古屋弁・遠州弁で自動車教習所(自動車学校)を言う。
- 自練(じれん) - 沖縄弁(ウチナーヤマトグチ)で自動車教習所を言う。
- 死にかぶる - 熊本弁で難儀な目に遭うことを、若い世代がこの様に言う。
- …げん、…げんて、…げんろ - 金沢弁に代表される石川県の新方言。標準語/共通語では「…なのだ」「…なんだって」「…なのだろう」。古い用法(富山弁では今も使う)の「…がや」、「…がやて」、「…がやろ」が近畿方言「…ねん」の影響で変化したものと思われる。富山県でも氷見市などで一部使われている。一方石川県でも加賀市では元々「…がや」という用法が稀のためこちらも広がっていない。
サッカーの北信越リーグに「ツエーゲン金沢」というクラブチームがあるが、「強いんだぞ」という意味が込められている。 - パンザマスト - 千葉県柏市で、夕刻に防災行政無線で児童の帰宅を促す放送をいう。本来は防災行政無線機などを設置する柱(継ぎ足し式の鋼管柱)のことを指すが、市内の小・中学校で「パンザマストが鳴ったら帰宅」するよう指導するほか、市の広報でも以前は「パンザマスト(防災行政無線)」と記載していた。防災行政無線そのものを「パンザマスト」と呼称する市町村は柏市以外に大阪府松原市等が確認されている。参考
- …しない、…だしない - 長野県の長野市周辺で70年代頃に発生したとされる新方言。語源は古い松代藩方言の転訛(誤用)からの発生など諸説ある。勧誘ではなく、「…じゃない?」「…だよね(よね)?」という意味を持つ。
- 推量・意思をあらわす東北・関東の方言「べ」の用法が簡略化され、方言色が薄くなっている。 (例)よかんべ、よかっぺ、いいべ、いいっぺ→いいべ
- 越後・東北・関東で「しれ」「食べれ」のように命令形がすべて「れ」に統一される傾向がある。
- 近畿方言の影響を受けて、岐阜や四国や九州北部などでも「じゃ」が「や」に取って代わられつつある。
[編集] 参考文献
- 井上史雄・鑓水兼貴著『辞典 新しい日本語』東洋書林。ISBN 4887215320