射影
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
射影(しゃえい、projection)とは、物体に光を当ててその影を映すこと、またその影のことである。数学や物理学の文脈では、ベクトルなどのある方向成分を取り出す写像のことを射影あるいは射影子(射影演算子、射影作用素)という。
目次 |
[編集] 正射影
投影面に垂直な平行光線による射影を正射影(または直交射影、orthogonal projection)という。
例えば、xy-平面上で 点あるいはベクトル a = (a, b) を考えるとき、光源を y 軸の無限大の方向から当てるなら、x 軸上のA の影は (a, 0) である。これを、a の x 軸への正射影は (a, 0) であるなどという。同様に a の y 軸への正射影は (0, b) となる。このことは xyz-空間やさらに空間の次元を上げても同じで、(a1, a2, ..., an) が与えられれば、一つを残して全て 0 にすることで、正射影が求められる。
軸に向かっての正射影でなく別の直線への正射影も考えられるが、軸への正射影ほど簡単な表示が見つかるわけではない。その場合は、その直線を軸にするような一次変換を考えることもある。
[編集] 例
集合論的な射影の例として、直積集合 ∏λ∈Λ Eλ の元 x = (xλ)λ∈Λ に対し、ひとつの成分 xμ (μ ∈ Λ) を対応させる写像
を挙げることができる。これを μ 成分への射影 (μ-th projection) あるいは省略して μ-射影とよぶ。また、別の例として集合 X とその上に同値関係 ∼ を定めたとき、標準的に定義される X からその商集合 X / ∼ への写像
も射影と呼ばれる。ただし、ここで集合 [x] は x の属する同値類
である。この射影を(商集合への)標準射影 (cannonical projection) とよぶ。
第三の例として、内積 <·, ·> の定められた有限次元ベクトル空間 V 上で以下の条件
を満たす変換 P を考える。このような P も射影の例である。このとき、V 上の恒等写像を idV とすると、idV − P も V 上の射影となり、V は P の像 W = Im(P) と idV − P の像 W⊥ = Im(idV − P) との直和に分解される:
このような P を V の部分空間 W への正射影子あるいは直交射影子 (orthogonal projection) と呼ぶ。
ベクトル空間の直和の底空間は直積集合と
なる対応で同一視されるから、この第三の例は第一の例の特別な場合と見なされる。また同時に、この第三の例は第二の例の特別な場合でもある。実際、P に対して準同型定理を適用することにより W は商ベクトル空間 V / W⊥ と同一視され、P は V から商空間 V / W⊥ への写像
と見なされるが、商空間 V / W⊥ は V に「x ∼ y となるのは x − y が W⊥ の元となるとき、かつそのときに限る」として同値関係 ∼ を定めたときの商集合 V / ∼ に他ならない。
[編集] 射影子
物理学(特に量子力学)における射影演算子(しゃえいえんざんし, Projection operator )は、基底をとして、
で書き表される演算子。ここで、はブラベクトル、はケットベクトルであり、互いに共役である。またこれらは、
と規格化されている。 これから、
となるから、射影演算子は、
という性質を持つ。また射影演算子は、
を満たすことから自己共役な演算子である。ここで状態ベクトル(→波動関数)が、
と、完全正規直交系と、その展開係数であるΨiによって表されるとする。iは状態を表す指標である。全体の状態ベクトルから、特定の状態を取り出す演算子が射影演算子であり、状態iを取り出す射影演算子をPiとすると、
となり、ΨからΨiが取り出されている。但し、上式の計算ではΨiは単なる展開係数なので外へ出すことができること及び正規直交性
を用いた(これでi以外の状態は消える)。射影すべき状態としては、エネルギー準位や軌道角運動量などが挙げられる。
別の言い方をすれば、射影演算子は、状態ベクトル全体のなすヒルベルト空間において、その部分空間をHiとして、それに対応する状態Ψiが存在する場合、ΨiはHiへの射影であり、Ψに対し、
となるような演算子P(先に説明した性質も持つ)が存在する時、その演算子Pが部分空間Hiへの射影演算子である。